巷で話題沸騰の『ブラッシュアップライフ』。昨日の第6話で、主役の安藤サクラは3周目でも交通事故であえなく死んでしまいました。(以下ネタバレあります)
来世は「ウニ」

そして、来世はウニだと知らされて4周目に突入。オオアリクイ、サバ、ウニ。哺乳類、魚類はまだ脊椎動物だけど、ウニは軟体動物で、どんどん下等動物に成り下がっていく。徳を積んでるはずなのに。しかも、天国の受付係のバカリズムから渡された来世の写真は、「食材としてのウニ」で、もう食べられることが前提という哀しい末路がすでに暗示されているという。
助けるべき人を助けているのになぜ? と思いますが、昨日の第6話で、それは当然だよね、という理由がちゃんと示されていました。それがこの記事の主旨です。
福ちゃん(染谷将太)をめぐる安藤サクラの偽善

第6話では、「音楽業界を変えてやる」と意気込みながらミュージシャンの夢をあきらめて地元に戻る運命の、染谷将太演じる福ちゃんが出てきます。それも、夢破れたあとの福ちゃんではなく、まだ夢を追っている福ちゃん。安藤サクラは初めてそんな福ちゃんに会います。
福ちゃんは最近、事務所をやめてフリーになり、さらに俳優業も始めたと、名刺や売り込み資料を安藤サクラに渡します。安藤サクラはドラマプロデューサーとしてのデビュー作をやってるのを知ってて福ちゃんは売り込みに来たんですね。
このあとのシーンで、木南晴夏が「何かあったらオーディション紹介してほしいならわかるけど、出してくださいって甘くない?」と言ってて、それはその通りです。私も、大手の会社の製作部に就職した友人に書いたシナリオを見せて「もっと上の人に読んでもらって」と頼んだけど「甘い」と断られました。「そんなことできるはずがないだろう。もしおまえがリライトなどで結果を出せなかったら俺が責任を問われるんだぞ」と。その通りですな。専門学校の講師も言ってました。「責任問題になるから紹介なんてありえないんだよね。だからコンクール取らなきゃね」私はコンクール取ったけど結局ダメだった。んー、ま、しょうがあるまい。
閑話休題。
木南晴夏や夏帆が福ちゃんの甘さを指摘するのはいい。でも、安藤サクラがそこで「まぁ福ちゃんも言いにくそうにしてたしね」「学校で人気者だったからプライドもあるだろうし、あたしに頭下げるっていやだったと思うよ」みたいに理解を示すのは、これは絶対ダメです。だって偽善でしかないから。
安藤サクラは福ちゃんと会ったとき、「俳優業も始めてさ」と言われて、「何かいやな予感」と心中で言い、「何かあったら連絡してよ」と言われて「何かあったらね」とわざわざ強調してました。そして心の声で「きっと何もない」と。
冒頭のゴンちゃんとの会話で、友情出演についての誤解について話してたじゃないですか。誰かの友だちだから「ちょっと出てやるか」みたいなノリで出てるのかと思ってたって。でも現場を知ったいまは「それはありえない」と。
だから、福ちゃんの「何かあったら連絡して」はありえないんですよね。業界人ではない木南晴夏ですら「オーディションがあったら教えてよくらいならいいと思うけど」と的確なことを言ってるんだから、安藤サクラは業界人としてはっきり言うべきだったと思うんですよ。「それは甘いよ。そんなのありえないよ」と。私が友人に言われたように。
しかし、結局安藤サクラは、その場だけいい顔しようと「何かあったら連絡するね」と返事しておいて、あとで友人たちが彼のことをボロクソ言い出したら擁護に回って、そこでもいい顔をする。
これはもう完全に「積んだ徳を崩す」行為ですよね。この『ブラッシュアップライフ』は自然なガールズトークが面白いと評判で、脱線につぐ脱線や、人間の微妙な心理の綾を表現した会話はすこぶる面白いと私も思うけど、昨日の会話は面白くもあったけど、それ以上に「いや」でしたね。主人公のよくない側面がかなり色濃く出てて。
ゴンちゃんが実は6年も前に結婚してたと聞いてかなりの衝撃を受けた安藤サクラは、木南晴夏と夏帆にもそれを言うんですが、二人は福ちゃんの歌のダサさに衝撃を受けすぎてゴンちゃんの話があまり入ってきてない様子。そこで安藤サクラは「もう一度CDかけようか」と言い、他の二人に「やめて」「二度とかけないで」と自分と同じ思いを吐き出させる。そうやってゴンちゃんの結婚に対する反応に溝がありすぎてちょっと変な空気になったのを元に戻すんですね。
あれもいやだった。完全に福ちゃんの音楽を出汁に使ってるだけじゃないですか。

