さて、いよいよ2022年もあと29時間。毎年恒例の新作映画ベストテンです。例によって10本ではなくそれ以上(15本)選んでます。今年は大豊作だったので絞りようがない。10本なんて誰が決めたの? 

ちなみに、私のベストは劇場で見たものだけでなく、WOWOWやCSで見たものも入れてます。テレビ画面で見て大きく感動したのなら、劇場で見たらもっと感動するはずですから。逆に、ワースト作品は劇場で最初から最後まで見たものだけが対象です。途中で寝たもの、あるいは出たものは最初から対象外。でないとフェアじゃないでしょ。

あと、1位から15位までの順位づけの意味を最初に説明しておきます。

1位「極私的偏愛映画」、2位3位「今年の顔」、4位~8位「質とボリューム」、9位「裏ベストワン」、10位~12位「味系」、13位14位でまとめに入り、15位でお祭りの総仕上げ、です。

では行きましょう。今年、私の心を激しく揺さぶった15本の映画はこちら。


①スクリーム
②クリーン ある殺し屋の献身
③シン・ウルトラマン
④ロッキーVSドラゴ/ロッキーⅣ
⑤マークスマン
⑥水俣曼荼羅
⑦シャドウ・イン・クラウド
⑧麻希のいる世界
⑨夜明けまでバス停で
⑩コーダ あいのうた
⑪辻占恋慕
⑫ペルシャン・レッスン 戦場の教室
⑬ザ・メニュー
⑭かがみの孤城
⑮ゴーストバスターズ/アフターライフ


では1本ずつ感想をつらつらと。


第1位『スクリーム』(監督:マット・ベティネッリ・オルピン&タイラー・ジレット)
scream9 (2)

WOWOWがやってくれなかったいまだに見れてないでしょう。このシリーズの最新作がDVDスルーなんて許せない。でも、最近は外国映画に客が入らないし、スターが出てないし、しょうがないのか。でも、だからこそ称揚したい。

1作目からホラーであり、かつフーダニットのミステリーですが、それ以上に「アクション映画」のこのシリーズ。『1』から『4』はどうだったか憶えてないけど、この第5作では1回もスローモーションが使われておらず、活劇とスローモーションは水と油と考える当方としてはそれだけで狂喜乱舞。アルドリッチですら『ロンゲスト・ヤード』のクライマックスでスローモーションを濫用してましたからね。あれは白ける。

ついに最初の銃弾が撃たれる瞬間の驚き。すべてにケリをつける最後の銃弾が撃たれる瞬間の驚き。アメリカ映画とはこれですよ、これ!


第2位『クリーン ある殺し屋の献身』(監督:ポール・ソレット)
クリーン ある殺し屋の献身(字幕版)
チャンドラー・アリ・デュポン
2022-12-16


これはロードショーで見逃して名画座で見ました。

これもアメリカ映画の味というか、フィルムノワールですよね。夜の街と殺し屋と極悪人と少女。そこにエディプスコンプレックスをもちこまれたら、父親との葛藤に苦しんだ私の心はもう完全にもっていかれてしまいました。


第3位『シン・ウルトラマン』(監督:樋口真嗣、総監修:庵野秀明)
シン・ウルトラマン
西島秀俊
2022-11-18


何も言葉はいらない傑作。えらく評判が悪いみたいですが、まったく解せない。

長澤まさみは『エルピス』での芝居が高く評価されているようですが、私はこの映画の長澤を断然買います。西島秀俊と斎藤工の二人を向こうに回して対等に渡り合える役者はそうはいないでしょう。


第4位『ロッキーVSドラゴ/ロッキーⅣ』(監督:シルベスター・スタローン)
ROCKYvsDRAGO3

これってキネ旬なんかでは「旧作」扱いなんでしょうけど、未公開カットを合計したら42分にもなるらしく、それなら新作でよかろうと入れました。私のベストテンなんだから基準は私が決める。

ロッキー・バルボアはやはり永遠だなぁ。スタローンの監督としての力量はもっと高く評価されてしかるべきと思う。脚本家としてはそれなりかもしれないけど、監督もやってるってあまり認知されてないみたいだし。


第5位『マークスマン』(監督:ロバート・ロレンツ)
マークスマン(字幕版)
ジェイコブ・ペレス
2022-04-17


これも今月WOWOWで見ました。年初のロードショーで見逃したので。

「天国なんかない」と断言する無神論者が、少年にとっての「神様」になるお話。男のロマン満載。

元海兵隊の狙撃兵リーアム・ニーソンがついに狙撃する瞬間がたまらなくかっこいい! そして拳銃をめぐるあれやこれやがまさにアメリカ映画! まさに脚本家の腕の見せ所ですが、考えぬかれてます。

監督のロバート・ロレンツはイーストウッドの弟子だけあってカットバックの呼吸が素晴らしいですよね。いたって普通のことをしてるだけなんだけど、今日び、ああいう「古典的ハリウッド映画」の作法を体現してる映画って少ないのでため息が出ます。


第6位『水俣曼荼羅』(監督:原一男)
水俣曼荼羅
2022-12-07


東京などでは去年の公開なんでしょうけど、神戸では今年封切られたので。『ボストン市庁舎』も今年です。とか言いながらどっちもテレビで見たんですけどね。

私は、「シネアスト」フレデリック・ワイズマンより「ジャーナリスト」原一男を買います。水俣病のあれやこれやとか、判決が出たあとの熊本県との話し合いとか、「情報」としての面白さが満載。

