『アプレンティス ドナルド・トランプの創り方』(2024、アメリカ)(以下ネタバレあり)
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脚本:ガブリエル・シャーマン
監督:アリ・アッバシ
出演:セバスチャン・スタン、ジェレミー・ストロング、マーティン・ドノヴァン、マリア・バカローヴァ


意外なトランプの若き日
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日本時間の明日、二期目の大統領に就任するドナルド・トランプの若き日(70年代から80年代末)を描くこの映画は、まさか、と思うものを見せてくれます。

20代のトランプは、野心はあっても初心で控えめでおとなしい青年だったんですね。知らなかった。

その彼を変えたのが、ロイ・コーンという弁護士。調べてみると、何とあの赤狩りのマッカシー上院議員の右腕として辣腕を振るい、ニクソンやレーガンといった共和党大統領からマフィアのドン、ジョン・ゴッティに至るまで、多くのクライアントを抱えたニューヨークのフィクサーだったとか。

トランプはロイ・コーンから重要な三つのルールを教わります。それがこれ。

第一のルール 攻撃、攻撃、攻撃
第二のルール 非を絶対に認めるな
第三のルール たとえ劣勢でも勝利を主張し続けろ


なるほど、トランプが大統領になってからの下品なふるまいはすべてロイ・コーンからのパクリだったわけですね。

まぁ、生き方に著作権などないのだから、真似したかったら好きなだけ真似すればよろしい。

私がロイ・コーンとトランプの関係を見て想起したのは、次の言葉です。

「憎悪するものに自らなりきること。それが唯一の生き残る道だ」

これです。出典は『スコセッシ・オン・スコセッシ』。映画監督のマーティン・スコセッシにインタビューした本です。


二つのタイトル
もう30年以上前にテレビの洋画劇場で一回見たきりなのでほとんど憶えてないけど、『ハスラー2』がそういう映画だったらしいですね。ポール・ニューマンを慕うトム・クルーズが彼を憎悪するが、彼になりきることで生き残りを図る物語だとか。確か『ハスラー』の1作目がほとんどそういう物語だったようにも思うんですが、それはまた別の話。

そういえば最近同じようなの見たなぁと思ったら、すぐ近くにありました。NHKの大河ドラマ『べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~』。

あの中で主役の横浜流星が吉原に客足を戻したい一心で吉原細見や花魁の見立て本なんかを作るんですが、彼を幼少のころに拾って育てた忘八親分の一人・高橋克実は面白くなく、蔦重に出ていけ! という。

横浜流星は別に高橋克実を憎んでいるわけでもないし、彼みたいな忘八親分になろうとしているわけでもない。ただ、高橋克実は手塩にかけて育てた横浜流星が自分の懐から大きく羽ばたこうとしていて、それが面白くない。「かわいさあまって憎さ百倍かい。まるで人みたいなことを言うじゃねえか、忘八のくせに」と仲間の忘八親分にからかわれて、高橋克実は自分の甘さに気づきます。


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『アプレンティス ドナルド・トランプの創り方』のロイ・コーンは、自分と同じスローガンで時代の寵児になっていくトランプに対し、やはり面白くないようで、トランプを殺しに来たのかとハラハラしちゃうシーンまであります。

ある男がいて、絶大な権力をもっている。彼にあこがれる若者は、その男になりきろうと努力し、成功して元の男と同じかそれ以上のカネと権力を手に入れる。元の男はそれが面白くない。

あ! と思いましたね。これって『イヴの総て』じゃないの? あれは女だけど。

というか、『ハスラー2』は80年代の映画で、『アプレンティス ドナルド・トランプの創り方』も80年代を舞台にしている。どちらも女の影が薄いというか、男たちのドラマの添え物でしかない。

そう考えると、男たちのドラマの添え物のようでいて添え物には終わらない『べらぼう』が吉原と蔦屋重三郎に目をつけたのは、古い革袋に新しい酒を入れたといえるのかもしれません。


ハスラー2 [Blu-ray]
ヘレン・シェイバー
Happinet
2012-12-05


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