ワイドナショーで「私人逮捕」が取り上げられていました。


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基本的に「逮捕」というのは警察官や検察官などにしか認められていない権利ですが、現行犯であれば逮捕特権をもっていない一般市民にも逮捕の権利はあります。

そこで、最近では、チケットを転売をした不届き者や、痴漢をしようとした人を現行犯逮捕したうえで彼らの顔を映した動画を撮影し、ユーチューブなどに挙げる行為「私人逮捕」なるものが流行っているとか。

これに関してロザンの対談を見たんですが、二人とも「これは正義をはき違えているでしょ」という意見で、世間一般の人の感覚も同じ人が多いんでしょうが、中には「もっと悪い奴をこらしめてほしい」などと称賛する人たちもいるとか。ワイドナショーのスタジオでも今田がそういう意見でした。

ロザンの菅が言っていました。

「正義というんやったら、撮影はいいと思うんですよ。撮るふりだけでもええけど。殴られたりしたら大変なんで、抑止力としてカメラを掲げて撮る、それはあり(←これには宇治原も同意)。でも、撮ったものをネットに上げたらそれはもう『正義』とちゃうよね。広告収入得るためでしょってなるから。ほんまに正義やったら上げへんでしょ」

でも、と菅は続けます。

「でもね、絶対に上げへんのやったら抑止力にならへんねん。『それどうせ上げへんのやろ』と言われてしまう。じゃあたまには上げよか、ってことになって、結局正義ではなくなってしまう」

ここまで聴いて、これはあの『巨人の星』の星一徹が編み出した「魔送球」とまったく同じだ、と思いました。


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魔送球とは、巨人軍の正三塁手だった一徹が、戦争で肩を傷めたために、弱い肩だとサードゴロが内野安打になってしまうということで編み出した魔球です。1塁セーフを狙うバッターランナーめがけて投げるため、ランナーは怖くて足を止めてしまう。そのときボールは急カーブを描いてファーストミットに収まる。

魔送球は「抑止力」として機能します。しかし、しばらくすればどうせ当たらないと高をくくったバッターランナーが足を止めずに1塁まで爆走するだろう、そうなれば何の役にも立たなくなる。

とチームメイトの川上哲治が指摘すると、一徹は高笑いします。

「だから、たまにはほんとに当ててやればいいんだ。そうすれば魔送球の威力は俺が引退するまで絶大なままだ」

それを聞いた川上哲治は一喝します。

「星くん、巨人軍を去れ!」

巨人軍は人間としても一流の紳士の球団だから、君のような選手はふさわしくない。チームを去りなさい、と。

その一言に、誰よりも巨人軍を愛する星一徹はおとなしくチームを去ります。

私人逮捕における撮影行為もこれと同じなんだと思いました。

正義の衣を纏ってはいるけど、結局、自分のためなんだと。私人逮捕では広告収入を得るため、魔送球ではレギュラーの座を守るため。自分のためです。そんなの正義でも何でもない。

撮影して顔にモザイクをかけずに上げればプライバシーの侵害に当たるおそれがあり、違法の疑いもあるわけですが、上げること自体は違法かどうか、かなり怪しい。

だから、その行為(撮影とアップ)は魔送球と同じで、紳士淑女がやる行為じゃないですよ、と言いたい。というのが結論ですが、この国にはもう紳士も淑女もいなくなってしまったようです。だからこのような、ただ自分のためだけの行為が「正義」としてはびこる。

そりゃま、チケット転売や痴漢とかそういうのも紳士淑女のすることじゃないけど、まぁどっちもどっちというかね。

「あんたは紳士/淑女じゃないから去れ!」

と言って去るような人間は一人もおらず、正論をいう人間を笑ったり茶化したりする輩ばかり。

政治家の非道も目にあまるけど、庶民の非道も同様じゃないかと思った初秋の正午でした。









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