一話完結シリーズ

2021年08月25日

こんなナゾナゾがあります。

『刑事コロンボ』のコロンボ刑事
『太陽にほえろ』の七曲署の刑事たち
『部長刑事』の刑事たち

この三者のうち、もっとも推理能力に長けているのは誰か?

答えは『部長刑事』の面々。なぜかというと、『刑事コロンボ』は2時間、『太陽にほえろ』は1時間、『部長刑事』はもっとも短い30分で事件が解決するから。

同じく30分で事件を解決に導く『怪奇大作戦』。その考察シリーズ第5弾は第18話「死者がささやく」。


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第9話の「散歩する首」でも感じたことですが、とにかく物語の展開が速い。恐るべき速さです。いまなら2時間くらいかかるところを30分でやってのけてしまう。すごい。

脚本はいずれも若槻文三さん。天才ですね。

物語のあらましは、警視庁の田原という刑事が、同じく警視庁の下沢という警部補を殺した容疑で逮捕される。しかし、それは下沢が追っていた地下銀行の組織のしわざで、田原を犯人に仕立て上げたのだった。というたわいもないもの。

物語はたわいない。しかし「脚本」は素晴らしい。物語と脚本は違います。物語を編集する技こそ脚本の神髄です。

ファーストシークエンスのシナリオを採録してみます。


〇温泉町
 車の前に田原とその妻。
田原「さ、行こうか」
妻「ええ」
 二人、車に乗り込む。

〇海岸沿い
 ごつごつと不安定な足場を、田原が妻の手を取り先導する。
 二人、恥ずかしそうに手を放す。
妻「やっぱり来てよかったわ」
田原「無理して休暇を取ったんだよ」
妻「新婚旅行で来たときはあなたのお仕事で慌ただしかったけど、今度はゆっくりできるんでしょ?」
田原「一週間」
妻「あら、ほんと?」
 田原、笑みで答える。
妻「ほんとに素敵だわ」
 田原、煙草を吸って海を見つめる。
田原「!」
 海に男(下沢)の死体が浮いている。
 田原、煙草を落とし、死体の顔をよく見る。

〇クレジットタイトル
 田原、下沢の顔に苦悩の表情を浮かべ、逃げる。

〇新聞記事
 「他殺死体あがる。伊豆で消えた警部補」の見出し。

〇灯台下の林
 田原と妻が歩く。

〇吊り橋
 田原と妻が渡っていく。
妻「あなたが見た死体、他殺だったんですってね。警視庁の警部補って」
下沢の声「苦しい……苦しい……」
 田原、足を止める。
妻「どうしたの?」
田原「✖✖(聞き取れませんでした)」
下沢の声「俺はお前に殺された警視庁の下沢だ」
 田原、海を見下ろすと下沢の死体が浮いている。
下沢の声「どうして俺を殺したんだ」
 田原、妻を連れて戻ろうとして、足を止める。
 下沢が現れる。
下沢の声「苦しい。苦しいぞ」
 下沢、消える。
 田原、妻を連れて逃げる。

〇灯台下の林
 田原が妻を連れて走る。
 止めてあった車に乗り込もうとして、田原は悲鳴を上げる。
 後部座席に下沢の死体。
 妻が中を覗くと、死体はなく、後部座席が水でぬれている。
妻「あなた、シートに水が」
 田原、車の中を覗く。
 死体はない。
下沢の声「苦しい。苦しいぞ」
 田原、車の周囲に向かって声を上げる。
田原「誰だ!」
下沢の声「俺はお前に殺された警視庁の下沢だ」
 刑事が二人駆けてくる。
妻「あなた」
 田原、刑事たちのほうを見る。
刑事A「田原アキオだな。逮捕する」
田原「僕が何をしたって言うんだ」
刑事A「警部補殺しの容疑だ。ほら!」
 と逮捕状を見せる。
刑事A「さあ行くんだ!」
 刑事Bが田原の手を無理やりつかむ。
田原「待ってくれ! この前から妙なことがあるんだよ!」
刑事A「本部で聞かせてもらおう」
田原「いやだ! 僕じゃないんだよ! 聞いてくれよ!」
 田原は必至で抗い、妻も止めようとするが、刑事二人で無理やり連行していく。
 妻、険しい顔で後ずさる。

〇SRI・事務室
 所長、牧、三沢、さおりがソファでコーヒーを飲んでいる。
牧「今朝、護送の途中で脱走したんだ。ほら、例の警部補殺し」
 電話が鳴る。
 三沢が立とうとするが、所長が制して出る。
所長「はい、SRI」
田原の声「お願いします。世の中には同じ指紋の人間が二人いるってこともありうる。ね? もしもし。そいつを証明してください」
所長「どうしたんです?」
 牧や三沢が所長を注視している。
所長「もしもし、あなた、どなたです?」
田原の声「今朝脱走した警視庁の田原という者です。話を聞いてください。もう頼るところはSRIしかないんです」
所長「よし、あんたに会おう」


ここまでたったの5分少々。たった5分で、新婚の男が旅行先で死体の幻影に惑わされ、逮捕され、脱走し、SRIに助けを求めるまでが描かれます。驚異の一語です。

新聞記事だけで死体が警視庁の警部補だと視聴者に説明するところも素晴らしいですが、脱走のくだりを見せずに、牧(岸田森)のセリフだけで説明してしまうのがとにかくすごい。

