高橋伴明監督の新作『安楽死特区』を見てきました。(以下ネタバレあり)


『安楽死特区』(2025、日本)
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原作:長尾和宏
脚本:丸山昇一
監督:高橋伴明
出演:毎熊克哉、大西礼芳、加藤雅也、奥田瑛二、筒井真理子、平田満、余貴美子、板谷由夏、下元史朗


物語のあらまし
日本でも安楽死法が制定された近未来。まず試験的にある地域に「安楽死特区」が作られ、そこの施設「ヒトリシズカ」に入居して安楽死する者がたくさんいるという設定。

耐えられない肉体的あるいは精神的苦痛が続いているものだけが対象だが、条件を満たしていて安楽死を強く希望していてもすぐには行われない。3週間の入居期間のうちに3度医師との面談があり、意思確認が行われる。心変わりする者も多くいるからだとか。

実際に安楽死が行われる場合、最終意思確認のあと、座椅子に寝た希望者が赤い薬品を飲めば苦しむことなく長い長い眠りに就くことになるという。

そのヒトリシズカに、ラッパーの毎熊克哉と、その恋人でジャーナリストの大西礼芳が入居してくる。毎熊克哉は若年性パーキンソン病を患ってはいるが、実は安楽死を希望していない。なぜ入居したかというと、安楽死は、破綻寸前だった国民皆保険制度を維持するために、多額の医療費のかかる難病患者を少なくして財政を軽くするために作られた制度であることを大西礼芳に告発してもらうためだった。

赤い薬品がどのような治験を行って認可された薬品なのか、毎熊克哉が問いただすが、医師の加藤雅也は「答えられない」とだけ返事する。


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最初の面談で医師たちに食ってかかる毎熊克哉だったが、そんな彼が2度目の面談では「安楽死を希望します」という。それは大西礼芳も知らない突然の心変わりだったが、二人は長い長いキスの果てに、安楽死という選択を選ぶ。


なぜ逆を……?
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毎熊克哉の心変わりがなぜなのかがまったく示されないので、見ているこっちも大西礼芳と同じく戸惑いましたが、それは小さなことなので別にいいです。

問題はエンドクレジットのあとですね。

帰り支度を始めた頃、高橋伴明監督と一人の女性が画面に映りました。

その女性は、安楽死を希望してスイス(オランダだったか)に行ったそうです。ヒトリシズカのような施設で薬品を飲もうとしてやめた、と。いま死ななくても、また来ればいいじゃん、と思ったそうです。

いつでも来れるという安心感が彼女を生かしているようです。これはよくわかります。

私も自殺未遂をしたことがあります(ヒトリシズカでの安楽死も、死因は「その他、自殺」になるそうです)。いまも自殺念慮に囚われています。でも、いつでも死ねるという感覚がいまの私を生かし続けているとも言えます。

だから、この女性をモデルにして、安楽死を希望して入ったけど、やっぱりやめた、という人を主人公にすればよかったんじゃないでしょうか。

実際にできあがった映画は、上述のとおり、安楽死を希望しない人が希望するに変わる内容でした。

でも、やはりあの女性のように、安楽死を希望していたが、最終的にそれを取り下げ、ヒトリシズカの内実、安楽死法の真の狙いを告発する結末にすると面白かったんじゃないかと思います。

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とはいえ、安楽死という答えの出ない問題をあえて取り上げた熱意と問題意識には頭が下がります。私が教えを受けた専門学校の講師は、

「いじめなど答えの出ない問題を映画の題材として取り上げてはいけない」

と言ってましたからね。あえてタブーに挑んだ映画としてこの『安楽死特区』は記憶されるべきと思います。


小説「安楽死特区」
長尾 和宏
ブックマン社
2021-08-24


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