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2021年01月18日

香港ノワールの金字塔『男たちの挽歌』。

何度も見ている大好きな作品ですが、つい先日まで何度見ても「誰が主人公か」という作劇の基本中の基本がよくわからなかったんです。でも今回見直してみてよくわかりました。


①チョウ・ユンファ?
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『男たちの挽歌』といえばチョウ・ユンファといわれるくらい、この名優の代表作として知られています。多くの人もこの映画の主人公はチョウ・ユンファだろうといいます。実際、香港アカデミー賞で主演男優賞を取っています。しかしながら、助演にすぎないマーロン・ブランドが主演男優賞を取った『ゴッドファーザー』の例もありますし(詳しくは→こちら)同様にトラブルメイカー役にすぎないダスティン・ホフマンが主演男優賞を取った『レインマン』の例もあります。(→こちら)だから主演賞というのは少しもその役者が主役だったということの証しにはならないのです。


②レスリー・チャン?
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この映画が「兄弟の葛藤」を軸にした物語であることは誰の目にも明白です。兄貴がヤクザだと知った弟は兄に裏切られたと思い、しかも兄のせいで父親まで亡くしてしまう。「あいつを許してやってくれ」と言われるからよけいに許したくない気持ちが芽生え、兄貴のせいで警察官としての未来はなくなり、重要な仕事からも外される。

だから、兄ティ・ロンが弟レスリー・チャンに許してもらう物語なのか、それとも兄を許したくなかった弟が最終的に兄を許す物語なのか、という二つの考え方の間で揺れた結果、弟が兄を許す物語、つまりレスリー・チャンが主役なんじゃないか、と思っていた時期があったんです。

でも違いました。


③ティ・ロン!
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主役はティ・ロンです。画像から明らかなように、彼はレスリー・チャンとチョウ・ユンファの間で板挟みになっています。

いままで大事なことを見落としていました。チョウ・ユンファもまた彼の「弟」だということです。もちろん血のつながった弟ではなく「弟分」という意味。

ヤクザの兄を許さないレスリー・チャンのために足を洗おうとするも、ヤクザ世界の弟チョウ・ユンファはもう一旗揚げようとヤクザの世界に戻ることを迫ってくる。二人の弟の間で揺れる兄貴の苦悩を描いていたのですね。

弟といえば……

話の発端はティ・ロンとチョウ・ユンファが弟分シンの裏切りに遭うことでした。で、いまやシンが親玉になっている。シンが裏切りさえしなければティ・ロンは円満に足を洗うことができた。その弟分シンを殺すことで物語は決着します。

だから「二人の弟の間で葛藤する」というのは間違いですね。本当は「三人の弟」です。

弟分の二人は身勝手なことを言うだけで死んでしまいますが、血のつながった弟だけは最終的に兄の苦悩を理解し、シンを殺すための拳銃を手渡します。そして、逮捕。

せっかく心が通い合ったのに、二人をつなぐ物が手錠というのが何とも哀しい。

でも、あれはハッピーエンドですよね。殺すべき弟分を殺し、和解したかった弟とは和解するのだから。






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2020年12月30日

今年もいよいよ残すところあと二日。今日は映画の旧作ベストテンです。

しかし、映画を狂ったように見始めて30年たちますが、まだ未見の映画があるんですね。驚き。

では、以下、選んだ10本です。


①ブタがいた教室
②散歩する霊柩車
③i 新聞記者ドキュメント
④軍旗はためく下に
⑤ザ・レイプ
⑥ワン・フロム・ザ・ハート
⑦犯す女 ~愚者の群れ~
⑧明治侠客伝 三代目襲名
⑨君の鳥はうたえる
⑩おかしなおかしな大追跡


