『教皇選挙』(2024、アメリカ・イギリス)
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原作:ロバート・ハリス
脚本:ピーター・ストローハン
監督:エドワード・ベルガー
出演:レイフ・ファインズ、スタンリー・トゥッチ、ジョン・リスゴー、セルジオ・カステリット、カルロス・ディエス、イザベラ・ロッセリーニ

(以下、思いっきりネタバレしてます。未見の人は読まないでください)


アカデミー賞狙い?
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この人が新教皇に選ばれるのは完全に読めてますよね。最初の選挙で1票だけ勝ち取り、次が2票、次が5票でしたっけ、憶えてませんが、じわじわと票数を伸ばしているから絶対この人だろうと。

だから、予定調和じゃないか! と怒ったんですよ。『リコシェ』『レイジング・ケイン』などで印象的な悪役を演じていたジョン・リスゴーが途中で落ちるのも予想通りでしたし(こういうのを「タイプ・キャスト」という)なぁんだと。

でも、この新教皇が実はトランスジェンダー女性という衝撃の事実を知ってなるほど、これをやるために「誰が選ばれるか」は予定調和のほうが観客が見やすいという配慮だったのだなと承知できました。

しかし…

多様性に配慮しない映画はアカデミー賞の対象からすでに外されていますが、何だかアカデミーにおもねった内容だな、アカデミー賞狙いか、とちょっとがっかりしたのも事実です。

今年の賞レースでは、何と言っても最初は『エミリア・ペレス』の年になると言われてたじゃないですか。それが、これもトランスジェンダー女優の主演者の醜聞が発覚し、事実上アカデミー戦線から脱落。それで『ANORA アノーラ』が受賞したわけですが、最後のほうで英国アカデミー賞を『教皇選挙』が受賞したときは、「『教皇選挙』のバズが急上昇中!」みたいな記事を見ました。あれは、トランスジェンダーがテーマの『エミリア・ペレス』の代わりとして、ということだったのですね。

だって、この『教皇選挙』、面白いといえば面白いけど、めっちゃ面白くはないですからね。

新教皇の性自認は男だけど、肉体は女、というのだって、びっくりはしたけど、やっぱりアカデミー賞におもねったか、あるいは多様性を尊重せよという世間の風潮に流されただけのように見えなくもない。

それに、新教皇が「女の肉体をもつ」という事実を知った主人公レイフ・ファインズがどうするかを見せてほしかった。そりゃま、周囲にばらさずに胸にしまっておくんでしょうけど、あのラストシーンのあとを見たかった、というのが偽らざる本音。

それと、新教皇が自らの正当性の保証として、前教皇のお墨付きをもちだすのは、何だか権威主義的で、最後の選挙直前の演説でしっかりした哲学の持ち主だと胸に沁みていただけに、もったいないと思いました。「神が造られたままの体です」というセリフ、その覚悟は素晴らしいと思いましたが。


マスターショットの有無
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この映画では、意図的なのかどうかわかりませんが、「マスターショット」のないシーンが多かったですよね。

マスターショットとは、そのシーンがどういう場所で、誰と誰が出ていて、人物たちの位置関係などがわかるショットのことです。上の画像は、コンクラーベが行われるシスティーナ礼拝堂のシーンのマスターショットです。

まったくないわけではなく、画像のようなマスターショットはあったのですが、ないシーンが多いし、あっても、そのシーンの最後のショットにもってくることが散見されました。

少なくとも、初めてシスティーナ礼拝堂が映った場面では、結構な時間、マスターショットがなく、その場がどれぐらいの広さで、全部で何人くらいの人物が座っていて、主人公とその他の人物の位置関係がどうなってるのかがわからなくてイライラしました。

『スコセッシ・オン・スコセッシ』という本でマーティン・スコセッシは「この映画はマスターショットなしで行こうと思った」みたいなことを何度か言っていて、監督したことのない私にはわからない、映画監督ならではのこだわりもあるんでしょうけど、その場の広さや人物の位置関係がわからないと、何だか息が詰まるんですよね。

劇中、システィーナ礼拝堂に缶詰めになる場面が多く、「閉所恐怖症の枢機卿に配慮せねば」みたいなセリフもあるので、コンクラーベそのもの息詰まる感じをできるだけ再現して観客に届けようという演出意図なのかもしれませんが、私は痒い所に手が届かない映画」だな、と思って見てました。


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せっかく、システィーナ礼拝堂を再現した大掛かりなセットを作ったんだし、寄りの画よりも、マスターショット、つまりロングショットを多用したほうが、それこそ「絵」になったんじゃないかと思いました。


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レイフ・ファインズ、最後のチャンスを逃したか。ここから巻き返しがあるのか。『ザ・メニュー』もよかったですけどねー。見事に無視された。


ザ・メニュー (字幕版)
John Wilkins III
2023-01-11


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