マンガ

2021年01月01日

ミシマ社から出た益田ミリさんの新作『今日の人生2 世界がどんなに変わっても』。むさぼり読みました。
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日常の些細なひとコマを類まれな感受性で救い上げた珠玉の短編マンガ集『今日の人生』の続編。

この第2巻も素晴らしいひとコマの数々で彩られています。


★昼下がりのレストラン。
「視野が狭いんだよ、あの人! もっと視野を広げないと!」と怒っている人の声がめっちゃ大きかった今日の人生。


確かにいる、こういう人。意見があるのは結構なことだけれど、自分を客観視できていない。翻って自分はどうだろうか。同じことを思われていないか、と思った今日の人生。

★花粉症で目がかゆいあまり、適当なカフェに入って濡らしたティッシュを目に載せて冷やしました。もう誰にどう思われてもいいと思った今日の人生。

私も花粉症ですが、そこまで目がかゆくなったことがない。でも気持ちはわかる。いまはマスクをするのが常識だし、コロナ以前でも伊達マスクなどマスクをしていても不審者扱いはされなかったけど、ずっと以前は電車でマスクをしていたら自分の両隣だけが空いているなんて珍しいことではありませんでした。時代は変わった。世界は変わった。と思った今日の人生。

★薦められて読む本は、自分で選んだ本とはまた違う読み方になってる気がします。自分自身が追うストーリーと、薦めていた人が落としていたであろう視線が本の上にはあるのです。

これもよく思う! 私は人から本を借りることはあまりないんですけど、読む本のほとんどは図書館で借りた本か古本屋で買った本なので、自分の前に誰かが目を通しているものばかり。だから線を引いていたり書き込みがあったりすると「ふうん、前の持ち主はこういうことを考えながら読んでいたのか」と参考になります。(もちろん図書館の本にそんなことをしてはいけません) 

★電車の中の小学生。
「クレオパトラの死に方は?」「毒蛇に自分をかませた」「グレース・ケリーの死に方は?」


すごいクイズ。しかも答えてる。でも何かこれ、実際に見かけた風景というより「作ってませんか?」と言いたくなった今日の人生。

★電車の中で親子が眠っていたんです。オトーさんの肩にぴったり頭をのせ、安心しきっている今日のことをこの子は憶えていないだろうけども、何かは残っているんだと思った今日の人生。

コメント不要。というかコメントしちゃダメ。何度も味わいたい名作。

★大評判の映画を見に行ってつまらないとき、作った人よりも面白いと言うてる人のほうに距離を感じてしまう。

これも私がいつも思っていることと同じ。ツイッター界隈で絶賛されている映画を見に行ってそれほどでもないと、絶賛している人たちと自分との間には深い深い溝があるような気がして淋しくなるのです。

★前を歩く年配の女性二人。
「質素でもいいからさー、あたし、三食違うものが食べたいのよ」


ある歌手が下積み時代は毎日三食カレーライスだったというのを聞いて「自分だったら絶対めげてる」と思った当方としては、わが意を得たり! な一作。

★会社帰りの女性たち
「明日朝早いんだっけ」「5時半起き。6時までゴロゴロ」ゴロゴロは必要だと思った今日の人生。


貧乏性なのか、いつもあくせくしてしまう私。もっとのんびりしたらいいのに。と自分で突っ込みながらも今日もあくせくしてしまう。無駄って大事。だから今日はたくさん昼寝した。自分をほめてあげたい今日の人生。

★カフェで聞こえてきたセリフ
「ようやく人生のウォーミングアップが終わりましたよ」


これはちょいと前にはやったマンガ『俺はまだ本気出してないだけ』みたいな感じですかね。私もこういうこと堂々と言えたら楽なのにニャ、と思った今日の人生。

★よく晴れた日曜日。充実した休日を過ごさなくてもいいんだな。と、どこかでホッとしている私がいるのでした。

これは2020年のコロナ時代に入ってからの作品で、充実した休日を過ごそうと思ったら三密もソーシャルディスタンスも守れない。だから……ということなんですが、コロナ以前以後に関わらず、私は大学に行くのをやめてからこっち、ろくな職種に就けないので給料は同世代よりかなり低い。社会的地位なんかないに等しい。だから仕事は生きるための仮の姿で、アフターファイブこそ本当の自分と思って生きてきた気がします。

