テレビ

2021年09月10日

ダークサイドミステリー「美しき処刑人が見たフランス革命 理想はなぜ恐怖に変わったのか」がめったやたらに面白かった。


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王の直属の部下=被差別民
先祖代々「処刑人」という家柄に生まれたシャルル・アンリ・サンソン。ルイ16世につかえ、王と法を絶対視する彼は、裁判で処刑が決まった犯罪人を次々と刀剣で斬首していきました。パリの一等地に居を構え、弟子や使用人が合わせて30人、王室からもらう給料は当時の庶民の100倍もあったそうです。

しかしながら、当時、聖職者、貴族、平民というヒエラルキーがあったなかで、処刑人であるサンソンはそのどこにも属していなかった。ゆえに、どの階層からも差別される憂き目に。ある侯爵夫人がレストランで彼を自席に誘ったあとで処刑人とわかると、騙されたと言って裁判所に訴えたとか。自分から誘っておいて。高額の給料はその見返りだったわけですね。

というか、まだ給料が高いからいいようなものの、日本の穢多・非人などは牛馬の死体の処理をして皮革を取るなど必要不可欠な仕事をしていたのにいわれなき差別を受けていた。それはいまもそうですよね。屠畜業に携わる人は彼らの末裔ばかり。サンソンも死刑判決が出た犯罪人を処刑していただけ。誰かがやらなきゃいけないわけで、必要な仕事をしていただけなのにいわれなき差別の犠牲者に。王の直属の部下だったというのはこれも日本と同じですね。穢多・非人も天皇と直接つながっていたと何かの本で読んだことがあります。


Robespierre

ロベスピエールの斧=サンソン
フランス革命が勃発し、それでも王を処罰する法律はない。王は法を超越した存在。そもそもルイ16世は何も悪事に手を染めていない。王を処刑するなどもってのほかという王党派に対し、急進的なジャコバン派の棟梁ロベスピエールは「王の処刑なくして革命なし」と説いて投票の結果、王の処刑が決まります。

サンソンは王の命で処刑人をやっているのに、その王を処刑せねばならなくなった。その葛藤は如何ばかりか。サンソンはこういったそうです。「ロベスピエールは斧をふるうが、私は単なる斧である」。

王をはじめ、マリー・アントワネット、ダントンなどあまたの反革命分子を処刑する主体はロベスピエールであり、自分はその道具にすぎない、と。ロベスピエールに対する反感はあったでしょうが、それが法が定めた結果ならと、サンソンは黙って従う。多いときは1日に50人も処刑したそうです。その頃にはギロチンが発明されていて、サンソンはロープを引いて離すだけでよかったらしいですが。

それにしても、そんなにたくさんの人間を直接手にかけているのはサンソンであり、よく精神がもったな、と思う。「法」というものはそれほどサンソンにとって大きい後ろ盾だったのでしょうか。それがたとえ政敵を葬るだけの悪法だとしても。

しかし、そのサンソンでさえ、ロベスピエールがすべての政敵を葬るために作った「プレリアール22日法」には従うのが苦しかったようです。プレリアール22日法とは、証人尋問や被告側の弁論なしで陪審員の心証だけで判決を下す究極の「恐怖政治法」。刑罰は死刑のみ。しかも有罪となれば被告のみならず一族郎党すべて有罪。愛人や愛人の召使まで処刑されたといいますから苛烈そのもの。ロベスピエールは暗殺未遂などがあって保身のために必死だったのですね。

サンソンは、有罪人の愛人の召使の年端もいかない女の子がギロチンにかけられるときの「あなたたち、本当にこれでいいのですか」というつぶやきに激しく心を動かされたとか。それでもやっぱりサンソンは法に殉じ、斧であることに徹して彼女を処刑する。

そして結局、ロベスピエールもクーデターによって有罪となり、サンソンが処刑しました。


生き死にが「政治」になった時代
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サンソンは、彼がギロチンにかけた人々の最期の姿を克明に日記に記していたそうです。

そのなかでとても興味を惹かれる一節がありました。

「かつて私が牢獄の中に入っていくと、みんなうろたえ、嘆き悲しんだものだった。それがいまでは、私に微笑みかけてくる者さえいる」

ロベスピエールによって無理やり反革命分子にされた活動家たちには、己の最期を余裕のある毅然とした態度で飾ることでロベスピエールを嗤ってやろうという意思があったと思われます。

