遠藤三郎監督による1972年のロマンポルノ『団地妻 忘れ得ぬ夜』を見て笑いが止まらなくなりました。良質のコメディです。(以下ネタバレあります)


『団地妻 忘れ得ぬ夜』(1972、日本)
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脚本:新木薫
監督:遠藤三郎
出演:宮下順子、浜口竜哉、弾力也、森竜三


最初はミステリー仕立て
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宮下順子演じる律子という女は、夫が普通のサラリーマンで、昭和中期という時代なのに結婚後もOLを続けています。あとで説明がありますが、夫は稼ぎが低く、ちょいとお金に困っているのですね。

そんな律子が社員旅行に出かけると、暗い部屋で会社の誰かに犯されます。いったいあれは誰だったんだろう??? レイプ犯は誰か、というミステリー仕立てで物語は駆動されます。

でもそんなミステリーはあっさり終わりを告げます。見るからにエロ爺な感じの課長だろうかなんて思っていたら、同僚の長田というなかなかのイケメンの男が犯人でした。律子は長田とのセックスが忘れられないのでした。なぜなら夫とのそれでは決して得られない女の悦びに満ち溢れていたから。またも長田に抱かれる律子はもう彼を拒絶できません。

そんな会社での出来事の他に、大阪出身の木本という男から資金繰りに困っていてお金を都合してもらいたいと言われ、律子は木本を毛嫌いしているくせに、給料を前借してまで用立てるんですね。ここで初めて笑いました。


ここまでなら悲劇だが……
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そのあとで、木本から金を返してもらう席で犯されるんですが、あんな男相手にそんなことしてたんじゃそりゃやられますわな。やはり長田とのセックスがもとで、夫では得られない快感に身をよじりたいという欲望が湧き上がってきていたんでしょうか。

ここまでなら、ただのレイプ魔の男とレイプ願望をひそかにもつ女のドラマにすぎません。この映画を非凡な「喜劇」にしているのはここからです。


ここから喜劇
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テレビで、誰かがレイプされたことを告白し、どうすればいいか、との相談が寄せており、それを見た律子が夫に、「あたしがそういうことになったらどうする?」と訊くと、夫はあっさり「別れる」と即答。

「当たり前じゃないか。他の男に抱かれた女なんかいらないよ。第一性的に汚らわしい」

なるほど、レイプされた妻の苦悩とかどうでもいいんだ。それが昭和の男の「普通」だったのかどうかはともかく、少なくともこの夫にとって女という生き物はどこまでも「便所」なんだなと思いました。


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律子の夫にはちょっとガラの悪い弟がいて、この弟が毎月実家の両親の世話をしているからと3万円もっていくんですね(それで金に困ってる)。そのときに、律子の尻を撫でまわすなどやりたい放題。夫もさすがに厳しい目で叱責するのですが、上述の木本に呼ばれて連れ込み宿に誘われた律子をこの弟が目撃して追っていくんですよ、画像の女と一緒に。

で、律子はあろうことか、義理の弟にまでレイプされるんですが、この弟も女を「便所」扱いしているうえに、この恋人の女もそうですよね。自分の男が他の女に手を出してる現場を見ながら、止めるどころか、一緒になって囃し立ててるんだから。この女自身が女を差別している。


夫婦どっちもバカ
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すべてが明るみになって、律子は夫から別れを告げられます。

会社もクビになったのかどうか判然としませんが、律子はソープ(昭和だからトルコ風呂か)で働き始めます。

何とそこに元夫がやってきます。強引に連れて帰ろうとでもするのかと期待したんですが、何と客として一発やってしまう。この下衆な夫は、どこまでも「女は便所」としか思ってないようなのです。

それどころか!

それから毎週店にやってくるようになった夫に抱かれながら律子は、「夫との行為に目くるめく快感を感じるようになった」というナレーションを残して終わるんですね。

この夫婦は、いずれもが「女は便所」としか思ってないのでした。というか、この映画に出てくる男女がみんなそうです。長田というイケメンも、木本も、義理の弟も。爆笑!

男は女を思いやろうとなんかしてないし、女自身もそんなことを期待してないというか、便所扱いするんならどうぞご自由に、みたいな感じ。

律子が長田に犯されたのも、木本に犯されたのも、だから、当然のような気がします。元夫が客として来るなんて普通めっちゃ嫌なはずですが、嬉々として受け入れている。この映画の登場人物はどこまでもタガが外れているのです。だから笑える。

ここで大事なのは、男も女もどちらもバカ、という点ですね。男だけ、あるいは女だけがバカということにしてしまうと、反対側が善みたいになって、勧善懲悪になってしまう。

男も女もどっちもバカ。だから、「男と女にはアレしかないんよ」という有名な『四畳半襖の裏張り』のセリフは「真」なのでしょうね。

ロマンポルノにしかできないテーマ、物語と感じました。


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