だから「充実した休日を過ごさなきゃ教」という宗教にはまっていました。充実した休日を過ごすのがほとんど義務だった。益田ミリさんも同じ宗教活動をしていたようですが、コロナがそんな宗教を否定してくれた。人生、何が幸いするかわかりまへんな。

★「なぜ描くんですか?」というインタビューを受ける夢を見た。現実の世界で同じことを聞かれたら何と答えるんだろう? よくわからないけど「好きやから」しかないな、と思った今日の人生。

私も「なぜ映画を作りたいんですか?」「なぜ映画作りのなかのシナリオをやりたいんですか?」と訊かれたことがあるけど、そんなことを考えることにどれだけの意味があるのか少しもわからなかった。映画を作りたい衝動、シナリオを書きたい衝動を大事にしていればそれでいいと思っていた。とはいえ、夢破れたいまとなっては、もしかしたら真剣に考えておくべき問いかけだったのではないか。と思った今日の人生。


あと、この本にはマンガ以外に、作者の言葉がそのまま箴言集のように載ってるところがいくつかあります。

★冬の朝 水たまりの薄い氷 そっとはがした世界の部品

うーん、これはもはや俳句ですね! 五七五ではないけどいわゆる自由律俳句。何度も味わいたい一句。

★たったひとつだけ
どんなことでも
おまえの願いを叶えてやろう
魔法使いに言われたときは即答できる


私も即答できる。何をお願いするかって? それはヒミツです。

★テレビを見て笑った自分の声が
思った以上に楽しそうで
もっと聞いていたと思った
今日の人生。


これは未経験だけど、常に自分を他人として同時に俯瞰で見つめる作者の姿勢には共感するところ多々。

元日からこんな素敵な作品を読めるなんて、2021年は幸先いいスタートと言えそうです!


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2020年09月11日

『この町ではひとり』『きょうも厄日です』で大ファンになった山本さほさんの目下の代表作とされる『岡崎に捧ぐ』全5巻を読みました。


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面白エピソードの数々
①輝かしいマンガの裏には必ず隠れた名作がある。というのが山本さんと岡崎さんに共通する確信で、
読者投票の下位の作品に肩入れしてしまう。順位が上がっていると二人でガッツポーズ。

私なんか下位のマンガを完全にバカにしていたからなぁ。一流になれる人とはそういうところが違うのかな。


②中学は二人そろって剣道部(何と自己主張しない岡崎さんが山本さんを誘って入部)で、通称「山本を探せ」という遊びが流行った。剣道着を着たまま、いろんな部活の練習に参加し、迷惑がられるどころか馴染んでいたという。

私にはこのような野放図さがなかった。

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③優等生の森くんにとんでもない罰ゲームをさせてしまったこと。

森くんは「とても楽しかった」と喜ぶのだけど、やってはいけないことをやってしまったという後悔と自責の念にかられる山本さん。

似たような経験があるような気がするが思い出せない。


④イケてる女の子のグループに入れてもらって一時的に岡崎さんを裏切ってしまい、号泣して謝ったこと。

これは完全に同じような経験があるなぁ。といっても裏切った山本さんじゃなくて裏切られた岡崎さんと同じ経験。でも私は彼から謝られたりしなかった。その日を境にまったく喋らなくなってしまった。いま彼はどこで何をしているのか。そもそも生きているのか。もう永久にわからないのか。


