業田良家先生の大ファンでありながらずっと未見だった『男の操』全7話をNHKオンデマンドで見ました。
『男の操』(2017、NHK)

原作:業田良家
脚本:根本ノンジ&横幕智裕
出演:浜野謙太、倉科カナ、川栄李奈、安達祐実、佐藤隆太、もたいまさこ
結末の是非
3年前に愛妻・純子に死なれた五木みさおは、一人娘のあわれと一緒に、純子との約束を果たすべく紅白出場を目指す売れない演歌歌手。今日も営業回りをするが、CDはほとんど売れない。
隣に越してきた万田さんという若い女性や、事務所の社長マリ(かつて純子と一緒にアイドルをやっていた)の助けもあり、少しずつ持ち歌の『男の操』が人気上昇し、大逆転で夢の紅白出演……!?
と思ったところでみさおが倒れ、一気に30年ほど時間が進み、みさおはアルツハイマーで入院している。周りの人物も歳を取ってはいるが相変わらずって感じ。万田さんとは結婚している。
紅白は? あのとき紅白に出れたのか? と問うみさおに対し、みんなは「何言ってんだ。出れたじゃないか」とビデオ映像を見せてくれる。
「やった! 俺は紅白に出たんだ!!」
と、みさおは喜びますが、何か釈然としません。これは原作マンガを読んだときからの疑問でした。
普通に、あのときみさおは倒れたりせず、大逆転で紅白に出れた。みんなで祝った。そして万田さんと結婚した。
という、ごく普通の構成ではなぜダメだったのか。
二つのプロット

このドラマは大きく二つのプロットから成り立っています。
①みさおは紅白に出れるか
②万田さんとの恋は実るか
この二つが密接に絡まり合い、互いが互いを補完する最良の関係になっているので、たまらなく面白いわけですが、②には妻・純子との関係も含まれてますよね。

死ぬ間際にVHSビデオでみさおとあわれを励ます映像を大量に残した純子。みさおはそんな純子に縛られています。プロット①では「純子との約束を守らなければ」と彼女の存在が馬のニンジンになっているのに対し、プロット②では、万田さんにプロポーズされても「純子を裏切るみたいで」と断ってしまう。純子の存在が足枷になっている。巧妙なシチュエーションです。
さて、そんなみさおが抱える「問題」とは何でしょうか? 比較神話学では「主人公が克服すべき問題」を設定することが非常に重要なんですが、五木みさおの問題は何でしょうか? もうおわかりですね。
純子です。純子のことをいまだに引きずっていることです。純子のために頑張っているのだけど、そのせいで、時間がたてばたつほど死んだ妻を引きずる毎日。
純子は生前、みさおが過去に居着くことを恐れて、社長のマリに、3年目の命日にビデオを全部破棄するようアパートの鍵を預けていた。みさおとあわれへの最後のメッセージビデオも用意していた。
それゆえに、みさおは過去との訣別を決意し、万田さんにプロポーズする。が、そこで気を失って倒れてしまい、30年後にやっと万田さんと結婚したことと紅白に出場したことを知る。
プロット①②ともに、結論を知るのは30年後です。でも、紅白の出場などは画面を生成AIで作った作り物かもしれない。
万田さんとの結婚は本当だとしても、本当にみさおは紅白に出たのか? という疑問が残ります。
何しろ記憶にないんですからね。仮に本当に出ていたとしても、記憶がなければ(映像だけあっても)出てないに等しいのではないか。映画『トータル・リコール』を思い出してみましょう。あの映画の主役アーノルド・シュワルツェネッガーは地球で夢を見ているだけなのに、自分は火星で大活躍していると思い込んでいます。
すべては夢だったのか。
仮に、普通に時系列で描いたとしても、一気に30年後に飛んでから過去を振り返っても、どちらにしても「この世は夢」なのです。「本当に」夢を叶えられたかは、誰にもわからない。
純子ビデオがあまりによくできていて、ビデオを見ているみさおたちと会話が成立していることなども考えると、もしかすると、このドラマは最初から最後まで夢なのかもしれません。
夢ではないにしても、紅白に出るというのはそれぐらい難しいもの。厳しいもの。人生そんなに甘くないよ、という作者からのメッセージではないか。
少なくとも、夢を叶えた、そして花嫁を迎えた、というありきたりな「神話」にはしたくなかったのでしょう。だから30年のときを超えたんだ、と。

