黒沢清監督が1998年に撮った『蛇の道』をセルフリメイクした柴咲コウ主演の『蛇の道』を見てきました。(以下ネタバレあり)


『蛇の道』(2024、フランス・日本・ベルギー・ルクセンブルク)
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オリジナル脚本:高橋洋
脚色:黒沢清&オーレリアン・フェレンツィ
出演:柴咲コウ、ダミアン・ボナール、マチュー・アマルリック、グレゴワール・コラン、西島秀俊、青木崇高


主役を女性に変更
元ネタの哀川翔から柴咲コウに変更し、当然のことながら性別も変更。それが吉と出たか凶と出たか。

私は「どちらでもない」と感じました。というか、どっちでもよくない? 女に変わったことで、復讐主と最初思われていた男に手を握られたり、キスしかけたり、といった性的なあれこれが増えてたけど、それぐらいでは? あと、旦那の青木崇高は離婚はしてないけど日本に住んでいて、リモートで話をするうち、彼が娘を人身売買ブローカーに売り飛ばした張本人だと判明する驚愕のラストとか、女に変えたからできたのかな。(男が主役で奥さん(つまり母親)が売り飛ばすというのはリアリティが感じられないし)

でも、あとはたいして変わってないですよね。主人公の職業を心療内科医に変えた理由もよくわからないし、患者役で西島秀俊が出てくる意味もわからない。

「意味」といえば……

専門学校時代の友人が、東京国際映画祭に行った折に黒沢監督に強引に会いに行き、話をしたそうです。

そのとき黒沢さんは「何でみんな映画に意味を求めたがるんだろう?」と首をかしげていたとか。

だから、あまりこの映画に「意味」を求めるのはやめます。脚本家志望者だった者としては「意味」にはこだわりたいけど、今回は特別に。

ここからは役者の話です。


柴咲コウ
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柴咲コウは確かに美しい。かっこいい。だけどあの強さと美しさに比して身長が低すぎないか。いや、むしろ普通の日本人に比べれば高いほうだというのはわかっています。でも、あの硬骨とした美しさなら、米倉涼子や小雪、松下奈緒と同じくらいの身長が必要なような気がしました。

だから最初から米倉涼子を使うという手もあったように思います。ブロードウェイでの経験もあるし。柴咲コウも英語はペラペラだが。

しかしながら、このリメイク版『蛇の道』を見ていて喉から手が出るほどほしかったのは、やはり何といっても、1998年版の主演俳優・哀川翔でした。


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まったく同じ役ではないけど、役どころは同じなわけで、そこで比較すると、哀川翔と柴咲コウでは「役者が違う」と言うしかない。もちろん、哀川翔のほうが1000倍くらいいい役者です。

でも、まぁ、リメイクするなら何かを変えないといけないし、それに哀川翔っていま何してるんですか? カブトムシ? 長らく見ないなぁ。もうとっくに還暦らしいけど。

ゲーリー・クーパー、ジョン・ウェイン、クリント・イーストウッドという「偉大なる大根」の系譜に連なる役者だと信じて疑わないだけに、その不在が惜しまれます。

といっても、やはりこれはリメイクだから主役を変える。これは理解します。

でも、この人はどうでしょうか。


香川照之
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哀川翔に「お前が一番嫌いだ」と言われる香川照之と同じ役にあてがわれた役者さん。

日本では無名の、ひどく茫洋とした感じの顔の役者を使ってますが、これが一番痛い。

なぜもっと日本でも知名度があり、もっと個性的な顔の俳優を使わなかったのでしょうか。


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1998年版での香川照之もまだ無名に近かったけど、役者として尖ったところがすでにありました。あのフランス人の役者には何もない。

というわけで、大まかな物語は同じ脚本で、主役を柴咲コウに変えた。ここまではわかります。

でも、香川照之の役に、あんな茫洋とした役者を使ったことは2024年版『蛇の道』の決定的敗因と考えます。

妄言多謝


蛇の道
下元史朗
2020-11-30


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