⑤岡崎さんとのメール。まだネット黎明期だったからか、必ず電話で一報入れてからというのが面白い。しかもそのメールが「岡崎さんへ うんこ 山本より」だったりする。

子どもは本当にウンコとかオシッコガ大好き。私はいまでも好きだが。。。


⑥岡崎さんは常に眠い。人生に一度だけ朝起きて今日は眠くないと思った日があるとか。その日はいろんな人から「目が大きい」と言われたそう。

「人生で一度だけ眠くないと思った日がある」ってそんな人間がいるのか⁉ 爆笑。


⑦「わたし、山本さんの人生の脇役として生まれてきたんだと思う」

自分を主役だと思わない人間に初めて出会った山本さんの衝撃たるや。そしていま、自分自身を主役にしたマンガを描きながらも最終的に岡崎さんという無二の親友の素晴らしさが浮かび上がる、つまり、主役でなかった人間が主役以上に大きい存在になる作品をものした。


⑧高校の同級生は話が合わないと、球技大会の日に別の高校に進学した岡崎さんを呼んで体操服を着せてドッジボールを応援させた。岡崎さん居心地悪い思いしてないだろうかとチラと見ると、めっちゃ馴染んでて驚愕。自分が3年かかってできなかったことを岡崎さんは10分で達成した。

私も高校ではクラスに一人も友だちがいなかったからよくわかる。

岡崎さんは悩まない。(母親が3か月行方不明でも平気)
岡崎さんは怒らない。(山本さんに何をされても平気。むしろうれしい)
岡崎さんは変わらない。(怒りっぽかった妹は大人への階段を上がっているのに)

岡崎さん、岡崎さん、岡崎さん。


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最初は岡崎さんのほうが山本さんを必要としていたのに、いつの間にか山本さんにとって一番大きな存在になっている。そして変わらない岡崎さんもいつしか結婚相手を見つけ、山本さんはどうしようもない寂寥感に襲われる。

わかる。わかるぞ、その気持ち。


山本さんの焦燥
私は岡崎さんとの友情やバカ話も好きだけど、それ以上に山本さん個人の人生に対する焦燥感のほうに興味をもちました。

やはりこの『岡崎に捧ぐ』の20年間の一部を切り取った『この町ではひとり』を先に読んだのが大きいのかもしれない。

高校では周りの学力が低く、授業なんか聴かなくても高得点が獲れた。それで学校をさぼる癖がついたが、それを知ったお母さんが叱るよりも涙をぽろぽろこぼして泣き、何という親不孝者かと自らを責めた。それでもさぼり癖は治らなかった。

私も高校では登校拒否をしていましたからね。しかし、うちの親は私の心配よりも、息子が学校へ行っていないことを恥じる気持ちしかなかった。つまり「世間体」というやつ。私が世間体とやらを一切考えない人間になったのはこのときの経験が非常に大きかったと思っている。

だって、中学校くらいまでは、雨が降ってないのに傘をもっていったら笑われるだろうか、とか、周りの目をものすごく気にするごく普通の子だったんですよ。それがいまは周りの目なるものなど存在しないかのように生きている。おそらく私は全身全霊で両親を否定するために生きているのです。


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「一度何かから逃げたら、一生逃げ続けないといけないんだな」

美大受験を決めるもゲームばかりして不合格。そして関西へ逃げ、「この町ではひとり」状態となる。実家に逃げ、ニート状態を許してくれる母親に甘え、そして「このままでいいのか」という焦燥感にかられる。

私も同じような人生を歩んできたからよくわかる。

大学受験をやめた、そんな世界とは縁を切った、と言っているけれど、逃げたのかもしれない。
脚本家を目指すために撮影所を辞めた、と言っているけれど、逃げたのかもしれない。
シナリオからも逃げて、いまは小説を書いている。

逃げ続ける人生。でも一周回って何かに出逢うかもしれない。いまだに何にも出逢っていないが。


関連記事
『この町ではひとり』感想(島田紳助を思い出した)
『きょうも厄日です①』感想(幸運なのか、不運なのか)





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2020年09月05日

『深夜のダメ恋図鑑』最新の第7巻まで読みました。



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前回の記事
感想①女たちの痛快なブチキレ劇


セクハラ・性犯罪の本質
ダメンズとダメンズ・メーカーの女たちの物語ですが、今回第4巻から第7巻で一番印象的だったのは、第6巻の「斬新きわまりないセクハラ」ですね。

