チラシを手に取った瞬間に「これは来た!」と思った『パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女』を見てきたんですが、これはとんだ期待外れでした。(以下ネタバレあります)


『パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女』(2022、韓国)

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脚本・監督:パク・デミン
出演:パク・ソダム、ソン・セビョク、キム・ウィソン、チョン・ヒョンジュン


もっと話を急いで!
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主人公はウナという「運び屋」で、ある賭博ブローカーから息子と二人を港まで運ぶ仕事を受けるが、待ち合わせ場所に現れたのは息子ソウォンだけ。父親は汚職刑事に殺された。

普通なら社長からスマホに送られてきた画像の人間しか乗せないのに、ウナはソウォンを乗せて逃走。ここから女と子どもの逃走劇が始まるんですが、全体が109分なのに、このプロットポイントⅠまで40分というのはいくら何でも時間かけすぎです。

冒頭のカーチェイスシークエンスも大興奮のアクションでしたが、あれも長い。あそこはウナが凄腕の運び屋であることを示すだけでしょ。プロットに何の関係もない人物を乗せてるんだから。そんなシーンはチャチャッと2分くらいですませてほしい。いくら見どころあるアクションシーンといっても、その間プロットは止まったままですからね。どんな場合でもプロットは常に前に進めないと。


悪役に魅力がなさすぎる!
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敵が汚職刑事という設定はとてもいいと思います。刑事でしかも追跡班の班長なので、捜査状況にも精通してるし、主人公の敵役として最高の設定です。設定はね。

ところがこの映画はその最高の設定を少しも活かせていません。

いくら汚職に手を染めているといっても警察官なんだから、あそこまで本物のヤクザみたいなことはしないでしょ? ソウォンの父親にしても、ウナの上司の社長にしても、ターゲットを見つけたらすぐ殴る蹴るの暴行というのは悪役として魅力がなさすぎます。

他の部下が殴ろうとするのを止めてでも、ボスは血なまぐさいことをさせないのがこの手の犯罪映画の鉄則だと思いますがね。警察官なんだから法律に詳しいはずで、普通なら違法と合法ぎりぎりの手を使って主人公たちを追いつめていくんじゃないですか。だって、あの汚職刑事はすでに退職を決めていて、賭博ブローカーが隠した300億ウォンだけでなく、退職金をも狙ってるんでしょ。なら、なおのこと、ばれたら懲戒免職どころか死刑になりかねないようなことを重ねるのがまったく理解できない。

やってることがそのへんのチンピラと同じというのは単純につまらない。ウナがあんなのに勝ったからってあまり喜べなかった。私が理想とする悪役は『北北西に進路を取れ』のジェームズ・メイスンですが、あれぐらいスマートでエレガントな悪役がボスだったらそれだけで魅力があるし、倒すだけの価値がありますが、この映画にはそういう「悪の魅力」が何もなかった。


脱北者ウナ
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ウナは脱北者で、社長が脱北ブローカーもやっていて、彼の手引きで韓国にやってきたことが中盤以降で明らかになります。しかも北朝鮮から入国する際に他の家族は捕まって殺されたと。一人だけ助かった。だから同じく親を殺されたソウォンに自分と同じものを感じ、スマホの画像と違うけど乗せてやったことの理由がわかる。ここはとてもよかった。

しかし……

ウナが脱北者ということで国家情報院の人が来るじゃないですか。ウナの入国審査をしたから、もし彼女が凶悪犯罪者だと国家情報院の責任を問われる。国家の威信がかかっていると。

ここもいいと思いました。ウナは汚職刑事だけでなく、韓国政府からも追われるのだな、と。せっかく北朝鮮から逃げられたのに、今度は大韓民国からも追われる。どこまでも哀しいウナという女。がぜん面白くなってきたと身を乗り出しました。

ところが、汚職刑事があまりの悪事に手を染めてばかりなので、国家情報院の調査班も刑事たちが真犯人で、ウナは被害者だとすぐわかるじゃないですか。つまり、国家情報院はウナの味方として機能する。

これはつまらない。

やはり、あの汚職刑事があまりに悪辣でチンピラみたいに血の気が多いからこういうことになるんです。うまく合法的な手でウナを追いつめていけば、国家情報院も彼らの悪事に気づかず、ウナを追うことになる。つまり、汚職刑事が国家情報院を手玉に取って彼らを使う、ということにすればもっと面白くなったと思うんです。

あの国家情報院の女性は最初からウナの見方として登場するでしょ。彼女がウナを審査したんだからそれは当たり前かもしれない。あの人はウナを信じたいけど、すべての悪事の証拠にウナの指紋が残っているとか、そういう罠を仕掛けるくらいのことはしてほしい。警察ならそれぐらいの知力でウナを追いつめてほしい。そこをかいくぐってウナが勝利すれば大喝采だったんですがね。実際の映画はほとんど敵失で勝ったようなもので、どうにも乗れなかった。


子どもソウォンの使い方
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ソウォンという子どもの使い方ももったいなかった。

彼はウナとの最初の出会いが、危機一髪で自分を救ってくれたというのがあるから、彼女の言葉に忠実なのも仕方ないかもしれません。

が、まだ年端もいかない子どもなのだから、ウナを窮地に陥れるくらいのことはしてほしかった。最初、賭博ブローカーの父親と車に乗って登場したとき、ゲームに夢中で、画面を父親に見せてあわや交通事故か、というシーンがありました。

あれと同じようなことをウナにもすべきと思います。絶対声を出すなと言われてたのに出してしまうとか。お腹が減ってチョコレートか何かを食べようとしたら当たりが出て思わず声が出てしまい、居所がばれるとかね。子どもならではのピンチの作り方ってあると思うんです。悪意はないけど、子どもなりの無邪気さがあだになるという。この映画のソウォンはえらくウナに忠実で、そこもつまらなかった。

というわけで、チラシの出来と映画の出来は比例するという我が持論が、今回は見事に完全に外れました。


北北西に進路を取れ(字幕版)
ジェームズ・メイスン
2013-06-01



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