アカデミー賞を受賞した『ANORA アノーラ』を見てきました。もう二日たちますが、複雑な思いにとらわれています。(以下ネタバレあり)


『ANORA アノーラ』(2024、アメリカ)
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脚本・監督・編集:ショーン・ベイカー
出演:マイキー・マディソン、マーク・エイデルシュテイン、ユーリー・ボリソフ、カレン・カラグリアン


物語のあらまし
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ニューヨークで娼婦をしている主人公アノーラ。ロシア人の若い男イヴァンに見初められ、大金をもらって数日を共にする。お互い意気投合し、その勢いで結婚。イヴァンの両親はロシアの大富豪で、「娼婦と結婚とはどういうことだ」と部下を乗り込ませてき、何だかんだの末に、結婚式を挙げたネバダ州まで行って強引に結婚を破棄される。両親の言いなりのイヴァンに対しアノーラは「ヘタレ!」と罵るが、ニューヨークまで戻るときの付き添い男イゴールにやさしくされ、結婚指輪を渡される。アノーラはお返しとばかり体を提供しようとするが、キスもできずイゴールを拒否してしまう。本当に愛しているのはあのヘタレのイヴァンだったと気づいたアノーラは号泣するのだった。

ラストシーンがとても印象的でしたね。感動したし、見に行ってよかったと思う。

では、何が私をして複雑な思いに駆らせさせるのか?


ラストシーンのあとが見たかった?
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これがラストシーンです。イヴァンへの愛に気づき、号泣するのをイゴールに抱きしめられるアノーラ。映画史上に残る名ラストシーンでしょう。

でも、帰り道で私は、「あの後を見せてほしかった」と思ったんですよね。

つまり、実際のラストシーンをミッドポイントに置いて、アノーラの反逆というか、イヴァンへの愛を貫く彼女を見たかった。最後はイヴァンと一緒になれてハッピーエンド、というね。

それじゃあ『プリティ・ウーマン』? いや、それでいいと思ったんですよ。そのときは。


偏見をなくしたかった?
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帰宅して今度はショーン・ベイカー監督のインタビュー記事を読むと、「セックスワーカーへの偏見をなくしたい」との思いで本作を製作したらしい。

なるほど、そういう意図であれば、アノーラをハッピーエンドに落ち着かせたら、「男を体で釣るような女なのね」と反感を買ってしまう。それで、涙の終幕ということにした。娼婦だって普通に悩むし悲しみに暮れたりする、あなたたちと同じ人間なんですよ、と。

それなら納得できる。哀しい結末にしたのは納得できるけど、今度は別の疑問が頭をもげてくる。


中だるみ
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この映画は多くのアメリカ映画と同じく、三幕構成になっています。

第一幕 アノーラとイヴァンの出逢いから結婚まで
第二幕 追手とのドタバタ
第三幕 ラスベガスで結婚破棄⇒ラストシーン

第一幕もちょっと長かったですが(あそこまでセックスシーンを何回も描かなくてもいいと思う)第二幕の追手とのドタバタが一番長い。

男たちがアノーラを押さえつけようとしたり、アノーラが全力で逃れようとしたり、大声を出したり、猿ぐつわを噛まされたり、ちょっとあまりに派手なシーンばかりで興ざめしました。あそこらへんはもっと刈り込んでいいように思う。

本作は139分という長尺ですが、100分あるいは90分ぐらいまでカットできるのではないでしょうか。

先述した、『プリティ・ウーマン』のようにハッピーエンドが望ましいと言ったのは、実際の映画全体を短くしたうえでのことです。90分まで切れば、アノーラとイヴァンの再会、両親への反逆、二度目の本当の結婚が充分描ける。

でもね、何かに載っていた記事では、「『ANORA アノーラ』を見ると『プリティ・ウーマン』がまるでディズニー映画のようだ」とあって、確かにあんまりおとぎ話風にすると甘ったるくなってしまうかな、とも思う。

多くの人が言っているように、ショーン・ベイカーなら前作『レッド・ロケット』のほうが素晴らしいし、アカデミー賞やカンヌ金賞などは過大評価のようにも思う。

その理由は、やはり、全体が長い、ということと、中だるみしてしまうことと、終わるべきシーンで終わっていないのではないか、という疑問を観客に抱かせるからではないか。

マイキー・マディソンやユーリー・ボリソフなど役者陣は最高で、役者がよかったということは監督がよかったということであり、監督賞には納得だし、あのラストシーンの余韻にいまも浸っている身からすると、作品賞も納得と思わないではない。

ほめていいのか、あるいはその逆か、ゆらゆら揺れています。あなたはどう感じましたか?

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レッド・ロケット (字幕版)
スザンナ・サン
2024-01-22


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