短篇『カランコエの花』がいまだに印象深い中川駿監督の新作『少女は卒業しない』を見てきました。


『少女は卒業しない』(2023、日本)
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脚本・監督:中川駿
出演:河合優実、小野莉奈、小宮山莉渚、中井友望、藤原季節、窪塚愛流、佐藤緋美


群像劇
この映画は、友だちではない4人の少女のそれぞれの卒業式前日から当日の2日間を描く作品です。

というわけで、各パートの物語を見ていきましょう。


河合優実パート
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河合優実には去年の『愛なのに』から大注目してるんですが、いまだにブレイクしきれいない。この役も何だかえらく中途半端でした。

彼女にはシュンという名の彼氏がいて、いつも彼のために弁当を作って理科室で二人きりで食べていた。それが去年、事故で彼が帰らぬ人となり、卒業式前日の夜は悪夢にうなされる。当日の朝も弁当を作り、彼が座っていた席に弁当を置き、思い出に浸る。

彼女は専門学校に進学するので早くに進路が決定したため、卒業式で答辞を読む大役を教師からお願いされていた。それを書き直さねばならないという葛藤もあるにはあるけど、たいしたものじゃない。

事故で死んでしまった彼氏というのは葛藤があるにはあるけど、何か薄い。

それに、卒業式後の、軽音部による卒業ライブで、河合優実は、ある歌を「シュンに聴かせたい」というのですが、それなら……(以下、後述)


小野莉奈パート
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『アルプススタンドのはしの方』がいまだに印象深い小野莉奈のパートは一番つまらなかった。

彼氏は地元の大学に進学し、地元の小学校の教師になるのが夢。小野莉奈は東京の大学に進学して心理学の勉強をしたい。もう二度と交わらない二人は三か月ほど前からぎくしゃくしており、卒業式当日は一緒に登校するものの、最終的に別れる。

うーん、何か2.3シーンもあれば描きうる、あまりに卑小な物語で鼻白んでしまいました。


中井友望パート
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知らない女優さんだが、このエピソードもいかがなものか。

確かに、藤原季節演じる図書館担当教師との淡い初恋のあれやこれやは面白い。特に、彼に催促してほしくて長いこと借りっぱなしだった本を買って、借りてた本は返そうとしたら、藤原季節は「買ったほうをもらっておきます。あなたはこっちをもっていてください」と、借りっぱなしだった思い出の本のほうを渡してくれるところ。彼女でなくとも胸キュンしちゃう。彼が既婚者だけによけいに伝えたくても伝えられない想いが横溢してました。

しかしながら、それなら、クラスの隣の子と初めて喋って卒アルにいっぱい書き込みしてもらったりというエピソードは不要では? メインは藤原季節への片想いなんだろうけど、メインテーマに干渉するサブテーマが出てくる、「いったいどっちを描きたいの?」と混乱してしまう。別に友だちのいない子じゃなくても、片想いの物語は成立しますよね?


小宮山莉渚パート
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これも知らない女優さんだが、このパートが一番面白かったですね。

小宮山莉渚は軽音部の部長で、卒業ライブについてある嫌がらせがあって、いつも口パクのヘヴィメタル系バンドがトリを務めることになる。部長としての決断だったが、彼女はもうひとつ大きな決断をしていて、それはそのバンドのボーカルを務め、卒業ライブでも独りで歌うと宣言した森崎のメイク道具や衣装を隠してしまう。

なぜそんなことをしたかというと、中学から一緒で、彼のことが好きな彼女は、中学時代、変なメイクなどせずに普通に歌っていた森崎の素直な歌が聴きたくて隠したんだと。これはなかなかいいですね。犯人が部長だったのは超意外!

で、森崎は独りで舞台に上がり、アイルランド民謡の『ダニー・ボーイ』を歌う。その素直でまっすぐな歌にみんな魅了され、嫌がらせをした連中も感動してしまうんですが、それはいいとしても、森崎が誰に対して歌っているのかがよくわからないのが玉に傷。


『マジシャンズ』
かつて、ソン・イルゴン監督の『マジシャンズ』という映画があって、バンドのメンバーが一人自殺してしまい、バンドは解散。一周忌に再会して、久しぶりに会った仲間同士でつもる話をするのを全編ワンカットで撮ってるんですが、それはともかく、最後はあの世の友だちのためにみんなで一曲歌うんですね。その歌がいい。「たった一人のために歌われる歌」がとにかく感動するんです。

この『少女は卒業しない』でも、そういう工夫がほしかった。つまり、森崎とシュンを親友同士にする。というか、上述した通り、河合優実の言葉を信じるなら、森崎とシュンは友人同士だったようですが、そんな描写はなかったですよね。だからあの『ダニー・ボーイ』もあまり感動できなかった。もっと森崎とシュンの友情を1シーンでいいから描いてくれていたらぜんぜん違ったんですがね。

しかし、意外というべきか、この映画は歌ではなく、ある言葉がすべてのエピソードをひとつにまとめるのでした。


答辞
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卒業式本番での答辞はうまく言えなかったというか、最初の言葉の前でスパンと切って、卒業式後に移るんですが、最後にシュンの幻影に対して河合優実が答辞を読む。これがいい!

かつてシナリオ作家協会の夏の公開講座に参加したとき、講師の東陽一監督が、映画とは構成である、みたいなことを言っていて、後ろの誰かが「うまい構成の映画を教えてください」と質問すると、東さんは迷うことなく『パルプ・フィクション』と答えて驚きました。タランティーノとか好きそうな感じじゃないし。

「お話そのものはぜんぜん面白くないのに、順番を入れ替えるだけでものすごく豊かな物語になっています」

とのことでした。

この『少女は卒業しない』も、ひとつひとつのエピソードは面白くないけど、河合優実が読む答辞で4つのエピソードをまとめられると、一番つまらないと思っていた小野莉奈パートまでがまばゆいばかりの光を放っていて、別に順番を入れ替えるとかはないにしても、同じ「初恋」というテーマでまとめられた4つのエピソードを並列して、そこに、「ただ一人のために読まれた答辞」を乗せられると、これはもう感動するほかないのであります。

まさに映画のマジックですね。





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