だから死ぬことが恐いくせに恐くないふりをし、処刑人サンソンにさえ微笑みかける。処刑の際にどう振る舞うかを政敵との駆け引きにしているのです。自分の生き死にさえ「政治」にせざるをえない。それが自由・平等・友愛を掲げたフランス革命の末路、恐怖政治というものの正体だったのかもしれません。

サンソンはあまたの人間を処刑しましたが、誰も彼を「王の手先」とか「ロベスピエールの傀儡」などと非難する者はいませんでした。当然、裁判にかけられることもなかった。でも私はそれはちょっとかわいそうな気がします。

なぜなら、それこそ彼が差別の対象だったことの証しだからです。同じ「市民」として見られていない。もちろん、裁判にかけられていたら間違いなく有罪でしょう。でも、もしかしたらサンソンは心の底ではそれを望んでいたのではないか。いずれにしても、市民と見られていないがゆえに、フランス革命の中心にいてその成り行きをつぶさに見てきたにもかかわらず、革命の主体にも客体にもならず、ただ傍観者として見つめたのみ。

先祖代々処刑人という家柄と法に殉じた男、シャルル・アンリ・サンソン。その心の闇は如何ばかりだったか。例の日記はくだんの召使の女の子を処刑した10日後に突然終わっているとか。その後も少しだけ処刑人として仕事をつづけたあと、息子に代を譲って引退。10年ほど庭いじりなど余生を楽しみ、死去。

彼の日記(サンソン家回顧録というそうです)を読みたいと思わせる良質な番組でした。





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2021年09月03日

BSプレミアム『ダークサイドミステリー』の「なぜ人は陰謀論にハマるのか? ~イルミナティからQアノンまで250年~」をとても興味深く見た。


陰謀論とは
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何か悪いことが起きると「それは巨大な悪の組織が裏で操っているのだ」などと考えるのが陰謀論ですが、番組ではそのメカニズムが紹介されていました。

①社会に不思議・理不尽なことが起きる
②「定説」に対して疑問を感じる
③「巨大な組織の陰謀」で筋が通る
④同じような怪しい情報が集まる

すべての陰謀論はこれで説明ができてしまうらしい。

たとえば、9・11はアメリカ政府の自作自演だという陰謀論を例にとると、

①ハイジャックされたジェット機が貿易センタービルに突っ込み多大な犠牲者が出る。
②あんなに簡単にビルが崩落したのは上のほうが崩れたとき、下の階が重みに耐えきれなくてドミノ倒しのように崩れたから。という定説を疑う人々が出てくる。「あの崩れ方はビルの解体工事と同じやり方」との言説が出てくる。
③「テロじゃなくて政府がそう見せかけているのよ」という陰謀論登場。

となる。④については、20年前当時はSNSとかなかったし、どうやって同じような情報が集まったのかよくわかりませんが、口コミですかね?


アメリカで陰謀論が盛んな理由
陰謀論はいつの時代でもどこの国でもあっただろうし、いまでもあるでしょうが、アメリカで最も盛んに喧伝されている気がします。

しかしなぜアメリカなのでしょう?

出演していた学者二人のうち一人がなるほどと思うことを言っていました。

「そもそもキリスト教が陰謀論ですから」

キリスト教は「もうすぐ世界の終末が来る」と喧伝して世界に広まった。そして2000年間、終末はまだ来ない。確かイエスはそんなこと言ってませんよね。彼は敬虔なユダヤ教徒でユダヤの教えを誠実に布教しようとしただけ。犯人はパウロかな? キリスト教は別名「パウロ教」とも言われるし、「パウロなくしてキリスト教なし」とも言われるほど布教に務めた。

しかし、キリスト教を信奉する国なんて世界にいくらでもあるし、なぜアメリカでだけそれほどキリスト教の終末思想が色濃いのかという説明は何もなかった。プロテスタントが多数派なんでしょうけど、カトリックもいれば、よく知らないけどメソジストとか福音派とかいろんなマイナーな宗派が混在しているらしく、そのへんも影響してるんでしょうか?(⇐ほとんど映画で学んだ知識)

それに、終末思想といえばわが日本にも鎌倉時代に元寇があったりで末法思想が幅を利かせた。あの頃の日本にもやはり陰謀論とかあったんでしょうか?

