NHKドラマ『舟を編む ~私、辞書つくります~』、まだ全10回のうち3話しか見てませんが、かなり面白い。

原作は読んでないし、10年ほど前に見た映画版はほとんど憶えてないので、初体験に近いです。


『舟を編む ~私、辞書つくります~』(2024、NHK-BS)
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原作:三浦しをん
脚本:蛭田直美
出演:池田エライザ、野田洋次郎、渡辺真起子、前田旺志郎、柴田恭兵、岩松了、向井理、矢本悠馬、美村里江


「人生」と同じ状況
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主役の池田エライザはファッション誌の編集をやりたくて出版社に入ったものの、異動で辞書編集部に配属される。

これって、2006年のアメリカ映画で、ジャーナリスト志望の主人公がファッション誌の編集をやらされる『プラダを着た悪魔』の逆バージョンというか、はっきりパクリですよね。パクリが悪いとは言いません。私も専門学校の恩師から「もっとうまくパクれ」といつも発破をかけられていたので。

大事なのはパクリかどうかではなく、同じ設定がまったく別の国で変奏され、視聴者の胸に届いているということです。これは人間がみな本来味わわされていることだからでしょう。

生まれる、とは、この世界に暴力的に生み落とされることです。こんな世界はいやだ、といっても、始まりません。置かれた場所で咲きなさいなんて言葉もあるように、生まれた世界で生きていくほかないのです。

『プラダを着た悪魔』もこの『舟を編む』も、主人公の置かれた設定が「生」というものの本質的なメタファーだから世界中の人々に届くんだと思います。


「右」を説明せよ
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辞書作りをすることになった池田エライザは、まず柴田恭兵や岩松了など偉い人たちから、

「右をどう説明しますか?」

と訊かれます。これは難しい。池田エライザは「→」と書いて答えます。みんなハッとするものの、辞書はそれではいけない。言葉で説明しなければ。

この「右」問題も、子どもの頃の経験のメタファーですよね?

子どもは膨大な量の会話を両親から聞き、言葉を憶えますが、それでも言いたいことが伝わらないことがある。こういうときどう言えばいいのか。あの苛立ちですよね、この「右」問題というのは。

いや、だから右って、そりゃ右でしょ?

では何の説明にもなっていない。あまりに根源的な問いだからこそよくよく考えないと答えにならないし、聞いた人もわからない。

辞書作りって、だから、「言葉を憶えていく過程」なんですね。それは子どもが大人になること。つまり生きるということ。だから、初めて見る物語なのにこんなにも懐かしい気がするんですね。


池田エライザ演じる主人公が「恋愛」の語釈をどう考えるか、見ものです。私も自分なりにやってみようかな。

あと、野田洋次郎演じる主任の馬締(まじめ)が真面目と駄洒落になっているのもいいですね。日本語は同音異義語が多いから。駄洒落というより洒落てる。芸が細かい。

生にかかわる根源的な物語を「人間喜劇」として提示しているところも大変気に入りました。

4話以降も楽しみです。


池田エライザ シール
ノーブランド品


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