驚くべきことに、感想を書いたものが一本もないですね。ま、ビデオで見たものはもともとあんまり感想書かないんですけど。


『ブタがいた教室』は映芸ベストテンで脚本家の高橋洋さんが2008年のベストワンに挙げていた記憶(定かじゃないけど)。あれから10年余も未見のままだったとは。WOWOWが放送してくれなかったらいまだに見てないかも。おそろしや。

『散歩する霊柩車』はまだソフト化されておらず、日本映画専門チャンネルが放送してくれなかったらいつ見れていたか。

ということは、ソフト化も放送もなく埋もれたままの名作ってまだまだたくさんあるんだろうな。

フィクションの『新聞記者』は最低な映画だったけど、ドキュメンタリーの『i 新聞記者ドキュメント』は最高でしたね。監督の力量の差でしょうか。

『ワン・フロム・ザ・ハート』はコッポラなのに未見だったのが不思議。面白いとは思わなかったけど、美術や照明のデザインなどヴィジュアルが素晴らしかった。

明日発表する新作ベストテンで上位に来るであろう『アルプススタンドのはしの方』の城定秀夫監督の『犯す女 ~愚者の群れ~』が城定さん久しぶりの傑作でした。未見のものもあるけど、最近低調だった感じがするので。でも『性の劇薬』は体調不良で見落としたんですよね。ちょいと前から実践中の体質改善プロジェクトで見たい映画を逃さないようにしなきゃ。

『おかしなおかしな大追跡』はとても楽しかった。こういう普通に楽しいアメリカン・コメディが少なくなったと嘆く当方にとっては福音のような一本でした。


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しかし、『ブタがいた教室』はどこまで脚本に書かれているんですかね? あそこまで子どもたちの自然な演技を引き出せるのは不思議というか、ほんとにディスカッションやらせてるのかな。いずれにしても観客にとってはほんとに討論しているようにしか見えず、あれはすごいことです。

そして妻夫木聡のうまさ。原田美枝子もさすがの芝居。彼ら大人たちが脇を引き締めてこそ子どもたちの素の芝居が際立つ仕掛け。とんでもない傑作でした。

今年の旧作で再見してやっぱり傑作だったのはたくさんあります。

once ダブリンの街角で
仁義の墓場

エリン・ブロコビッチ
人間の約束
やくざの墓場 くちなしの花
陸軍中野学校
脱獄広島殺人囚
君も出世ができる
突破口!
ワイルド・ブリット
お嬢さん乾杯
ミリオンダラー・ベイビー
地獄の黙示録
ゴッドファーザー
ゴッドファーザーPARTⅡ
カナディアン・エクスプレス
乱れ雲
吸血鬼ゴケミドロ
ラ・ジュテ
パルプ・フィクション
スクール・オブ・ロック
ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序
ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破
ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q
三十九夜
攻撃
麻雀放浪記
さらば愛しきアウトロー
ラスト・ラン 殺しの一匹狼
ブラック校則
青春の殺人者
妻は告白する
バニー・レークは行方不明
サムライ
哀愁の湖



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ブタがいた教室
池田成志
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2020年11月25日

久しぶりに黒澤明監督『天国と地獄』を見ました。

最初がVHS、次が劇場、次がテレビで今回もテレビ。この映画については面白かったりそうでもなかったり、そのときによって見方がえらく変わるんですが、今回初めて感じた疑問点を記します。


「持つ者」と「持たざる者」
この映画の肝は、黒澤自身が言っていたように、

「脅迫対象者の子どもでなく、別の子どもを誘拐したとしても脅迫は成立する」

ということでしょう。そこから次の本当の肝が出てきます。

「三船敏郎演じる権藤常務は、いま使わなければ意味のない大金を身代金として支払ってしまい、会社を追放される」

最終的に身代金はほぼ全額返ってきますが、時すでに遅し。権藤は会社を追放され、邸宅は競売にかけられることが決定しています。

誘拐して脅迫するのは医学生の山崎努ですが、彼は夏は暑くて眠れない、冬は寒くて眠れないところに住み、丘の上の冷暖房完備の豪邸を見て憎しみを募らせて犯行に及んだと最後に明かされます。つまりこれは「持つ者」と「持たざる者」との葛藤劇なんですね。

