劇場公開時にすごく評判が良かったので見てみました。山下敦弘監督最新作『カラオケ行こ!』。これが何とも残念な出来映えでした。というか、とっても惜しい。(以下ネタバレあります)


『カラオケ行こ!』(2023、日本)
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原作:和山やま
脚本:野木亜紀子
監督:山下敦弘
出演:齋藤潤、綾野剛、芳根京子、橋本じゅん、やべきょうすけ、坂井真紀、北村一輝


シチュエーション作りはとても巧妙
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かつて映画の専門学校で脚本のシチュエーション作りについてこんなふうに習いました。

「シチュエーションは人物と場所の組み合わせなんだ。その人物と軋轢をなす場所を考える。逆でもいい。その場所に『緊張の種』が置かれるような人物をもってくる。それだけでいいんだ」

当たり前といえば当たり前ですが、これを実践するのはとても難しい。

でも、この『カラオケ行こ!』はとても巧妙にこの難題をクリアしてますよね。

蓮實重彦はよく、ロッセリーニの『イタリア旅行』を引き合いにして、「男と女と車があれば映画は撮れる」とよく言ってますが、この『カラオケ行こ!』は、「男と男とカラオケボックス」ですよね。もっと正確に言えば、「ヤクザと中学生とカラオケボックス」。

ヤクザと中学生が一緒にいるだけでも変なのに、二人がいる場所がカラオケボックス。これはシチュエーションのお手本というべき作り方でしょう。

ヤクザが合唱部の部長に「歌い方を教えてほしい。組のカラオケ大会で最下位になったら組長に変な入れ墨されてしまう」と泣きつくのも面白い。

ですが……


人物描写に難
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この人物がヤクザに見えますか? ごく普通のサラリーマンみたい。

綾野剛は好演しているとはいえ、監督の演出が足りないので少しもヤクザに見えません。主人公の中学生は一歩間違えれば殺される状況にいるのに、綾野剛が暴発したり、キレかかったり、少しもしない。面白くない。その代わり周りにいるヤクザがキレるんですが、綾野剛がいる前でキレても彼が収めるのが目に見えているからつまらない。


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主人公は合唱部をさぼって綾野剛に歌のレッスンをします。なぜかといえば、彼はいま声変わりの時期でまともに歌えない。そういうデリケートな時期なので部活をさぼる。それはわかります。でも、それなら見学するとか、他の部員へアドバイスするとか、部長としてやれることはいっぱいあるんじゃないですか? それを綾野剛へのアドバイスに時間を使うというのは動機が足りないと思います。

長いことさぼっていたのに、担任の芳根京子からは何のお咎めもなく、うるさそうな女子生徒からも何もなし。ご都合主義では?

声変わりといえば……


天才問題
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主人公は合唱部の部長でとても歌がうまいという設定なので、実際に歌うときにはかなりの歌唱力を見せつけねばなりません。

しかし、この映画では彼がなかなか歌わない。焦らされます。この焦らしがいいんですよね。

案の定というべきか、組のカラオケ大会で初めてその美声を聴かせることになる。んですが、声変わりしていてX JAPANの高音域が出せない。

これは賢明なやり方ですね。これなら美声でなくともよい。並みでいい。

だから「声変わり」というやり方を使ったのでしょうが、それが彼をして部活をさぼらせるとまでになってしまうと、リアリティがないように感じました。あともうひとつ何か理由があるとよかったんですがね。

というわけで、シチュエーション作りには目を瞠るものがあった『カラオケ行こ!』ですが、綾野剛がヤクザに見えないとか、主人公の行動原理に無理があるなど、残念な映画でもありました。


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