橘玲の『しんどい世の中でどうすれば幸せになれますか? いまならまだ間に合う‟無料ゲー社会”の攻略法』を読んだんですが、金儲けの話ばかりでうんざりしました。私は絶対幸福になれない。


9784866519579 (1)


「減給やリストラをされても経済的に困らない準備を。会社は君のために存在しているわけじゃない」

これは、昇進したくないという若者世代の悩みに答えてのもの。最近、昇進したくない人が増えてるんですってね。中間管理職なんて上からは成果を出せと言われ、下からはそれパワハラですよと言われてしんどいだけだと。なるほど。

それで、相談者が会社のために存在しているわけじゃないのと同じように、会社だってあなたのために存在しているわけじゃないんだよ、昇進の話が来て断るようだと会社にとって不要の存在だと切られる可能性がある。そのために経済的に困らないよう年収の3倍の貯金をしておきなさいというお答え。

そりゃま、そうかもしれない。でも、この本のタイトルは「どうすれば幸せになれますか?」ですよね。

結局、銭金の話にしかなっていないと白けるのは私だけか?


「やりたいことがなければ、消去法で仕事を選んでみよう。評判を得られる仕事ならやりがいを感じやすい」

これもそうかもしれない。でも、評判を得やすい仕事って何? 著者は「SNSとか」と言っている。つまりユーチューブやインスタグラムでインフルエンサーになれと。でもそういうことが苦手な人もいるんですよね。

私はカメラの前で何かを語るということが(おそらく)できないので、ユーチューバーは無理だし、ブログに広告は貼ってるけど、好き勝手書くからかグーグルの検索上位にはなかなか上がってこない。それでも認めてくれる人はいるもので、ある語句で検索すると一番上にくる記事もある。でもそれはごく一部で収入はほんのわずか。

もっと収入が増える対策をすべきなんだろうけど、生来私は金儲けに興味がなく、書きたいことを書き飛ばして溜飲を下げることのほうがよっぽど重要(⇐これが私の幸せ)。そういう人間もいるのだ。著者はわかってない。


「将来に向けた資産形成は30代からでも遅くない。20代で最優先すべきは様々な経験と人との出会い」

20代はよく遊べというありがたいお言葉。でも、「20代で最優先すべきは様々な経験と人との出会い」ということは結局のところ「人脈を築け」ということですよね。すべては将来莫大な金を稼ぐための布石だと。うーん。


「目の前の幸福(楽しみ)と将来の幸福(富や成功)の両立は難しい。成功とは多くの場合、短期的な快楽を我慢して自己投資したり、実績を作ったりして、長期的な利益を最大化することだから」

だからさぁ、目の前の幸福に酔いしれることだって大事なんじゃないの? そればっかりじゃ尻すぼみだろうけど、そもそも私は「人生を設計する」という考え方が嫌い。いまが楽しければいいとまでは思わない。仕事してたときはちゃんと貯金もしてたし。その貯金でテレビとブルーレイを買った。しかもそんなもの買ってもまだ残金がかなりあった。幸せであった。

もう30年以上前になるが、日曜の昼に「ディスクジョッキー」というビートたけし司会の番組があった。ある回で、たけしが出演者たちに「これ以上ない幸せを描け」と絵に描かせたんですね。

そのとき出演者の一人だったマンガ家の蛭子能収が、「ソープ嬢にフェラチオしてもらっている図」を描いた。蛭子さん本人とおぼしき男の足元には札束が置いてあり、窓の向こうには富士山が見える。たけしが説明を求めたところ蛭子さんはこう答えた。

「フェラチオしてもらうだけではこれ以上ない幸せにならない。フェラチオしてもらいながら同時に富士山が見えるっていうのが最高かなって」
「この札束は何なの?」
「こんな贅沢を味わっているのにまだまだ余裕があるという意味です。やっぱり幸福を味わいながらも全財産を使い果たしたんじゃ気が気じゃないし」

というわけで蛭子さんが一等賞を獲りました。橘玲にこの「幸福」がわかるだろうか。


「『貧困』よりも『失業』が人を絶望させるというデータがある」

これは私には当てはまらない。親がまだ生きているというのが大きいのだが、私は失業で絶望なんかしない。気楽でええわってなもんよ!


「人の幸福度は結局は人とのつながりで決まる」

何だ。これまでの議論はいったい何だったのだろう。人の幸福度は結局は人とのつながりで決まる。その通りなんでしょう。その通りであれば、金がなくても職がなくても友人や恋人、家族に恵まれていれば幸せなんじゃないですか。

しんどい世の中でどうすれば幸せになれますか?

人との関係を大切にしてください。ってか。


老子 (講談社学術文庫)
金谷治
講談社
2023-09-06





このエントリーをはてなブックマークに追加