「謝ってはいけない」と書いた県の役人のメモを奪い取るシーンなんかは思わず笑ってしまったけど、映画全体は重すぎるほど重いものを突きつけてきますね。

でも、6時間を超える上映時間は長すぎないですか。いや、題材的にはあの長さでちょうどいいくらいと思うんですが、どうしても劇場に行って見ようと思えないんですよ。昔は9時間の『鉄西区』を見に行ったりもしたけど、もうそんな体力はございません。日本映画専門チャンネルが放送してくれなかったら見れてないですね。感謝。


第7位『シャドウ・イン・クラウド』(監督:ロザンヌ・リャン)
シャドウ・イン・クラウド(字幕版)
ニック・ロビンソン
2022-09-12


めちゃんこ面白いのにあまり評価がよろしくないような。クロエ・グレース・モレッツの一人芝居だけで行けると踏んだ製作陣に喝采を贈りたい。低予算B級映画の鑑。


第8位『麻希のいる世界』(監督:塩田明彦)
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脚本における「省略」の技術がすごかった。「脚本は何を書くかではなく、何を書かないかだ」と専門学校で教わりましたけど、ここまで突きつめないといけないのか。やはり私は甘かった。


第9位『夜明けまでバス停で』(監督:高橋伴明)
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これが「裏ベストワン」。

安倍が銃殺され、旧統一教会と自民党の蜜月関係が暴かれた今年、ロシアがウクライナに侵略し、食料やエネルギーの価格は上がるばかり。岸田はそれらの問題では何もせず、軍拡のための増税をし、新たな原発を作るという。

この映画の主人公のように国会に爆弾を仕掛ける人が現れるかどうかはわからないけど、仕掛けられても文句は言えないぜよ。実際に起こった殺人事件からこういうファンタジーに着地するとは思わなかった。まさに映画のなせる業。


第10位『コーダ あいのうた」 (監督:シアン・ヘダー)
コーダ あいのうた(字幕版)
エウヘニオ・デルベス
2022-09-21


このアカデミー賞受賞作は、撮影や編集など見せ方に大いに問題ありと思いますが、内容がとてもよかったので。ただ、誰にも嫌われない最大公約数的な映画がその年の映画賞をにぎわすのはあまり好きじゃないですね。


第11位『辻占恋慕』(監督:大野大輔)
辻占恋慕
川上なな実
2022-12-02


これは刺さりまくりましたね。「月見ゆべし」という名前がいい。とても個性があるし、あの女優さんの顔にも合ってるし。

私も夢をあきらめるとき、これぐらい弾けたかったな。


第12位『ペルシャン・レッスン 戦場の教室』(監督:ヴァディム・パールマン)
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「言葉とは何か」という根底の問いをないがしろにしてるのが残念でしたが、あのエモーションの醸成と持続には目を瞠りました。


第13位『ザ・メニュー』(監督:マーク・マイロッド)
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こういうの大好き。映画はこれぐらいデタラメでいいと再確認させてくれた貴重な映画。でも、これは公開されたのに『スクリーム』は未公開? そりゃアニャ・テイラー・ジョイが出てる出てないが大きいのはわかるけど。

ただ、アニャちゃんもそれほどのビッグスターというわけではないので(レイフ・ファインズもジョン・レグイザモもね)最初の週だけでしたが、興行ランキングの7位(8位だったか)に入ってたのはうれしかった。『アバター』の2作目も初登場で3位ってどうなんだろ。好きな映画じゃないけど、ジェームズ・キャメロンの新作なのに。これからどんどん公開されるアメリカ映画の本数が減るのだろうか。それはいやだ。


第14位『かがみの孤城』(監督:原恵一)
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私も昔、登校拒否してたので、これも刺さりまくりましたね。7人の時間がずれてるのは読めてしまったけど、ああいうふうに着地するとは思わなかった。

基本的に、自分の殻に閉じこもった主人公がその殻を破るまでを描いた神話的なハッピーエンドの映画なのに、ものすごくおごそかなホラー風味もあって楽しめました。


第15位『ゴーストバスターズ/アフターライフ』(監督:ジェイソン・ライトマン)
ゴーストバスターズ/アフターライフ
シガニー・ウィーバー
2022-11-25


やはり主人公のおじいさんはあの3人のうちの誰なのか、っていうのがポイントで、泣かされましたよね。

泣かされるといえば、『トップガン/マーヴェリック』での、ドン・シンプソンへの献辞にも泣かされましたが、私はあの映画は肝心要のトム・クルーズが少しも魅力的に見えなかったのであまり乗れなかったです。それより、『スクリーム』の「FOR WES」という献辞のほうが胸熱でした。


ワーストには、『ケイコ 目を澄ませて』(監督:三宅唱)を挙げます。

岸井ゆきのが「ケイコを演じる岸井ゆきの」にしか見えないのが致命傷。三浦友和はジムの会長さんに見えるし、仙道敦子はその奥さんに見える。三浦誠己もトレーナーに見えるのに、肝心要の岸井ゆきのが岸井ゆきのにしか見えないのはいかがなものか。

それはやはり「ケイコ」という架空のキャラクターの描き込みが足らないからだと思う。

「見えないものを見えるものの内に見る」

これは松本俊夫監督が名著『映像の発見』に書いている言葉です。ケイコという見えないものを、岸井ゆきのという見える役者の内に見たいのだけど、ついに見えてこなかった。

堂々たる風格の映画だけに非常に残念。単につまらない映画を挙げたって面白くないので、これが今年のワーストです。

それでは、みなさん、よいお年を。


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