今年の初めに公開された城定秀夫監督の新作『悪い夏』を見たんですが、城定監督の手堅い演出もどこへやらという感じだったし、何より脚本というか人物設定に大いなる疑問を感じました。(以下ネタバレあり)


『悪い夏』(2024、日本)
640

原作:染井為人
脚本:向井康介
監督:城定秀夫
出演:北村匠海、河合優実、伊藤万理華、毎熊克哉、竹原ピストル、木南晴夏、窪田正孝


物語のあらまし
この映画の物語を箇条書きで記すと、

・役所の生活保護課の職員・毎熊克哉が、受給者の河合優実に「言うとおりにしないと生活保護の支給を打ち切る」と脅して、その体をほしいままにしていた。
・それが後輩の北村匠海と伊藤万理華にばれる。北村匠海は毎熊克哉に辞職を迫る。
・河合優実のバックにはおっぱいバーを経営するやくざの窪田正孝がいる。窪田正孝は離婚して職もない毎熊克哉を雇ってやり「俺っていい奴だよな?」とうそぶく。
・窪田正孝の使いっ走りで北村匠海が生活保護の担当をしている竹原ピストルが新しい商売を思いつく。毎熊克哉と同じように、河合優実に北村匠海を誘惑させて事の次第を盗撮して脅迫するという計画。脅迫の内容は、生活保護の不正受給を北村匠海に迫り、受給者から金を巻き上げるという完全な貧困ビジネス。
・それを聞きつけた窪田正孝が竹原ピストルを袋叩きにするが、その場には北村匠海のみならず伊藤万理華まで賭けつけ、主要人物全員がそろったところで刃物を用いた大団円となる。


悪い奴ばかり
1756895421

うん。生活保護をネタにして、というか、貧困ビジネスをネタにしてサスペンスを盛り上げようという製作陣の意図はわかります。

でも、あまりに登場人物が、とりわけ窪田正孝の周辺の人物が悪い奴すぎませんかね?

私がこの映画でとてもいいなと思ったのが、河合優実が何とか誘惑しようとしても童貞の北村匠海は乗ってこない。どうしようと思っていたら、北村匠海と河合優実の娘が、河合優実の誕生日サプライズパーティーを仕込んでいたというシーン。

親からも誕生日を祝ってもらったことのなかった河井優実はとてもうれしかっただろうし、こんなことをされたら北村匠海をハメるなんてできない。という彼女の心の揺れがよくわかりました。あそこは「善と善の対立」になっていると思いました。

これは高名な脚本家から聞いた教えですが、ドラマを深めるには「善と善の対立」が必要だそうです。

この場合の「善」とは善人のことではなく、「その人の言い分にも理がある」ということです。

北村匠海と女の子がお母さんの誕生日を祝ってあげたいというのも「善」だし、それに応えたいという河合優実の気持ちも「善」です。

ところが、この映画はほとんどの場合、「善と悪の対立」になってしまってるんですよね。

窪田正孝が悪すぎるのです。そりゃやくざなんだから悪いんだろうけど、人間としてのかわいげがないですよね。自分の女が刺されたときもそんなに動転したりしてなかったし。とことん下衆。でも、それではドラマが深まらないと思うのです。


img01 (1)

河合優実のバックに誰もおらず、ただ好きだから北村匠海を誘惑する。北村匠海は受給者とそういう関係になってはいけないと乗らない。そこを何とか乗らせようと必死の河合優実。そして……ついに結ばれるが、たまたまそこに伊藤万理華が闖入してすべてがばれる。ばれるけど、北村匠海は役所を辞め、河井優実と二人で再生を誓う。

みたいな内容じゃだめでしょうか。

あのラストの「ただいま」という北村匠海の言葉は家の中にいる河井優実へのものですよね? だったら上みたいな内容にしてほしかったし、河合優実の「おかえり」をはっきり見せるべきだと思いました。

やっぱり、やくざとか刃物とか、ないほうがよかったと思うんですよね。昨日、『脱獄広島殺人囚』の感想を嬉々として書いといてナンですけど。

窪田正孝を主役にするならアリだと思います。


悪い夏
窪田正孝


このエントリーをはてなブックマークに追加