その日の気分では「最も好きな映画」と言って過言じゃない西部劇『ウエスタン』を再見しました。ちょっと前に『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウエスト』という原題のままの邦題でリバイバルされましたが、私は元の『ウエスタン』で通します。(以下ネタバレあり)
『ウエスタン』(1968、アメリカ・イタリア)

原案:セルジオ・レオーネ、ダリオ・アルジェント&ベルナルド・ベルトルッチ
脚本:セルジオ・ドナーティ&セルジオ・レオーネ
監督:セルジオ・レオーネ
撮影:トニーノ・デリ・コリ
出演:クラウディア・カルディナーレ、ヘンリー・フォンダ、チャールズ・ブロンソン、ジェイソン・ロバーズ、ガブリエル・フェルゼッティ、フランク・ウォルフ
主人公は誰?
この映画の主人公は誰でしょうか?
チャールズ・ブロンソン!
という答えが即座に返ってきましたが、本当にそうでしょうか。
だって『ウエスタン』は復讐映画じゃないか。
これも誰もが言いますが、本当にそうでしょうか。だって、この映画が復讐映画であることは、復讐が遂行されるまさにそのときにわかることです。最終盤です。復讐が成るか成らずか、と手に汗握って見守るということがない。
チャールズ・ブロンソンがヘンリー・フォンダに味方するシーンなどは初めて見る人は「この男は何が目的なんだろう?」と頭にはてなマークが点灯してますよね。
整理しましょう。
登場人物

・チャールズ・ブロンソン(ヘンリー・フォンダに復讐しようとしている男)
・ヘンリー・フォンダ(かつてブロンソンの肉親を殺し、今度は資本家ガブリエル・フェルゼッティの手先として殺し屋をやっている)
・クラウディア・カルディナーレ(婚礼のまさにその日にヘンリー・フォンダによって相手フランク・ウォルフを殺される)
・ジェイソン・ロバーズ(クラウディア・カルディナーレに鉄道敷設をすればいいと知恵を吹き込む男)
・ガブリエル・フェルゼッティ(西へ西へと鉄道敷設を企む資本家)
・フランク・ウォルフ(ガブリエル・フェルゼッティの命によりヘンリー・フォンダに殺される一家の父。クラウディア・カルディナーレの婚約者)
こうして見るとわかるように、復讐は物語の周縁のエピソードにすぎません。中心を占めるのは「鉄道敷設とそれに伴う殺し(地上げ)とそれに負けまいとする女と女に味方するチャールズ・ブロンソンとジェイソン・ロバーズの物語」と言えるでしょう。
時系列でこの物語を解体するなら