セクハラに「斬新」なんて言葉を使ったらいけないのかもしれませんが、へぇ~、こんなセクハラがあるの⁉ と驚愕しました。

そのセクハラとは……

主人公の一人である古賀円が駅のホームで電車を待っているとき、後ろに立っている男がケータイで話をしているふりをして、ずっと卑猥な言葉をつぶやいている。円に聞かせるように。

卑猥な言葉を口にすることが純粋に快感なのか、それを若い女に聞かせて反応を見るのが楽しみなのかは円にもわからなかったようですが、いずれにしても「他人を不快にすることで自分だけがエクスタシーを感じる、「そんなタイプの変態がいるんだ」と円はキモすぎて吐きそうだったと述懐するのですが、いやはや、私も想像しただけで何だかいやな気持ちになる。

私は男だし、実際にそういう現場に遭遇したわけじゃないから円ほどの嫌悪感はもてないけれど、こういうことをされて、でも誰にも言えず、精神に傷を負う人がいると思うと本当に反吐が出ます。

痴漢やレイプは性犯罪にカテゴライズされる犯罪だけれど、私はそれよりも何よりも「弱い者いじめ」だと思っています。力の弱い女を腕力でねじ伏せてほしいままにする、声を上げられない弱さにつけこんで好き放題する、それはとても卑怯なこと。性的な快感を得たいのではなく、弱い者を組み伏せることに快感を見出すのが性犯罪の本質だと思うわけです。

円の後ろで卑猥な言葉をつぶやいていた男も、結局同じですよね。

だって電車を待っているときなわけだから、そのあと同じ電車に乗るわけでしょ? もしかしたら家まで尾けてくるかも、という恐怖とも闘わないといけない。何とか撒かなければいけない。でも足の速さは男のほうが断然上。

実際に行っている行為は口を動かすだけだけれど、身体能力の高さを後ろ盾にしているわけです。女より筋肉の量が多いことが根っこにある。

そう、痴漢やレイプは「筋肉の量の男女差」というどうしようもない現実が根っこにあると思うんですよね。体の仕組みが違うのだからこれはどうしても解決できない。ならば男の意識を変えるしかない。男の意識を変えるには女が上手にキレなければいけない。


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前回の記事で、脳科学者の中野信子さんが「上手なキレ方を教えてくれるのが『深夜のダメ恋図鑑』」と紹介していたと書きましたが、円や千鳥佐和子のように思わず喝采を贈ってしまうキレ方をする女性が増えるといいなと思います。もちろん、われわれ男性も卑劣な同性に上手にキレることが大前提ですが。


いとおしいダメンズたち
痴漢男のような卑劣漢と違い、佐和子の元カレで典型的なダメンズの諒くん(ちょいとデフォルメされすぎの感はありますが)や、円の会社の取引先の市来という男などは、確かに「家事は女の仕事」「男に文句を言う女はかわいげがないからダメ」みたいな前時代的なことを平気で言うダメンズではありますが、少なくとも卑劣ではない。

だから、円は市来と映画を一緒に見るし、佐和子は佐和子で、諒くんが別れてもまだ自分をあてにすることに辟易しながらも、諒くんの今カノのところに一緒についていってあげたりする。

上記の痴漢男や、円の上司でとんでもないセクハラ部長などに比べたら、諒くんや市来がめちゃくちゃかわいいというか、最初は「何だこいつは」という腹立たしい気持ちで読んでいたのに、いまじゃだんだんいとおしくなってきたから不思議。作者である尾崎衣良さんの筆力は相当なものです。


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こういう設定の円ですが、市来がもしかしたら最初の男になるのか。
佐和子さんと諒くんの行く末は?

先が気になってしょうがないですが、7巻が出たのが6月なので、8巻は来年1月くらいでしょうか。

嗚呼、待ち遠しい。

円と佐和子の他に、八代という男と結婚しようとしている千代という女性がちょいと邪魔になってきました。もう円と佐和子だけで行ってほしい。勝手なお願いですが。






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