大好評のうちに最終回を迎えたNHKドラマ『しあわせは食べて寝て待て』。メインプロットではなく、主役の桜井ユキともまったく関係ところに私はいたく感激させられました。


『しあわせは食べて寝て待て』(NHK)
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原作:水凪トリ
脚本:桑原亮子&ねじめ彩木
主演:桜井ユキ


八つ頭くん
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桜井ユキが住んでいる団地(昨年の『団地のふたり』と同じロケ地とか)の住人で、ニートで引きこもりの八つ頭くん。

桜井ユキが想いを寄せる宮沢氷魚と友だちで主人公と知り合うことになるのですが、この八つ頭くんの描き方というか扱い方にとても好感をもったんです。

いつも言うことですが、ニートや引きこもりがそれを脱して、つまりは職を得て社会に出ることでハッピーエンドというのはちょっとどうかなと思うのです。それでは、生産性のある人間にしか存在意義を認めず、生産性のない人間を社会から排除することになってしまわないか。生田斗真主演の『俺の話は長い』がまさにそんなテレビドラマでした。

ニートでもいい、引きこもりでいいから、そんなあなたが私には大切なのだ、というところにもっていってくれないと、作者がその登場人物を愛したことにならないと思うのです。それは、視聴者がその人物を愛したことにならないのと同じことです。

さて、『しあわせは食べて寝て待て』の八つ頭くんはどうだったかというと、結論から言うと、北乃きい演じるOLと一緒になって(結婚なのか同棲なのかは明示されない)団地を出ていくのです。職も得て。

何だ、それじゃ、おまえがさっきから言ってるダメニートドラマとどこが違うのか。とお叱りの声が聞こえてきそうですが、さにあらず。

まず、北乃きいが八つ頭くん(西山潤という俳優が演じています)に惚れたのには伏線があって、彼女が働いている会社にはダメ男性社員がいるのです。彼は上司から絶対明日中に何とかしろと言われていた見積書を少しも何ともせずに放ったらかしにしていて、それで怒られていた彼を見かねて手伝ってあげる。そのために残業になり、大嫌いな母親と顔を合わせずにすむという、どちらかというと動機は母親と会わないですむほうが大きかったようにも感じましたが、それでも、ダメな男を放っとけない性質ではあるらしい。

そんな北乃きいが八つ頭くんと出会ったことで恋仲になるというのは必然であったかもしれません。

しかし大事なのは、八つ頭くんが職を得たから付き合い始めたのではなく、彼が完全無職のときに恋仲になったということです。WOWOW製作・松田龍平主演の『0.5の男』だと、ニートの松田龍平が保育士の西野七瀬に「好きなんですよね(子どもが)」と言うと、勘違いした西野七瀬が「ダメです。私、働いてない人とは……」と返すんですが、見ていて、働いていることがそんなに偉いのかと憤りました。

『しあわせは食べて寝て待て』の北乃きいはだから、絶対的に偉い! 


o1080060715591455134 (1)(北乃きいと二人で主要人物三人組に挨拶しに来た八つ頭くん(右から二人目))

もっと偉いと思わせるのが、気づいてない人がかなり多いと思われますが、団地を出ていく北乃きいがバス停で八つ頭くんを待っていると、八つ頭くんがぼさぼさの髪をやめて、ちゃんと散髪して整髪して来たんですね。そのときの北乃きいの一言が「あれ、切ったんだ」。八つ頭くんは「引っ越しのあいさつ回りとかあるし」と答えるんですが、ここは非常に重要です。

北乃きいのほうから「挨拶回りとかあるからその髪の毛何とかしてほしい」と言ったわけではないということです。そういう「ちゃんとした人」じゃないから惚れたわけですからね。

だから、このシーンの少し前に、八つ頭くん自身が「職も決まりそうで」と桜井ユキたちに恥ずかしそうに言うのですが、それはやはり自分から進んで職を決めた、つまり、北乃きいに言われたから、ということではまったくなさそうなのがうれしい。

無職の彼に惚れた。
髪の毛ぼさぼさのままの彼と結婚あるいは同棲を決めた。
そんな彼と新天地に引っ越そうとしている。
整髪して来た彼を見ても少し微笑むだけ。

これが、このドラマで、原作者と脚本家と北乃きいが表現した新しいニートの扱い方だと感じました。

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そういえば、宮沢氷魚もニートでした。だから桜井ユキがそんな彼に惚れるのもまた新しい関係だなと思う。

ただ、宮沢氷魚は薬膳にやたら詳しいというのがあって、それは膠原病の桜井ユキの役にすごく立っているからまったく無能な八つ頭くんとはちょいと違うかな。

いずれにしても、この八つ頭くんとその扱い方はひとつの「発明」であることは間違いありません。

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