NHKスペシャルにてドキュメンタリードラマという奇妙なジャンルとして放送された、『創られた真実 ディープフェイクの時代』を興味深く見ました。(以下ネタバレあり)
『創られた‟真実” ディープフェイクの時代』

脚本:大石哲也
出演:青木崇高、入山法子、本仮屋ユイカ、白山乃愛、泉澤裕希
物語のあらまし
主役の青木崇高の妻が数か月前に自殺した。理由は会社がもつ個人情報を20万件以上漏洩したことに責任を感じて、というもの。青木崇高は、妻が生前、ある会社に頻繁に訪れていた事実を知り、その会社に潜入すべく転職する。
直属の上司からディープフェイクの作り方を学ぶ。息子がなくなった事実を知らないおばあさんに対し、孫が語りかける。それを、さも息子が元気にしゃべっているような動画に作り変える。「これって嘘ですよね」と青木崇高。上司は「それで喜ぶ人がいるんですよ」と少しも悪びれない。
結果的に、この上司があるフェイク動画を作り、それを使って青木崇高の妻に顧客情報を漏洩させていた事実が発覚する。上司に詰め寄る青木崇高。「あんなのただの嘘じゃないか」「古いなぁ。いまは真実を一人一人が選べる時代なんですよ」みたいなやりとりの末、青木崇高は「警察に突き出す」といって、上司は逮捕される。
上司には上司の言い分がある

この上司を「悪人」に仕立て上げ、めでたしめでたしという締め方になっています。でも、それでいいの? というのが率直な感想です。
かつて映画の専門学校で、脚本の書き方としてこんなことを教わりました。
「シナリオには葛藤、つまり人物と人物の対立が必要。でも善と悪の対立にしてはだめ。善と善の対立にしないとドラマは深まらない」
この『創られた真実 ディープフェイクの時代』では、青木崇高の上司を「悪」に設定しています。
確かに普通の感覚では「悪」でしょう。ペットや亡くなった人の動画を作るくらいならまだしも、顧客情報漏洩のために人を騙しているわけですし。
彼は青木崇高に詰め寄られたとき、こんなことを言います。「23万件の個人情報がいくらになると思います? 10億ですよ。それだけの金があればもっと困っている人を助けることができる」。
これは詭弁ですが、でも、彼はそれが真実だと信じているんですよね。ディープフェイクで作った動画を「嘘っぱち」と断じる青木崇高もそれが真実だと信じている。それぞれに言い分がある。それぞれの言い分をもっと深く掘り下げる必要があると思います。
まともな(と思われる)青木崇高が「善」で、ディープフェイクで人を騙す上司が「悪」、そういう勧善懲悪物語では、ディープフェイクにはまる人たちの深奥に迫ることはできないと思います。誰か一人を罰したら解決する問題じゃないし。
実際、上司逮捕のあとのオチとして、青木崇高の娘がディープフェイクで死んだ母親と楽しく会話しているシーンで幕を閉じます。
必ずしも勧善懲悪の物語が悪いわけではありません。私も最近、ジェイソン・ステイサム主演の『ビーキーパー』というアクション映画を堪能したばかり。でも、こういう深刻な社会問題を扱う場合、勧善懲悪ではなく、善と善の対立にしないといけないと改めて感じました。
妄言多謝
『創られた‟真実” ディープフェイクの時代』

脚本:大石哲也
出演:青木崇高、入山法子、本仮屋ユイカ、白山乃愛、泉澤裕希
物語のあらまし
主役の青木崇高の妻が数か月前に自殺した。理由は会社がもつ個人情報を20万件以上漏洩したことに責任を感じて、というもの。青木崇高は、妻が生前、ある会社に頻繁に訪れていた事実を知り、その会社に潜入すべく転職する。
直属の上司からディープフェイクの作り方を学ぶ。息子がなくなった事実を知らないおばあさんに対し、孫が語りかける。それを、さも息子が元気にしゃべっているような動画に作り変える。「これって嘘ですよね」と青木崇高。上司は「それで喜ぶ人がいるんですよ」と少しも悪びれない。
結果的に、この上司があるフェイク動画を作り、それを使って青木崇高の妻に顧客情報を漏洩させていた事実が発覚する。上司に詰め寄る青木崇高。「あんなのただの嘘じゃないか」「古いなぁ。いまは真実を一人一人が選べる時代なんですよ」みたいなやりとりの末、青木崇高は「警察に突き出す」といって、上司は逮捕される。
上司には上司の言い分がある

この上司を「悪人」に仕立て上げ、めでたしめでたしという締め方になっています。でも、それでいいの? というのが率直な感想です。
かつて映画の専門学校で、脚本の書き方としてこんなことを教わりました。
「シナリオには葛藤、つまり人物と人物の対立が必要。でも善と悪の対立にしてはだめ。善と善の対立にしないとドラマは深まらない」
この『創られた真実 ディープフェイクの時代』では、青木崇高の上司を「悪」に設定しています。
確かに普通の感覚では「悪」でしょう。ペットや亡くなった人の動画を作るくらいならまだしも、顧客情報漏洩のために人を騙しているわけですし。
彼は青木崇高に詰め寄られたとき、こんなことを言います。「23万件の個人情報がいくらになると思います? 10億ですよ。それだけの金があればもっと困っている人を助けることができる」。
これは詭弁ですが、でも、彼はそれが真実だと信じているんですよね。ディープフェイクで作った動画を「嘘っぱち」と断じる青木崇高もそれが真実だと信じている。それぞれに言い分がある。それぞれの言い分をもっと深く掘り下げる必要があると思います。
まともな(と思われる)青木崇高が「善」で、ディープフェイクで人を騙す上司が「悪」、そういう勧善懲悪物語では、ディープフェイクにはまる人たちの深奥に迫ることはできないと思います。誰か一人を罰したら解決する問題じゃないし。
実際、上司逮捕のあとのオチとして、青木崇高の娘がディープフェイクで死んだ母親と楽しく会話しているシーンで幕を閉じます。
必ずしも勧善懲悪の物語が悪いわけではありません。私も最近、ジェイソン・ステイサム主演の『ビーキーパー』というアクション映画を堪能したばかり。でも、こういう深刻な社会問題を扱う場合、勧善懲悪ではなく、善と善の対立にしないといけないと改めて感じました。
妄言多謝

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