いまならどうやって脱走したかを見せちゃうでしょ。でも、この物語は無実の男が脱走する話ではない。だから省略する。頭ではわかっていてもなかなかできることではありません。でもこの当時の脚本かはみんな普通にやっていたんですよね。

逮捕されて脱走した男が助けを求めてきて、所長が警察にそのことを言わずに会うことを了承するのもすごいですね。普通ならどうするか少なくともみんなで相談するか、それかやはり警察に言うかするでしょう。それが「世界の原理」です。

しかし30分しかないなかで導入部に手間取っている暇はない。だから「よし会おう」と即答する。それが「映画の原理」です。この「死者がささやく」の導入部は「世界の原理」に対して「映画の原理」が高らかな勝利宣言をした素晴らしいシークエンスです。

たとえ、指紋のトリックや下沢の声のトリックなどが陳腐でも、この導入部のスピードだけで後世に語り継がれるべきと考えます。


関連記事
考察①第3話「白い顔」(驚喜するもの=戦慄するもの)
考察②第7話「青い血の妻」(愛情と憎しみ、神と悪魔)
考察③第9話「散歩する首」(恐るべき速さ!)
考察④第16話「かまいたち」(わからないがゆえにわかる)


怪奇大作戦大全
双葉社
2001-09T




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2021年08月09日

『怪奇大作戦』考察シリーズ第4弾は第16話でシリーズ屈指の名作と言われる「かまいたち」です。(以下ネタバレあります。ご注意を)


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夜道を歩いている女が、尾行してくる男の影におびえて早足で歩きだす。橋の上まで来たとき、何が起こったのか、女の体はバラバラに切断されてしまう。

捜査の結果、刃物で切られたわけではないということまでわかっているのに、刑事の小林昭二は「痴情のもつれ」による殺人だと言い張る。「どこか別のところで殺して切断して橋の上に運んだんだよ」。

殺された女に恋人が10人もいたという事実から小林昭二だけでなく警察全体が痴情のもつれと思いこんでいる。「10人もいたらそりゃバラバラにもされるよ」と、いまでは絶対に許されないであろうセリフまで飛び出します。(私はこういうの嫌いじゃないですけどね)

SRIの調査では、犯人は現場、つまり橋の上の付近にいたことが判明します。どこか別のところで殺して運んだわけではない。

そのとき岸田森は、トラックの中から現場検証の様子を見ていた若い男を目撃します。このとき岸田森は直感します。「犯人はあいつだ」と。

この「かまいたち」が『怪奇大作戦』の中でも異色なのは、「科学」に重きを置いていない、というところにあります。いや、「科学を超えたもの」を扱っている。

SRIはSience Research Instituteの頭文字をとったもので直訳すれば「科学研究学会」、劇中では「科学捜査研究所」とされていますが、そのSRIが科学を超えたもの、決して科学では証明できないものに取り組むのがこの「かまいたち」の特色です。

確かに、殺人のトリックは科学的に明かされます。

人間のまわりを瞬時に真空状態にして、まるでかまいたちに切られたかのように一人の人間を一瞬でバラバラにしてしまう。しかし、人間のまわりをどうやって真空にするかという具体的な、つまり科学的な方法については完全に無視されています。ただ、そういうことは可能である、ということしか示してくれません。

では何がメインになるのか。

岸田森の「第六感」です。少しも科学的じゃない「勘」がメインテーマ。よく「刑事の勘」とか言いますが、刑事たちは被害者の身元を洗って事実関係から「痴情のもつれ」と判断するのに、岸田森やおそらく彼に好きなようにさせている所長も、彼らの本分ではない「第六感」をもとに捜査しています。

何しろ、犯人には動機らしきものがない。あるんでしょうけど誰にもわからない。

「動機なき殺人」という言葉が人口に膾炙して久しいですが、私が生まれる前からこういう恐怖は日本人みなが共有していたんですね。


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これはその動機なき殺人を犯した「ごく普通のおとなしい若者」の瞳です。

この茫洋とした目は、そういう事件を犯したと知って見るとそう見えるし、何も考えていない目だと聞いてみればそう見える。

クレショフ効果というやつですね。

岸田森は彼が働く工場の社長からどういう男か聞きます。「真面目でおとなしく、いつも何かにおどおどしてるような奴ですよ」という答えに、岸田森はますます「奴が犯人だ」と確信する。

後輩の松山省二はなぜ岸田森があんなごく普通の男を怪しむのか少しも理解できない。でも岸田森は、ごく普通の男だからこそ逆に怪しいと思う。なぜそう思うのかは、おそらく岸田森本人にすらわかっていない。

かまいたちは本当にある現象ですが、昔の人はいきなり頬がぱっくり割れたりするので、イタチのしわざだと固く信じていた。かまいたちがどういう現象か科学的に説明できるSRIの面々はそれを笑いますが、しかし、岸田森が囚われている「怪しくないからこそ怪しい」という逆説だってかまいたちみたいなものでしょう。科学的に説明できないのだから。

この若者自身もなぜ自分が人間をバラバラにする犯行に及んだのかまったく説明できないでしょう。説明できないからこそ彼は真犯人なのです。

わからないがゆえにわかる。わかるがゆえにわからない。

人間心理の本質を衝いた大傑作ですね。犯人を演じた俳優のキャスティングも素晴らしいの一語!


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