『男の操』(2017、NHK)

原作:業田良家
脚本:根本ノンジ&横幕智裕
出演:浜野謙太、倉科カナ、川栄李奈、安達祐実、佐藤隆太、もたいまさこ
結末の是非
3年前に愛妻・純子に死なれた五木みさおは、一人娘のあわれと一緒に、純子との約束を果たすべく紅白出場を目指す売れない演歌歌手。今日も営業回りをするが、CDはほとんど売れない。
隣に越してきた万田さんという若い女性や、事務所の社長マリ(かつて純子と一緒にアイドルをやっていた)の助けもあり、少しずつ持ち歌の『男の操』が人気上昇し、大逆転で夢の紅白出演……!?
と思ったところでみさおが倒れ、一気に30年ほど時間が進み、みさおはアルツハイマーで入院している。周りの人物も歳を取ってはいるが相変わらずって感じ。万田さんとは結婚している。
紅白は? あのとき紅白に出れたのか? と問うみさおに対し、みんなは「何言ってんだ。出れたじゃないか」とビデオ映像を見せてくれる。
「やった! 俺は紅白に出たんだ!!」
と、みさおは喜びますが、何か釈然としません。これは原作マンガを読んだときからの疑問でした。
普通に、あのときみさおは倒れたりせず、大逆転で紅白に出れた。みんなで祝った。そして万田さんと結婚した。
という、ごく普通の構成ではなぜダメだったのか。
二つのプロット

このドラマは大きく二つのプロットから成り立っています。
①みさおは紅白に出れるか
②万田さんとの恋は実るか
この二つが密接に絡まり合い、互いが互いを補完する最良の関係になっているので、たまらなく面白いわけですが、②には妻・純子との関係も含まれてますよね。

死ぬ間際にVHSビデオでみさおとあわれを励ます映像を大量に残した純子。みさおはそんな純子に縛られています。プロット①では「純子との約束を守らなければ」と彼女の存在が馬のニンジンになっているのに対し、プロット②では、万田さんにプロポーズされても「純子を裏切るみたいで」と断ってしまう。純子の存在が足枷になっている。巧妙なシチュエーションです。
さて、そんなみさおが抱える「問題」とは何でしょうか? 比較神話学では「主人公が克服すべき問題」を設定することが非常に重要なんですが、五木みさおの問題は何でしょうか? もうおわかりですね。
純子です。純子のことをいまだに引きずっていることです。純子のために頑張っているのだけど、そのせいで、時間がたてばたつほど死んだ妻を引きずる毎日。
純子は生前、みさおが過去に居着くことを恐れて、社長のマリに、3年目の命日にビデオを全部破棄するようアパートの鍵を預けていた。みさおとあわれへの最後のメッセージビデオも用意していた。
それゆえに、みさおは過去との訣別を決意し、万田さんにプロポーズする。が、そこで気を失って倒れてしまい、30年後にやっと万田さんと結婚したことと紅白に出場したことを知る。
プロット①②ともに、結論を知るのは30年後です。でも、紅白の出場などは画面を生成AIで作った作り物かもしれない。
万田さんとの結婚は本当だとしても、本当にみさおは紅白に出たのか? という疑問が残ります。
何しろ記憶にないんですからね。仮に本当に出ていたとしても、記憶がなければ(映像だけあっても)出てないに等しいのではないか。映画『トータル・リコール』を思い出してみましょう。あの映画の主役アーノルド・シュワルツェネッガーは地球で夢を見ているだけなのに、自分は火星で大活躍していると思い込んでいます。
すべては夢だったのか。
仮に、普通に時系列で描いたとしても、一気に30年後に飛んでから過去を振り返っても、どちらにしても「この世は夢」なのです。「本当に」夢を叶えられたかは、誰にもわからない。
純子ビデオがあまりによくできていて、ビデオを見ているみさおたちと会話が成立していることなども考えると、もしかすると、このドラマは最初から最後まで夢なのかもしれません。
夢ではないにしても、紅白に出るというのはそれぐらい難しいもの。厳しいもの。人生そんなに甘くないよ、という作者からのメッセージではないか。
少なくとも、夢を叶えた、そして花嫁を迎えた、というありきたりな「神話」にはしたくなかったのでしょう。だから30年のときを超えたんだ、と。


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