『最終講義』
uchidatatsuru

神戸女学院の名誉教授、内田樹先生が退官する前に話された講義七つを収録した『最終講義』を再読していて、「あ!」と思いました。

内田先生はフランス文学と合気道が専門で、若い頃は先輩の教授から、「内田君、もっと寝食を忘れて研究に打ち込んだらどうか」と、やんわりと「合気道なんて研究の役に立たないことはおやめなさい」と言われ続けたそうです。

でも、どちらも自分の大好きなものだから目指しているものは同じものに決まっている、との信念から、合気道をやめずに、昼はレヴィナスの翻訳、夜は合気道の稽古を繰り返すうち、ある日ある瞬間に、レヴィナスと合気道がつながったと。その理路は詳しく説明してくれてませんが、どうもそういうことらしい。

これを読んで、「あ!」となりました。

私が他のスポーツではなくなぜサッカーが好きなのか、と。

中学時代にやっていたのもあるでしょうが、それなら小学校でやっていた野球や、高校でやっていたバドミントンが好きでも不思議ではない。なぜサッカーだけ異常に好きなのか。

それは映画が好きなのと同じなんですよね。世界一、動きが美しい競技だからです。


サッカーの美しさ
591d7efd6cf37b164b1d8fe933db0b5a-1 (1)

サッカーでは主にサイドチェンジやロングパスの場面でその本領が発揮されます。

とにかく、人の動きとボールの動き、その連動がたまらなく美しい。


ダウンロード

映画評論家で表層批評家の蓮實重彦もかつて同じことを言っていました。サッカーは世界一美しい競技であると。

私にとって蓮實重彦という男は、内田樹先生のような師でもあり、また敵でもあります。映画ファンとして目を肥やしてくれたのはこの人ですし、脚本家としては誰よりも大きな敵です。

ま、それはともかく、私はサッカーを見るのをやめようかと思ってたんですよね。贔屓のレアル・マドリードが今季は国王杯しか獲れなかったとか、WOWOWがスペインリーグの放送を終了するとか、そういうことは無関係で、単純にサッカーを見るのが楽しくなくなっていたんです。


表層を見る目
でも、それは自分の怠慢だと気づかされました。

単にゴールとか素晴らしい守備とか、局面局面のすごさだけに目を奪われて、大局で見る目を失っていました。サイドチェンジやクロスの美しさなど今シーズンは一度も目に入ってなかったような気がします。

それと同じで、映画でも内容にばかり気が行って、表層の美しさに心を奪われるという体験をあまり最近はしていないのではないか。

さすがにサッカーと違って年季が入っている映画ではまったくということはないにしても、表層を見る目がやせ細っていることは確かでしょう。

というわけで、サッカーを見るのはやめませんし、それどころか、来季は「内容」と「表層」の両輪を楽しむ本来の見方で存分に楽しんでやろうと思った次第です。

大事なことを思い出させてくれた内田樹先生に感謝!





このエントリーをはてなブックマークに追加