山田太一さんによる昭和の名作テレビドラマ『男たちの旅路』第2部第1話「廃車置場」。


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この「廃車置場」は二部構成になっています。

前半は、柴俊夫演じる新人警備員が「仕事を選びたい」と、いわば「わがまま」を主張するのに対し、あろうことか、人一倍厳しいはずの鶴田浩二演じる吉岡司令補がそれを認め、彼を徹底してかばう様が描かれます。

柴は前の会社で下請け会社の倒産を仕組む仕事をさせられ、上司に逆らうことができず、多くの人を路頭に迷わせた。その反省から、次の会社では仕事を選びたい、納得のいく仕事をしたいと思ったというんですね。

それに対し、戦中派の鶴田浩二は、彼をクビにしようかと考えているという池辺良社長に言います。


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「私は戦後の人生は余生だと思っていました。だから仕事もただ生活の手段としか考えていなかった」

つまり、仕事を「目的」として生きようしている柴俊夫が眩しかったわけですね。だから彼をかばい、池辺良社長にまで逆らって、都心から離れた職場に配属して、問題が下火になるのを待ってほしいという。

ここ、ちょっとおかしいと思いましたけどね。鶴田浩二は柴俊夫がなぜ仕事を選びたいのか、その理由をすでに聞いているのに、橋爪功や池辺良社長はそれを知らないままに会議で猛反対したり、「いいでしょうう。これはひとつのテストケースです」などと言って認めていたわけですよね。ありえない。

観客に理由を知らせるのはあのタイミングがベストだと思うけど、登場人物、それも警備会社の上層部が理由を知るのがあのタイミングなのは絶対変です。会議の時点で知ってないとおかしい。細かいことですが。

しかし、ここでもっと大事なのは、柴俊夫が仕事を手段ではなく「目的」として生きようとしていることです。そして、「仕事」と「規則」、「手段」と「目的」という対になっているキーワードです。

いよいよ後半です。


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柴俊夫の新しい職場は女子大のすぐそばで、キスの現場を目撃するなど色っぽいことが多い。そこに連続レイプ犯が現れる。水谷豊と柴の二人は悲鳴を聞いて飛び出すも、これ以上先は警備を任されている敷地の外だからもうやめておこう、と追うのをやめる。すると、敷地の外でまたも女性が襲われる。

鶴田浩二は激怒します。

「仕事をはみ出さない奴は人間じゃない」
「靴屋だからといってカバンを直してほしいという人を放っておくのか」
「仕事の範囲なんかはみだしてしまえ」

水谷豊の心には響かなかったようですが、仕事を選びたいと入社した柴俊夫には響いたようです。

そりゃそうですよね。上司の命令に逆らって仕事を選ぶのは服務規程違反。最初からそこに印鑑を押さない人間なんか雇わないほうがいい、というのが常識人・橋爪功でしたが、我らが鶴田浩二は「規則は場合によって破るべきだ」という。

規則を破って入社させた男が、「ここから先は契約外だから」と見てみぬふりしたのが許せなかったんですね。

柴俊夫は入社の時点で会社の規則を破っています。それなのに、契約の敷地内か外かということにはこだわっている。

まず俺が規則を破っておまえを入社させてやったんだから、次はおまえが破れよ! 仕事が目的ならそれぐらいのことはやれよ!!

と鶴田浩二は言いたいわけですね。「仕事」は目的でよい。しかし「規則」が目的であってはならない。「規則」はあくまでも手段であり、そのときどきの場合に応じて守るべきか破るべきか、臨機応変に判断せよ。警備員だけでなく、すべての人間がそうでなければならない。

吉岡司令補の伝えたい思いは今回も重い直球です。

そして、仕事をはみ出した結果、首尾よく犯人を捕まえますが、このあとがなかなか興味深い。


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刃物を振り回す男を捕まえて意気揚々かと思いきや、みんな沈んでいる。電車に乗ったあと、柴俊夫が鶴田浩二に「結構後味悪いもんですね」という。

いくら犯罪者とはいえ、一人の人間を殴って蹴飛ばして警察に突き出すのが後味が悪い。

というふうにも受け取れますが、私は仕事・規則をはみ出したから後味が悪いのだと考えたい。

場合によっては仕事をはみ出せ。それは真でしょう。でも、やはり自分の持ち場は持ち場であり、契約は契約であり、規則は規則である。破ることには痛みが伴う。

状況に応じて規則を破ること、仕事をはみ出すことは正しい。でも、何事も一筋縄ではいかないのだよ、と山田太一さんは言いたかったのではないか。

靴屋がカバンを直したら、それはカバン屋の仕事を奪っていることにもなるわけですしね。


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