①チャールズ・ブロンソンの肉親がヘンリー・フォンダに殺される。
②フランク・ウォルフがニューオーリンズの娼婦クラウディア・カルディナーレと出会い、婚約する。
③フランク・ウォルフが土地を買うが、その土地はガブリエル・フェルゼッティが鉄道を通そうと目論んでいた場所であった。
④ガブリエル・フェルゼッティはヘンリー・フォンダに命じ、フランク・ウォルフの土地を奪うべく、彼ら一家を皆殺しにさせる。
⑤しかしフランク・ウォルフはまさにその日に婚礼の予定があり、ニューオーリンズからクラウディア・カルディナーレがやってくる。婚礼の日が葬式の日になってしまったが、クラウディア・カルディナーレは強くその土地で生きていこうと決意する。
⑥ガブリエル・フェルゼッティはヘンリー・フォンダ一味を使ってクラウディア・カルディナーレを付け狙うが、彼女はジェイソン・ロバーズとチャールズ・ブロンソンの入れ知恵で土地を5000ドルで売る。
⑦ヘンリー・フォンダが5001ドルで買い戻したいと申し出るが、チャールズ・ブロンソンは1ドルの酒を飲み5000ドルで承諾する。
⑧山賊一味の攻撃でガブリエル・フェルゼッティは殺される。
⑨チャールズ・ブロンソンがヘンリー・フォンダ相手に復讐を果たす。そして土地も奪い返す。
⑩鉄道工夫に囲まれながら、クラウディア・カルディナーレが現場を切り盛りする。その手前でジェイソン・ロバーズは死に、向こうの道をチャールズ・ブロンソンが去っていく。
ということになりましょうや。
やはり、復讐は周縁にしかなく、中心にあるのは鉄道敷設です。
鉄道が中心にあるなら、この映画の中心人物はガブリエル・フェルゼッティ演じる資本家じゃないでしょうか。
ヘンリー・フォンダとの会話で、こんなことがわかります。
ヘンリー・フォンダは銃弾と肉体が武器。資本家は頭脳と札束が武器。
でも、時代は馬に乗って無法なことをやって生きていけるものではなくなりつつあります。『明日に向って撃て!』と同様、この映画で謡いあげられるのは、「西部開拓時代に取り残されたガンマンたちへの挽歌」でしょう。
チャールズ・ブロンソンはヘンリー・フォンダに勝ちました。そして主要人物の男では唯一死なずに舞台を後にします。でも、そんな彼も「あいつのようにはなれない」とガブリエル・フェルゼッティの資本家のことを語ります。「ビジネスマンにはなれない」。それはヘンリー・フォンダも同じです。
肉親を殺されたチャールズ・ブロンソンにとって、ヘンリー・フォンダは不俱戴天の仇です。だから復讐するのですが、復讐譚の前に明らかになるのは、彼らは結局「同じ穴のムジナ」ということでしょう。
死にはしたけど、資本家ガブリエル・フェルゼッティの夢は潰えず、鉄道はどんどん西へ延びていきます。
工夫たちは、拳銃からツルハシに武器を持ち替えて敷設に精を出します。
ヘンリー・フォンダが拳銃と肉体の男だったことを思い出せば、彼らはみなヘンリー・フォンダやチャールズ・ブロンソンの子どもたちです。
資本家は頭脳と札束を標榜しました。それが活きる時代になったのです。馬と拳銃の時代は終わった。そういえばこの映画には「馬」がそれほど出てきませんね。どうしてだろう?
蛇足
①この頃は映画にしてもテレビドラマにしても、「ブルーカラーの映画が少なくなった」と嘆いている私ですが、この頭脳が勝利を収める『ウエスタン』はそれを予言していたといえばオーバーですかね。
②『七人の侍』なら「勝ったのは女と工夫たちだ」というところかもしれませんが、セルジオ・レオーネはそんな無粋なことはしません。そういうところも好きですね。
『ウエスタン』(1968、アメリカ・イタリア)

原案:セルジオ・レオーネ、ダリオ・アルジェント&ベルナルド・ベルトルッチ
脚本:セルジオ・ドナーティ&セルジオ・レオーネ
監督:セルジオ・レオーネ
撮影:トニーノ・デリ・コリ
出演:クラウディア・カルディナーレ、ヘンリー・フォンダ、チャールズ・ブロンソン、ジェイソン・ロバーズ、ガブリエル・フェルゼッティ、フランク・ウォルフ
主人公は誰?
この映画の主人公は誰でしょうか?
チャールズ・ブロンソン!
という答えが即座に返ってきましたが、本当にそうでしょうか。
だって『ウエスタン』は復讐映画じゃないか。
これも誰もが言いますが、本当にそうでしょうか。だって、この映画が復讐映画であることは、復讐が遂行されるまさにそのときにわかることです。最終盤です。復讐が成るか成らずか、と手に汗握って見守るということがない。
チャールズ・ブロンソンがヘンリー・フォンダに味方するシーンなどは初めて見る人は「この男は何が目的なんだろう?」と頭にはてなマークが点灯してますよね。
整理しましょう。
登場人物

・チャールズ・ブロンソン(ヘンリー・フォンダに復讐しようとしている男)
・ヘンリー・フォンダ(かつてブロンソンの肉親を殺し、今度は資本家ガブリエル・フェルゼッティの手先として殺し屋をやっている)
・クラウディア・カルディナーレ(婚礼のまさにその日にヘンリー・フォンダによって相手フランク・ウォルフを殺される)
・ジェイソン・ロバーズ(クラウディア・カルディナーレに鉄道敷設をすればいいと知恵を吹き込む男)
・ガブリエル・フェルゼッティ(西へ西へと鉄道敷設を企む資本家)
・フランク・ウォルフ(ガブリエル・フェルゼッティの命によりヘンリー・フォンダに殺される一家の父。クラウディア・カルディナーレの婚約者)
こうして見るとわかるように、復讐は物語の周縁のエピソードにすぎません。中心を占めるのは「鉄道敷設とそれに伴う殺し(地上げ)とそれに負けまいとする女と女に味方するチャールズ・ブロンソンとジェイソン・ロバーズの物語」と言えるでしょう。
時系列でこの物語を解体するなら

