アカデミー賞の長編国際映画賞にノミネートされている役所広司主演による『PERFECT DAYS』。

ある人は、「ヴェンダース監督作品を日本映画と呼ぶのははばかられる」と言っていて、いやいや、そんなのただの差別主義でしょう、と思ったけれど、実際に映画を見てみると、別の意味で「日本映画とは呼びたくない」作品でした。


『PERFECT DAYS』(2023、日本)
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製作総指揮:役所広司
脚本:ヴィム・ヴェンダース&高崎卓馬
監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、三浦友和、田中泯


内容は素晴らしい
判で捺したような平山という主人公の日常を綴っていく様はとてもいいと思うんですよ。

ほとんど同じ日々を反復するうちに、姪っ子が出てきたり、石川さゆりと元夫の三浦友和が抱き合う姿を見てしまったり、いつも同じところでお昼を食べているが、ある日から隣のベンチにOLらしき女性が毎日一緒に食べるようになったり、キャバ嬢と車の中で一緒に音楽を聴いたり、そうやって、反復が差異を生んでいく様が実にスリリングで大変美味でした。

じゃあ何にいちゃもんをつけたいんだ? と思う向きもありましょう。



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役所広司の顔ですよ、顔。いや、顔そのものがいけないといっているのではなく、昔より滋味にあふれたその顔は眼福ならぬ顔福といいたいくらいいい顔なんですよね。

じゃあいいじゃないか。

いやいや、待ってください。

この映画では主人公があまりに寡黙な男という設定ですが、寡黙ゆえにセリフが少ない。だから、顔の表情で何かを語ろうとする。それが過ぎているといいたいのです。

ラストの役所広司の顔なんて、なにかを語りたがっているのはわかるんですが、結局何を語ろうとしたのか皆目わからない。

何かにつけてこの映画は役所広司の演技力に頼って、顔で感情を語ろうとしすぎなのです。


背中で語れ
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もっと背中で語らせるべきだと思う。

この国はいまだに、あの懐かCM「男は黙ってサッポロビール」の価値観が支配的なので、背中が雄弁にいろいろ語ってくれたと思うんですよね。特に、麻生祐未の妹と久しぶりに再会して泣きそうになるところなんか、泣きそうな顔を撮るんじゃなくて、うなだれた肩や後頭部をこそ撮るべきだったと思う。

そういうわけで、この映画を「日本映画」と呼ぶのははばかられる、という次第です。


マッケンドリックが教える映画の本当の作り方
アレクサンダー・マッケンドリック
フィルムアート社
2009-09-28



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