いやぁ、久しぶりに映画やテレビドラマを見てボロ泣きしてしまいました。ネットフリックスが劇推ししてきた2000年のフジテレビドラマ『やまとなでしこ』。

うーん、これはすごい。とんでもない大傑作でありました。(以下ネタバレあり)


『やまとなでしこ』(2000、フジテレビ)
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脚本:中園ミホ&相沢友子
出演:松嶋菜々子、堤真一、矢田亜希子、東幹久、西村雅彦、森口瑤子、筧利夫、押尾学、須藤理彩、市毛良枝


偶然
このドラマでは「偶然」がものすごく多いですよね。

街角でたまたま会う。道端で出合い頭に遭う。みたいな再会の仕方がものすごく多い。でも、「偶然ばかりだからつまらない」とは少しもならないんですよね。

それは誰もが松嶋菜々子と堤真一が一緒になって幸せになってほしいと願っているからです。期待が満たされるから面白いし少しも気にならない。

期待。そう、この『やまとなでしこ』を繙くキーワードは「期待」だと思います。


期待
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松嶋菜々子は子どものころの極貧生活のために銭ゲバになった。そう、あのジョージ秋山の名作マンガ『銭ゲバ』の主人公・蒲郡風太郎とまったく同じである。この『やまとなでしこ』は、『銭ゲバ』の流れを踏襲しながら、堤真一演じる男の存在によって、悲劇ではなく、喜劇で終わる。そのひねり方が最高でありました。

幼少の頃の極貧生活がいやでいやで、大人になったらスチュワーデスになって、「今日も合コンで金持ち男をゲットするぞ~~~!」とか「貧乏男なんか大っ嫌い!」などと言い放つ息巻く松嶋菜々子を見て、嗚呼、この人は子どものころの貧乏生活のせいで歪んだ価値観をもつに至ったのだな、かわいそうな人だな、と見る者は思う。

だからこそ、金より大事なものを見つけてほしいと願う。それがこのドラマを貫く「期待」です。

そこへ、MITに留学するほどの才能の持ち主なのに、大好きな数学をあきらめて日本へ帰り、父親の遺産である「魚春」という魚屋を切り盛りする堤真一が現れる。彼は、実は当時つきあっていた彼女にこっぴどく振られ、彼女の幻影を引きずっていた。日本へ逃げてきたのであった。

貧乏を絵に描いたような堤真一にこそ、松嶋菜々子を救い上げてやってほしい。それがこのドラマを貫くもうひとつの「期待」です。

そして、この二つの「期待」は表裏一体の関係にある。つまり、松嶋菜々子には本当の幸せを手にしてほしいが、その相手は堤真一でなければならない。でなければ「期待」は充足されない。

そもそもの問題ですが、なぜカネカネとばかり言っている松嶋菜々子に共感できるのか。

松嶋菜々子が歪んだ価値観をもつに至ったのは、親が極貧だったからという、本人には何の咎もなく、選びようもないことが原因だからですね。同情してしまうしかない。

そして、東十条という婚約者がいながら、「私は結婚の約束をしただけ。実際に式の日を迎えるまでは合コンをしまくるの!」と言い放つ。これではいくら生まれが貧しいからといって、ただの最低女じゃないか。とお怒りの向きもあるかもしれないが、それは違うと思う。

我々は誰しも、この人よりももっと素敵な人、いまよりももっと素敵な生活、今生よりも来世ではきっと、などと、もっともっとと高望みする生き物であり、松嶋菜々子は「人間の普遍的な姿」を体現しているにすぎない。


どっちが主役?
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見ながら、いったい、松嶋菜々子と堤真一のどっちが主役なんだろう、と考えていたんですが、やはり松嶋菜々子ですね。(当たり前と笑うなかれ。こういうことを突きつめることが大切なのです)

比較神話学の見地から言うと、松嶋菜々子はダークサイドに堕ちてしまったアンチヒーローであり、そんな彼女を救い出すのがヒーローたる堤真一。

そして、この作品ではヒーローではなくアンチヒーローの視点から物語が紡がれている。堤真一にも「いつまでも殻に閉じこもって自分の身を守ってばかり」というダークサイドがあるのだけど、松嶋菜々子の「金がすべて」に比べればかわいいもの。彼女の価値観を180度転換させるのは容易じゃない。容易じゃないものを背負っているほうが主役に決まっています。

『銭ゲバ』の主人公・蒲郡風太郎と同じく、松嶋菜々子もまた、カネカネと言ってるわりには、最初から貧乏男・堤真一に惹かれているところがある。何だかんだいって、彼女は「金よりも大切なものがある」ということを最初から誰よりもわかっている節が見受けられる。

だから「桜子ちゃん(⇐松嶋菜々子の役名)幸せになって!」と思うし、それが全編を貫く「期待」なのです。そしてとても純粋な堤真一にも幸せになってもらいたいと思う。


とってもいい人・東十条=東幹久
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松嶋菜々子を「いやな女」ではなく「ちょっと突飛なだけの普通の人」として描くこのドラマは、決して「悪人」を出さないですよね。

酒を飲んだら管ばかり巻いている筧利夫とか、女たらしの押尾学とかもいるけど、何といっても松嶋菜々子の婚約者で、東幹久演じる東十条という男の描き方にこそ、中園ミホさんと相沢友子さんの技の真骨頂があるように思う。

彼は最初は金持ちの坊ちゃんで、我らが堤真一の憎き恋敵だから「いやな男」に映るのだけど、話が進むにつれて、松嶋菜々子が結婚式から逃げ出しても誠実にわけを聞こうとしたり、松嶋菜々子にこっぴどく振られたときは「ありがとう。はっきり振ってくれて」と潔く身を引いたりもする。

彼はとてもいい人なのである。彼の両親も金持ちの俗物のように見えるが、ただ、階層が超上級だというだけで、松嶋菜々子のお父さん(小野武彦)を気遣ったり、ごく普通の人として捉えられている。

だからこそ、この作品を見た者はみな、東十条さんにも幸せになってほしいと願わずにいられない。その気持ちは、堤真一に恋しながら破れた矢田亜希子や須藤理彩、西村雅彦・森口瑤子夫妻、筧利夫、押尾学にも通じる。

かつて私は、主人公たちが「一緒に幸せになろう」と言い合うラブストーリーを書いたんですけど、それを読んでくれた長谷川和彦監督が「俺も主人公たちと一緒に幸せになりたいのだが、いっこうにそんな気持ちが湧いてこなかった」と嘆いていたっけ。いまとなってはいい思い出だが。

私はこのドラマのような技を体得できずに都落ちしてきた人間なので、思わず見とれてしまいました。

さて、二人はこちらの予想通り、いや期待通り、最終回でついに一緒になります。


蓮實重彦の言葉(蛇足に代えて)
もう何十年も前に、蓮實重彦が看破していましたね。


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「映画とはつまるところ、人と人が出会うことだ」と。(終)





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