なのに、その持つ者が他人の子どものために身代金を払うような情に厚い人間に設定していいのだろうか、という疑問が湧きます。


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三船は最初は「身代金は絶対払わない」と断言しますよね。出資者から募った5千万で、頑固者の社長やろくでもない靴を作って儲ければそれでいいと考える最低な重役たちから会社を守らなくてはならない。町工場の東野英治郎の言葉にあるように、三船は厳しいけれど一生懸命働く従業員のことをちゃんと見る目をもった人間で、株の買い占めをひそかに進めていたマキャベリスト的な側面もあるけれども、基本的に頑丈な靴とファッショナブルな靴は両立しうると考えるロマンチストであり、それを実行する力も技術もある。

三船はとてもいい人なのです。だから結局、情にほだされて身代金を払ってしまう。重役たちみたいに悪い奴じゃないし、三橋達也のように常にどちらにつくほうが得かを考える卑劣な性格でもない。一本気すぎるから敵が多いだけ。

だから、持たざる者・山崎努はなぜ三船の子どもを狙ったのか少しもわからない。運転手の子どもを誘拐したとわかっても「権藤さん、あんたは払うよ」と自信満々に言う。ということは三船が基本的にいい人であることを調査済みなわけですよね。重役連中だって同じぐらいの金はもっているわけだし、連中の誰かを狙ったほうがよかったのでは?

ただ、卑劣な重役たちがもし「運転手の子どもだから」という理由で身代金の支払いを拒否したら誰も被害者に感情移入しなくなります。だから脅迫された側が誰であろうと身代金を払うのは致し方ない。でもそうなると持つ者と持たざる者の葛藤劇というテーマが薄まってしまう。

だから、運転手の子どもを間違って誘拐してしまうという基本アイデアが誤りなんじゃないかと思うんです。自分の子どもであれば他の重役たちでも身代金は払うでしょう。自分かわいさだけの被害者と、そういう金持ちを憎む貧乏人という設定のほうがよかったように思います。エド・マクベインの「間違った子どもを誘拐しても脅迫は成立する」という斬新なアイデアにこだわりすぎたんじゃないでしょうか。


後半はすべてオフにすべきではなかったか
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今回この映画を見ていて一番痛烈に感じたのは、刑事たちが大活躍する後半をまるまるカットすべきじゃなかったか、ということです。刑事たちと犯人の駆け引き合戦は見応えがありますが、持つ者と持たざる者との葛藤劇というメインテーマと何の関係もないですから。


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しかもですよ、山崎努は共犯者の麻薬中毒者を殺したり、警察の罠にはまってまた別の中毒者を殺しますが、彼はドヤ街の中毒者たちからすれば「持つ者」ですよね。持たざる者として持つ者へ天誅を下そうとする人間が自ら持つ者として持たざる者を殺害する。それはないでしょう。いったいこの映画のテーマは何なのでしょうか。

だから刑事の活躍はすべてオフにする。彼らは二人のドラマに何の関係もないから。

そんなことより、三船が山崎努と同じように丘の下から自分の家を見上げる場面が必要だったのではないか。

自分が金持ちだから狙われた。しかし悪いことをやって稼いできたわけではない。と激昂するも、丘の下から自分の豪邸を見上げてみると、確かに醜悪な気がしないでもない。だからといって人の子どもを誘拐していいわけではない。とはいえ、自分も幼い頃は貧しかった。貧乏人の気持ちはわかる。しかし……というふうに三船のゆれる心情を丁寧に追っていったほうがよかったように思います。

そのうえで、ラストの山崎努の絶叫に言葉を失う三船の背中を見せられたら本物の感動があったと思うのです。


天国と地獄
三船敏郎
2015-04-22




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