体調が上向いてきたので行ってきました。あの『時をかける少女』にオマージュを捧げるという触れ込みの、29歳池田エライザが女子高生を演じる青春タイムリープ映画『リライト』。

脚本の「上田誠」と監督の「松居大悟」」という名前には拒絶反応を示してしまう私ですが、これはオリジナル脚本じゃなくて原作ものだし、まだ見れるかなと期待していましたが、すべてが裏目に出て「行かなければよかった」と落胆してしまいました。(以下ネタバレあり)


『リライト』(2025、日本)
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原作:法条遥
脚本:上田誠
監督:松居大悟
出演:池田エライザ、阿達慶、橋本愛、倉悠貴、久保田紗友、前田旺志郎、マキタスポーツ、石田ひかり、尾美としのり


青春タイムリープというのはそうなのだが……
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夏、池田エライザのクラスに、保彦という名の転校生がやってくるが、彼が実は「未来人」。池田エライザにすぐ素姓を明かし、二人は恋に落ちる。一緒に夏祭りに行ったり、花火を見たり、尾道の夏を満喫するが、たった3週間で保彦は未来に帰らないといけなくなる。保彦は、ある尾道を舞台にしたタイムリープ小説を読んでこの時代に来たと言い、池田エライザこそその本の作者だ、未来の僕が読めるよう絶対書いてほしいと言い残して去っていく。

ここまでで約25分。まず素晴らしいのが、池田エライザが保彦が未来人だという信じられない情報をすぐ信じる点。「ほんとに未来人なの? 嘘じゃないの?」とかのセリフを書きたくなるところだけど、ここは話を急ぐためにも「まるで嘘のような話をすぐ信じる」それぐらい保彦のことが好きになったと解釈できるように描かれており、これはやはり「青春タイムリープ」ものだと膝を打って喜んだものです。この時点では。

ところが、です。

10年後の池田エライザは小説家として名を成し、絶対書くと保彦と約束した『少女は時を翔けた』という小説を出版したばかり。それをもって尾道へ行き、10年前の自分に会いにいくが、昔の自分がやってこない。

実は少しタイムラグがあり、数日後に会えるのだが、それはもう映画のラスト近く。このタイムラグの数日間に仰天するほかない事実が明かされるのです。


苦労人・倉悠貴
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池田エライザのクラスメイトで、倉悠貴演じる茂という人物がいるんですが、ファーストシーンで池田エライザに「おまえ図書委員だよな。ごめん、これ返しといて」と迷惑千万な頼みごとをして、エライザを図書館で保彦と合わせていたことが後半判明する。この茂が実はすべてを操っていたのです。

何を操っていたかというと、保彦は何と池田エライザとだけ恋に落ちていたのではなく、とんでもないプレイボーイで、クラスの女子全員と同じ夏祭りデートなどしており、誰が将来、保彦が感銘を受けた小説を書くかわからないので、全員とデートしてキスして「運命の恋」と思わせる15股くらいを演じていたらしい。この展開にはあまりのあんまりさに笑い転げた。誰も笑ってなかったけど。

さらに男子ともいい仲になっていたという日には椅子からずり落ちそうになった。これはさすがに無駄でしょう。小説の作者が女性なんだから女子とだけでいい。

クラスメイトは全部で33人いるので、33人の保彦が学校中をウロチョロすることになり、保彦と保彦が鉢合わせしないように倉悠貴がすべてを計算して保彦を動かしていたと。何と。

というか、前半は池田エライザとの「運命の恋」だったのが、実は「運命の恋をネタにしたスラップスティック」だったというからほんとに椅子からずり落ちそうになった。こんな映画を見に来たんじゃないぞ。


見つめ合うのではなく、並ぶ男女
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かつて、『ニュースステーション』という番組があったころ、司会の久米宏と各界の著名人がごちそうを食べながら雑談する「最後の晩餐」というコーナーがありました。脚本家の倉本聰さんがゲストのとき、浮気ばかりしていた久米宏が「夫婦円満の秘訣は何でしょうか」と質問したら、倉本さんはこう答えた。

「並んで同じものを見つめることだと思いますよ。恋人同士のときって何かと見つめ合うじゃないですか。でも、働いて、子どもを育てて、日々の生活に追われて、となってくるとなかなか見つめ合えなくなる。そこで、絵画でも映画でも花火でも何でもいいんだけど、並んで同じものを見つめる時間をもつことが大事だと思うんです。そうやって赤の他人だった男女が少しずつ夫婦になっていく」

この映画『リライト』の池田エライザと保彦役の阿達慶という男優は何かと並んで同じものを見つめてましたよね。


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二人が並んで、花火を見つめる。
二人が並んで、海を見つめる。
二人が並んで、山を見つめる。
二人が並んで尾道の風景を見つめる。

まだ付き合ってもいない二人が、私にはすでに「夫婦」に見えてしまって、これはとんでもない青春恋愛映画に出逢ったのではないかと前半はドキドキしただけに、それがすべて嘘だったという後半の展開には激怒しましたぜ。

並んで同じものを見る二人をもっとフィーチャーしてほしかった。


『時をかける少女』
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『時をかける少女』に出ていた尾美としのりを教師役で特別出演させたのは、オマージュとして最適だったと思いますが、しかし、それなら池田エライザの母親役は石田ひかり(『ふたり』の主演者ということで大林宣彦つながりにはなってるけど)ではなく、やはり原田知世をもってくるべきではなかったでしょうか。スケジュールが合わなかったのかな。残念。

それから、結局、クラスメイトの橋本愛が小説の作者だったんですが、彼女の担当編集者がマキタスポーツで、池田エライザの編集者が無名の役者というのは不公平だと思う。

あと、「ラベンダーの香り」は反則じゃないでしょうか。筒井康隆の了解を得さえすればいいというものではないと思う。(得てるのかどうか知らないけど)

まぁこんなことを言ってもしょうがない。いままで言わなかったけど、そもそもの問題として、なぜ池田エライザは10年後の自分から『少女は時を翔けた』という本をもらったのに、それを丸写ししなかったのか。倉悠貴が保彦にその疑問を衝いてましたけど、「それじゃダメなんだ。ゼロから書いたものじゃなければ」と保彦は答えていました。が、なぜなんでしょう???

それを言ってはおしまいなんでしょうな。ご都合主義。



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