アメリカで陰謀論が盛んな別の理由は、「アメリカは人間がすべてを設計し、計画してできた国だ(と誰もが思っている)から」というものらしいです。

このへん、岸田秀先生が『ものぐさ精神分析』で触れてたような気もするけど、とにかく、すべて自分たちの思い通りの国にしたと思いこんでいるから、自分たちの意思に反した都合の悪いことが起きると、「何か巨大な悪の組織が関与しているのだろう」と考えやすい、と。これはわかりやすい。


イルミナティ
アメリカが独立宣言をしたのとほぼ同じころ、ヨーロッパのバイエルンでは啓蒙思想を背景にした秘密結社「イルミナティ」ができる。フリーメイソンとどこが違うんだろうと思ってたけど、何とフリーメイソンに似せて作られた組織だとウィキペディアに書いてありました。

番組で語られていたのは、フランス革命に影響を及ぼしたとされるが、実はイルミナティが解体させられた後にフランス革命が起こったのが真相だということ。それ以上のことは忘れました。なぜならそのあとに出てきた情報が強烈すぎて。


ハトボット陰謀論
ジョン・F・ケネディ暗殺に関して、すぐ逮捕されたオズワルドが暗殺されたり、数年後に発表されたザプルーダー・フィルムに定説を覆す暗殺の瞬間の様子が映し出されていたりして、「CIAが主犯だ」という陰謀論が出た。

その他、いろんな陰謀論が紹介されましたが、腹を抱えて笑ったのがこれ。


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何と、すべての生身のハトが機械のハトにすり替えられていて、その機械のハトが市民の言動をすべて監視して、データをCIA本部に送っているというから面白い。

画像にあるように、ハトが電線に止まっているのは、充電するためと、データを転送するために動きを止めないといけないから、とか。

アメリカ人と十把ひとからげにするのは差別につながるとは思うものの、それでも「アメリカ人ってアホやなぁ」と思ってしまいます。


21世紀の陰謀論
番組では、トランプが当選した2016年の大統領選挙のピザゲートや、Qアノンを取り上げていました。

Qアノンとはが、2017年に登場した正体不明の人物で、SNSでQとというハンドルネームで陰謀論を展開し、その書き込みをアノン(=anonymous(アノニマス)の略語で「匿名の人物」を意味する)が広めたとか。まだQが誰かは明らかになっていない。いまではQ以外の複数の人間がQを名乗って陰謀論を展開しているとか。

ところで、番組では触れてませんでしたが、いま現在の陰謀論ってありますよね。

「陰謀」という言葉は適切ではないかもですが、コロナワクチンに関するデマ。

先ほどの公式に当てはめてみると、

①新型コロナウイルスが猛威をふるい、多くの人が感染し、死に至る。
②ワクチンを打てば感染も重症化防げるとの定説に対し、「ワクチンを打っても死んだ人がいる」という事実がもちだされ、「ワクチンって意味があるの?」との疑問が生まれる。
③ワクチンを打つと見せかけて、巨大組織の陰謀でマイクロチップを埋め込まれるとのデマが流れる。
④SNSで似た情報がどんどん入ってくる。

③に関してはマイクロチップなら陰謀論になりますが、不妊になるとかそういうデマは陰謀論ではないですね。巨大な悪の組織が関与してないから。陰謀ではなく不安を煽っている。別の番組の情報では、不妊になるというデマを流しているのはコロナ治療薬を開発している製薬会社の人間らしいですが。ワクチンで患者がいなくなると儲からなくなるからとかで。ホントかウソかは知らない。

いずれにしても、SNSが発達したいま、④で集まってくる同じような情報の量が膨大なのが何よりの問題ですね。

それに、出演していた学者さんも言ってましたが、

「昔は新聞やテレビをつけると、自分が見たい情報も見たくない情報も目に入ってきたんですね。でもいまは自分の見たいものしか見ようとしないし、それが可能。どんどん視野が狭くなってしまう」

情報があふれている時代だからこそ、我々は情報を選別しなければならない。しかし情報量が多すぎてどれが本当かわからない。そこに巨大な悪の組織が……というこじつけによってすっきり筋が通ると、コロッと行っちゃうんでしょうね。

私は基本的に陰謀論なんか信じてないし、ハトボットなんか噴飯ものだと思うけれど、でも何かの情報、どこかの組織(テレビ局、ニュースサイト)が流す情報を信じている。ツイッターでもフォローしている人のうち「この人は信用に値する」と信じ込んでいる。

陰謀論はともかくとして、情報を選別する段階で誤った情報を信じている可能性はある。↑私もウィキペディアに書いてることを鵜呑みにしている。これではいけない。

誰の言葉もどんな事例も「批判的に」見なければいけない、との思いを新たにしました。


陰謀のセオリー (字幕版)
キルク・カザート
2013-11-26





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