①チャールズ・ブロンソンの肉親がヘンリー・フォンダに殺される。
②フランク・ウォルフがニューオーリンズの娼婦クラウディア・カルディナーレと出会い、婚約する。
③フランク・ウォルフが土地を買うが、その土地はガブリエル・フェルゼッティが鉄道を通そうと目論んでいた場所であった。
④ガブリエル・フェルゼッティはヘンリー・フォンダに命じ、フランク・ウォルフの土地を奪うべく、彼ら一家を皆殺しにさせる。
⑤しかしフランク・ウォルフはまさにその日に婚礼の予定があり、ニューオーリンズからクラウディア・カルディナーレがやってくる。婚礼の日が葬式の日になってしまったが、クラウディア・カルディナーレは強くその土地で生きていこうと決意する。
⑥ガブリエル・フェルゼッティはヘンリー・フォンダ一味を使ってクラウディア・カルディナーレを付け狙うが、彼女はジェイソン・ロバーズとチャールズ・ブロンソンの入れ知恵で土地を5000ドルで売る。
⑦ヘンリー・フォンダが5001ドルで買い戻したいと申し出るが、チャールズ・ブロンソンは1ドルの酒を飲み5000ドルで承諾する。
⑧山賊一味の攻撃でガブリエル・フェルゼッティは殺される。
⑨チャールズ・ブロンソンがヘンリー・フォンダ相手に復讐を果たす。そして土地も奪い返す。
⑩鉄道工夫に囲まれながら、クラウディア・カルディナーレが現場を切り盛りする。その手前でジェイソン・ロバーズは死に、向こうの道をチャールズ・ブロンソンが去っていく。
ということになりましょうや。
やはり、復讐は周縁にしかなく、中心にあるのは鉄道敷設です。
鉄道が中心にあるなら、この映画の中心人物はガブリエル・フェルゼッティ演じる資本家じゃないでしょうか。
ヘンリー・フォンダとの会話で、こんなことがわかります。
ヘンリー・フォンダは銃弾と肉体が武器。資本家は頭脳と札束が武器。
でも、時代は馬に乗って無法なことをやって生きていけるものではなくなりつつあります。『明日に向って撃て!』と同様、この映画で謡いあげられるのは、「西部開拓時代に取り残されたガンマンたちへの挽歌」でしょう。
チャールズ・ブロンソンはヘンリー・フォンダに勝ちました。そして主要人物の男では唯一死なずに舞台を後にします。でも、そんな彼も「あいつのようにはなれない」とガブリエル・フェルゼッティの資本家のことを語ります。「ビジネスマンにはなれない」。それはヘンリー・フォンダも同じです。
肉親を殺されたチャールズ・ブロンソンにとって、ヘンリー・フォンダは不俱戴天の仇です。だから復讐するのですが、復讐譚の前に明らかになるのは、彼らは結局「同じ穴のムジナ」ということでしょう。
死にはしたけど、資本家ガブリエル・フェルゼッティの夢は潰えず、鉄道はどんどん西へ延びていきます。
工夫たちは、拳銃からツルハシに武器を持ち替えて敷設に精を出します。
ヘンリー・フォンダが拳銃と肉体の男だったことを思い出せば、彼らはみなヘンリー・フォンダやチャールズ・ブロンソンの子どもたちです。
資本家は頭脳と札束を標榜しました。それが活きる時代になったのです。馬と拳銃の時代は終わった。そういえばこの映画には「馬」がそれほど出てきませんね。どうしてだろう?
蛇足
①この頃は映画にしてもテレビドラマにしても、「ブルーカラーの映画が少なくなった」と嘆いている私ですが、この頭脳が勝利を収める『ウエスタン』はそれを予言していたといえばオーバーですかね。
②『七人の侍』なら「勝ったのは女と工夫たちだ」というところかもしれませんが、セルジオ・レオーネはそんな無粋なことはしません。そういうところも好きですね。

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