昨日、感想を書いた、井土紀州監督『痴人の愛(2024)』についてちょっと補足です。


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大西信満演じる脚本家志望の主人公が「勤勉で無能な者」である点に気を引かれました。

彼は、シナリオ教室で先生が格言みたいなことを言うとすぐメモを取りますよね。晴れてプロとして書くことになっても、プロデューサーの言うことを逐一メモしていく。

あ、この主人公は「勤勉で無能な者」という設定なんだな、と思いました。

誰が言ったのか忘れましたけど、確か軍人だったと思いますが、

①勤勉で有能な者
②勤勉で無能な者
③怠惰で有能な者
④怠惰で無能な者

このうち真っ先に最前線で死んでもらうものは誰か。

答えは②の勤勉で無能な者だそうです。

なぜ怠惰な者じゃないかというと、怠惰な者はよけいなことをしないからだそうです。勤勉な者はよけいなことを必死で時間かけてやるから始末に負えないと。ちなみに、将校に一番向いているのは③の怠惰で有能な者だとか。

『痴人の愛』の大西信満はトイレ清掃のバイトをしていましたが、年下の先輩がちょっとあきれるくらい鏡や便器を熱心に拭いていましたっけね。勤勉すぎるのです。無駄な力を使ってしまう。あれでは軍隊ならすぐ殺されるでしょう。だからそれなら最前線へ、ということなのでしょうね。


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もうひとつ。どこかの国ではこんな小咄があるそうです。

「悪魔をどう思うか」
「きっと勤勉でしょう」

大西信満は「悪魔」でもあると思います。自分が勤勉で無能な者であるがゆえに、せっかくもらったチャンスを活かせないというか、もとから成功できると思っていない、でも夢をあきらめることが恐い、だからチャンスをもらってそれを台無しにすることで踏ん切りをつけようとしていたと告白する印象的な場面があります。(専門学校の同期生で、私が「夢をあきらめた」というと「僕はそれが恐いんです」と言ってきた人がいたが、彼はいまどこでどうしているだろうか)

単に夢をあきらめるなら普通のことですが、周りの人間を意図的に巻き込むというのは非常識です。でも、そうでもしないと踏ん切りがつかない。

そういう意味で彼は「悪魔」です。

『痴人の愛(2024)』は、ナオミという女とのあれこれを描いた映画であることは確かですが、主人公がとても「勤勉」で自分もろとも周りもどん底へ突き落とす「悪魔」でもあるとても普遍的かつ独創的なキャラクターを創造した名作だと感じました。

明日は同じ井土監督の2023年作品『卍』を見ます。楽しみ。


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