結局、「何かあって」安藤サクラは福ちゃんに連絡し、ひと仕事やってもらうのだけど、あれだって、不測の事態が起こったから便利屋扱いしただけでしょ。あれじゃ徳が下がってウニにされてもしょうがない。
それに、木南晴夏と夏帆が家に来たときだって、「来るのはぜんぜんいいんだけど、来すぎじゃない?」と言うのもどうかと思う。彼女だけ都内で一人暮らしで、テレビ局という華やかな職場で働いているという自負がそういう言動を生んでいるんでしょうが、あれは端的に嫌味でしょう。
あんまり家に来られると困る、と言いながら、プロデューサーデビュー第1弾の第1話は、自分ちで友だちを招いて一緒に……というのは虫がよすぎないか。だから、あそこで車にひかれたんだと思う。
「徳」とは何か

4周目に突入した主人公は悲惨ですよね。正論ばかり言うからみんなに嫌われるし、とにかく徳を積むために勉強に邁進するあまり、一番大切な親友まで失いかけている。
彼女は自分の徳がなぜ低いかがわかっていない。
幼稚園の友だちの父親が不倫に走るのを止める。
ミタコングに怒られた級友を助ける。(失敗)
痴漢に間違われたミタコングを助ける。
おじいちゃんの命を救う。
既婚者であることを隠して黒木華と不倫しようとした野間口徹を一喝する。
全部困っている人を助けることばかりですよね。それだって「徳を積む」ことには違いないかもしれないし、バカリズムが考える「徳」とは何か、そこは作家としての哲学が問われるわけで、すごく気になるけど、少なくとも以下のことは言えるんじゃないですか。

1周目と2周目では、福ちゃんはミュージシャンの夢をあきらめてから再会だったけど、今回3週目では初めてミュージシャン目指し中の福ちゃんに会えたわけだから、CDを聴いてひどくダサかったとか、そんなこと言うのはいくら何でもひどく傷つくと思うけど(私なら言うが)、「幼馴染がプロデューサーだからって、それは甘いよ」と諭すくらいのことはしてもいいんじゃないか。
福ちゃんだって「困ってる人」じゃないですか。不倫してる人や冤罪で捕まる人だけが困っているわけじゃない。彼に引導を渡すことも徳を積むことにつながると私は思う。
それに、木南晴夏や夏帆のように、実家住まいのために一人暮らしの友人の家がすごく落ち着くという人だってやっぱり「困ってる人」だと思うんですよね。そんな彼らに「来すぎじゃない?」はありえない。会話としては面白いし笑っちゃうけど、「徳を積む」との観点から見ればアウトです。
根本から考え直さないといけないのに、4周目ではさらに悪い方向へ行ってしまった主人公。次からどこへ行くのか。
同じようにタイムリープしているらしい水川あさみがどう関係してくるのか。
安藤サクラには幸福をつかんでほしい。
続きの記事
『ブラッシュアップライフ』最終回を見ての感想(物語と哲学)
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来世は「ウニ」

そして、来世はウニだと知らされて4周目に突入。オオアリクイ、サバ、ウニ。哺乳類、魚類はまだ脊椎動物だけど、ウニは軟体動物で、どんどん下等動物に成り下がっていく。徳を積んでるはずなのに。しかも、天国の受付係のバカリズムから渡された来世の写真は、「食材としてのウニ」で、もう食べられることが前提という哀しい末路がすでに暗示されているという。
助けるべき人を助けているのになぜ? と思いますが、昨日の第6話で、それは当然だよね、という理由がちゃんと示されていました。それがこの記事の主旨です。
福ちゃん(染谷将太)をめぐる安藤サクラの偽善

