天才少女をどう育てるべきかという「天才論争」を描いた『gifted/ギフテッド』を見ました。(以下ネタバレあり)


『gifted/ギフテッド』(2017、アメリカ)
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脚本:トム・フリン
監督:マーク・ウェブ
出演:クリス・エバンス、マッケナ・グレイス、リンゼイ・ダンカン、ジェニー・スレイト、オクタビア・スペンサー


「普通」とは何か
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クリス・エバンス演じるフランクの姉は天才数学者で、世にも難しいナビエ・ストークス方程式を解きかかったこともあり(実は解いていながら未公表)数学の歴史に名を遺していたかもしれない神童だった。しかし、天才とは特別であるがゆえに、えてして世の中から排除されてしまう存在。クリス・エバンスの姉もそこに悩み、一人娘メアリーを遺して自殺してしまう。メアリーにも天賦の才があると見た彼女は「普通に育てて」という遺言だけ残していた。

だからクリス・エバンスは「普通に」育てようとする。彼の「普通」とは、「友達を作り、遊んで」というただそれだけで、7歳児にして大学教授でも解けない問題をいとも簡単に解いてしまうメアリーの「特別さ」に比べてあまりに薄弱なのが難点です。「普通に育てたい」という彼の意志が最終的に勝利するなら、「普通とは何か」という一大問題について何らかの解答を見せてほしいと思ったのは私だけではないはず。


司法の判断は?
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クリス・エバンスの母、つまりメアリーの祖母が親権を主張して裁判を起こします。祖母の主張はクリス・エバンスとは真逆で、特別な才能があるのだから特別に育てるべきだ、というもの。論点は明確です。

クリス・エバンスにはなかなか腕利きの弁護士がついており、裁判の途中で司法取引を提案され、受けるべきだとクリス・エバンスに主張します。

その弁護士は、当該裁判の判事に当たったことが何度もあるらしく、「たとえ彼が君の母親を嫌いでも、財産や家、保険を気に入って判決を下すだろう。そういう人間なんだ」と言います。

なるほど、いくら「司法」といっても、判事も人間だから「金をもってそうなほうに親権を認める」と。なるほど、そういうものなのかもしれません。

であれば、この裁判の行方は最初から決していたと言えます。ただ、判事は最初、クリス・エバンスとその弁護士に共感を抱いていたから接戦になっただけだと。

しかし、初めから勝敗が決していたといえば……


クリス・エバンスの継父
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映画の中盤で、祖母イブリンの夫にして、クリス・エバンスの継父に当たる男のことが話題になります。

彼は、都会っ子だったのに、70歳にしてカウボーイハットをかぶり牧場暮らしをしている、と。

イブリン曰く、「これが若い女が相手だったら説明するのが簡単なんだけど」。

仰天しました。夫婦なのに、不倫されるより牧場暮らしのほうが嫌らしいのです。その理由は、不倫のほうが「普通」だから。

ここに、「メアリーは天才だから特別に育てるべきだ」という彼女の本当の意志が見え隠れしてますよね。

彼女の夫はカウボーイハットをかぶっていて「特別」な老後を送っている。それがいやだというのは、メアリーを「特別」に育てるのだっていやだということでもあります。普通でありさえすれば不倫すら受け入れるらしいですから。

彼女が、クリス・エバンスから叩きつけられたナビエ・ストークス方程式の証明論文にあった、「証明終わり。やった!」という娘のメモを見て、メアリーをクリス・エバンスに託そうとひどく簡単に決心してしまうのは、彼女の心の中に「子どもたちのほうが正しい。普通に育てよう」という意志が最初からあったからです。

彼女はただ、天賦の才を授かりながら自殺した娘や、娘の遺志に忠実すぎるその弟に拒絶反応を示していただけなのですね。


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結局、メアリーはMITで数学を学び、そのあと地元の小学校で同年の友人と遊ぶという「特別で普通」という生活を得ます。

それが「正解」だったのかどうかはわかりませんが、みんなが望んでいた結末を迎えられたようで、めでたしめでたし。


天才と発達障害 (文春新書)
岩波 明
文藝春秋
2019-04-19






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