約30年ぶりの再読となる不朽の名作『あしたのジョー』。久しぶりに読むと、子どもの頃と違っていろいろと新たな発見がありました。

文庫版全12巻。ブックオフですべて110円で買いました。集めるのに1年近くかかりました。それはともかく、いまようやく第2巻の半分くらい。少年院を退院するところまで読みました。(以下ネタバレあり)


ジョーの真っ当さ
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丹下段平のいるドヤ街に流れてきた矢吹丈は、地元の悪ガキたちを集めて悪事を働きます。パチンコ屋で当てた景品を売って小銭を儲けるというせこい商売。が、これが大機密書類に書かれたある「計画」のためだというんですね。

ジョーに言わせるとその計画とは……

その1、この広い川っぷちの両岸一帯に大人も子どもも遊べるでっかい遊園地を作ること。
その2、このドヤ街の西のはずれに立派な総合病院をぶっ立てること。
その3、東のはずれには歳を取って働けなくなった人のための養老院を作る。
その4、南のほうに小さい子どものための保育園。
その5、北のはずれには静かなアパートと何でも買える大マーケット。
その6、このドヤ街のど真ん中にでっかい工場を建て、仕事にあぶれている連中が一人残らず働けるようにする。

めちゃくちゃ真っ当ですよね。自分が楽しめるだけでなく、病人や年寄り、失業者のための町を作ろうという大計画。

ただ、この「正しい目的」が「手段」を正当化すると思っていたのがジョーの若さというか、いやいや、この『あしたのジョー』序盤のキーワードじゃないでしょうか。


青山君を利用した段平
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少年院で、ジョーにフットワークやガードの仕方など守備のテクニックを教えるために段平は青山君を利用します。

目的はジョーを世界一のボクサーに仕立て上げるために。それは犯罪者ジョーを真人間にするとても「立派な目的」です。

その目的のために青山君を利用するという手段を正当化している、とは段平は露ほども思ってないでしょうが、しかし、青山君が簡単に赦したことで正当化されたと思ってはいるでしょう。

この「正しい目的は手段を正当化する」という点において、矢吹丈と丹下段平は親和性が高いと思います。

親和性が高いから水と油のようだった二人が二人三脚で頑張っていくことになるのだと思うし、あしたのためにその一の葉書が来たとき、ジョーがジャブの練習を始めたのは、単に暇でしょうがなかったからだけではなく、段平のおっさんに自分に似たものを感じ取っていたからでしょう。


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そんな段平の言うことに最初は従わなかったのは、「俺は親の愛情もあったかい布団も知らずに育ったが、自由だけは自分の手でもぎ取ってきた」というセリフにあるように、段平の言うとおりにするのが自由を侵されることだと思ったからです。

しかし、いったん、あしたのためにその一で段平の指示通りにやるといままで打てなかったパンチが打てるようになると、「父親」を感じたんでしょうな。親の愛を知らずに育ったから、そこからは反発と親近とを繰り返して後者が勝る。

初めてできた「親」。その気持ちを利用して、青山君に肩入れしてジョーには冷たくするという段平の作戦は見事にはまります。


白木葉子の「目的」
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『あしたのジョー』の重要人物・白木葉子もすでに1巻から出てきますが、彼女は最後に「好きなのよ、矢吹君、あなたが!……好きだったのよ、最近まで気がつかなったけど」のあの有名な告白があります。

いつから好きになったのは定かではありませんが、おそらく画像の少年院の慰問会からなんでしょうね。しかし、彼女は段平と違い、ジョーとは相容れないからこそ彼に惹かれたようです。

葉子はジョーに喝破されます。

「あんたは自分のために慰問会をやってるんだろう」

その通りです。鞭うたれるためだけに段平をキャスティングする時点で完全におかしい。

少年院を回って慰問会をやること自体は素晴らしい。でも少年たちのためでなく自分を慰めるためにやる。それが「目的」なら慰問会は「手段」になります。

葉子は、「正しい手段によって目的を正当化しようとしている」のです。

ジョーや段平とは真逆です。

ジョーと段平は同性だから親和性の高さゆえに意気投合したのか。ジョーと葉子は異性だから真逆すぎる考え方ゆえに惹かれあったのか。そこはよくわかりません。

いまの私の興味は、青山君を手段として利用した段平が、ジョーをも手段としているのではないか、ということです。自分の立身出世のために。


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何せ30年ぶりなので細かいところは忘れてるのでね。続きを読むのが楽しみです。


あしたのジョー論
吉田 和明
風塵社
1992-11-01






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