第6話では、「音楽業界を変えてやる」と意気込みながらミュージシャンの夢をあきらめて地元に戻る運命の、染谷将太演じる福ちゃんが出てきます。それも、夢破れたあとの福ちゃんではなく、まだ夢を追っている福ちゃん。安藤サクラは初めてそんな福ちゃんに会います。
福ちゃんは最近、事務所をやめてフリーになり、さらに俳優業も始めたと、名刺や売り込み資料を安藤サクラに渡します。安藤サクラはドラマプロデューサーとしてのデビュー作をやってるのを知ってて福ちゃんは売り込みに来たんですね。
このあとのシーンで、木南晴夏が「何かあったらオーディション紹介してほしいならわかるけど、出してくださいって甘くない?」と言ってて、それはその通りです。私も、大手の会社の製作部に就職した友人に書いたシナリオを見せて「もっと上の人に読んでもらって」と頼んだけど「甘い」と断られました。「そんなことできるはずがないだろう。もしおまえがリライトなどで結果を出せなかったら俺が責任を問われるんだぞ」と。その通りですな。専門学校の講師も言ってました。「責任問題になるから紹介なんてありえないんだよね。だからコンクール取らなきゃね」私はコンクール取ったけど結局ダメだった。んー、ま、しょうがあるまい。
閑話休題。
木南晴夏や夏帆が福ちゃんの甘さを指摘するのはいい。でも、安藤サクラがそこで「まぁ福ちゃんも言いにくそうにしてたしね」「学校で人気者だったからプライドもあるだろうし、あたしに頭下げるっていやだったと思うよ」みたいに理解を示すのは、これは絶対ダメです。だって偽善でしかないから。
安藤サクラは福ちゃんと会ったとき、「俳優業も始めてさ」と言われて、「何かいやな予感」と心中で言い、「何かあったら連絡してよ」と言われて「何かあったらね」とわざわざ強調してました。そして心の声で「きっと何もない」と。
冒頭のゴンちゃんとの会話で、友情出演についての誤解について話してたじゃないですか。誰かの友だちだから「ちょっと出てやるか」みたいなノリで出てるのかと思ってたって。でも現場を知ったいまは「それはありえない」と。
だから、福ちゃんの「何かあったら連絡して」はありえないんですよね。業界人ではない木南晴夏ですら「オーディションがあったら教えてよくらいならいいと思うけど」と的確なことを言ってるんだから、安藤サクラは業界人としてはっきり言うべきだったと思うんですよ。「それは甘いよ。そんなのありえないよ」と。私が友人に言われたように。
しかし、結局安藤サクラは、その場だけいい顔しようと「何かあったら連絡するね」と返事しておいて、あとで友人たちが彼のことをボロクソ言い出したら擁護に回って、そこでもいい顔をする。
これはもう完全に「積んだ徳を崩す」行為ですよね。この『ブラッシュアップライフ』は自然なガールズトークが面白いと評判で、脱線につぐ脱線や、人間の微妙な心理の綾を表現した会話はすこぶる面白いと私も思うけど、昨日の会話は面白くもあったけど、それ以上に「いや」でしたね。主人公のよくない側面がかなり色濃く出てて。
ゴンちゃんが実は6年も前に結婚してたと聞いてかなりの衝撃を受けた安藤サクラは、木南晴夏と夏帆にもそれを言うんですが、二人は福ちゃんの歌のダサさに衝撃を受けすぎてゴンちゃんの話があまり入ってきてない様子。そこで安藤サクラは「もう一度CDかけようか」と言い、他の二人に「やめて」「二度とかけないで」と自分と同じ思いを吐き出させる。そうやってゴンちゃんの結婚に対する反応に溝がありすぎてちょっと変な空気になったのを元に戻すんですね。
あれもいやだった。完全に福ちゃんの音楽を出汁に使ってるだけじゃないですか。

結局、「何かあって」安藤サクラは福ちゃんに連絡し、ひと仕事やってもらうのだけど、あれだって、不測の事態が起こったから便利屋扱いしただけでしょ。あれじゃ徳が下がってウニにされてもしょうがない。
それに、木南晴夏と夏帆が家に来たときだって、「来るのはぜんぜんいいんだけど、来すぎじゃない?」と言うのもどうかと思う。彼女だけ都内で一人暮らしで、テレビ局という華やかな職場で働いているという自負がそういう言動を生んでいるんでしょうが、あれは端的に嫌味でしょう。
あんまり家に来られると困る、と言いながら、プロデューサーデビュー第1弾の第1話は、自分ちで友だちを招いて一緒に……というのは虫がよすぎないか。だから、あそこで車にひかれたんだと思う。
「徳」とは何か

4周目に突入した主人公は悲惨ですよね。正論ばかり言うからみんなに嫌われるし、とにかく徳を積むために勉強に邁進するあまり、一番大切な親友まで失いかけている。
彼女は自分の徳がなぜ低いかがわかっていない。
幼稚園の友だちの父親が不倫に走るのを止める。
ミタコングに怒られた級友を助ける。(失敗)
痴漢に間違われたミタコングを助ける。
おじいちゃんの命を救う。
既婚者であることを隠して黒木華と不倫しようとした野間口徹を一喝する。
全部困っている人を助けることばかりですよね。それだって「徳を積む」ことには違いないかもしれないし、バカリズムが考える「徳」とは何か、そこは作家としての哲学が問われるわけで、すごく気になるけど、少なくとも以下のことは言えるんじゃないですか。

1周目と2周目では、福ちゃんはミュージシャンの夢をあきらめてから再会だったけど、今回3週目では初めてミュージシャン目指し中の福ちゃんに会えたわけだから、CDを聴いてひどくダサかったとか、そんなこと言うのはいくら何でもひどく傷つくと思うけど(私なら言うが)、「幼馴染がプロデューサーだからって、それは甘いよ」と諭すくらいのことはしてもいいんじゃないか。
福ちゃんだって「困ってる人」じゃないですか。不倫してる人や冤罪で捕まる人だけが困っているわけじゃない。彼に引導を渡すことも徳を積むことにつながると私は思う。
それに、木南晴夏や夏帆のように、実家住まいのために一人暮らしの友人の家がすごく落ち着くという人だってやっぱり「困ってる人」だと思うんですよね。そんな彼らに「来すぎじゃない?」はありえない。会話としては面白いし笑っちゃうけど、「徳を積む」との観点から見ればアウトです。
根本から考え直さないといけないのに、4周目ではさらに悪い方向へ行ってしまった主人公。次からどこへ行くのか。
同じようにタイムリープしているらしい水川あさみがどう関係してくるのか。
安藤サクラには幸福をつかんでほしい。
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