いよいよ今年も今日を入れてあと3日ということで、恒例の映画ベストテンです。今日は旧作。

今年は面白いものがたくさんありました。とても10本に絞り切れず、13本です。


①10番街の殺人(監督:リチャード・フライシャー)
②息の跡(監督:小森はるか)
③白い肌に狂う鞭(監督:マリオ・バーヴァ)
④茜色に焼かれる(監督:石井裕也)
⑤罠(監督:ロバート・ワイズ)
⑥ビーチ・バム まじめに不真面目(監督:ハーモニー・コリン)
⑦夏の娘たち ~ひめごと~(監督:堀禎一)
⑧インフェルノ 蹂躙(監督:北川篤也)
⑨悦楽交差点(監督:城定秀夫)
⑩天国はまだ遠い(監督:濱口竜介)
⑪決闘コマンチ砦(監督:バッド・ベティカー)
⑫シャロン砦(監督:アンソニー・マン)
⑬美少女プロレス 失神10秒前(監督:那須博之)


では、何本かだけ感想をつらつらと。


『10番街の殺人』(1971、イギリス)
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フライシャーの『10番街の殺人』をやっと見れたのが今年最大の収穫。フライシャーの実録犯罪ものといえば『絞殺魔』がありますが、あっちのほうがすごいとはいえ、こに『10番街の殺人』もかなりのもの。

あの淡々とした描写で、別に殺人嗜好をもった変人を糾弾するのでもなく、こいつだって同じ人間なのだと愛情をもって寄り添うのでもなく、徹底的に突き放して、ただ何があったのかだけを積み重ねていく様は、事件そのものの猟奇性よりも、フライシャーの突き放し方のほうが恐ろしいと思わせる。

妻と子どもを殺されたうえに、妻子殺しの嫌疑をかけられて処刑されたジョン・ハート演じる男に対しても哀惜の情なんて少しもなく、自分で自分のことを「頭が鈍い」という男の哀れな末路をただ淡々と見つめていくだけ。どこまでも冷徹な映画。

私ははたして「映画」を見たのだろうか。それとも……。虚実皮膜という言葉を久しぶりに思い出しました。しかも事件現場となった実際のアパートで撮ったというからさらに恐ろしい。私ならそんな現場で働くの絶対いやですが。

日本の撮影現場では、クランクインの朝に、撮影所の隅っこにある祠にスタッフ全員が集まって神主にお祓いをしてもらうんですが、西洋ではそのあたりどうなんだろう? やっぱり教会で祈るの? それとも向こうは合理主義が徹底してるからお構いなしに撮っちゃうんですかね?


『息の跡』(2016、日本)
蓮實重彦がほめていた映画に感動するなんて癪に障るけど、こんなのを見せられたら頭を垂れるほかありません。

あのユニークなオッチャンを見つけてきた時点で勝ったも同然だと思うけど、何しろカメラと被写体との距離がいちいち適切で、見てて心地いいんですよね。あれは天性のものなんだろうな。

小森はるか監督の作品をもっと見たい。『空に聞く』と『二重のまち』は去年スクリーンで見ましたが。いろいろ短編なんかもあるらしいし。


『茜色に焼かれる』
石井裕也監督といえば、『舟を編む』は好きだけど、他はあまり好きなれないものが多くて、公開時は見送ったのです。

しかしWOWOWで放送されたので見たんですが、30分ほど見てつまらなかったらやめようと軽い気持ちで見始めたのに、もう夢中になって最後まで見てしまいました。やはり尾野真千子ですよね、この映画は。あれは本当にすごい。


『罠』(1949、アメリカ)
この映画、実は30年ちょっと前、私が『明日に向って撃て!』を見て映画に狂った頃に近くのレンタルビデオ屋のレジ近くの結構目立つところに置いてあって、すごく気になってたのです。なぜあのとき借りなかったのかいまとなっては不思議というか、もう永久に理由なんてわからないけど、ロバート・ライアンという名前を知らなかったのは大きかったかもしれない。ミルトン・クラスナーなんてもっと知らなかったし。

でも、上映時間と映画内の時間を一致させるという手法って何か意味あるんですかね? 『真昼の決闘』なんかもそうですけど、あれ、撮影がめちゃ大変でしょ。映画は台本の順番通りじゃなく、バラバラに撮っていくから、シーン1で映る時計が2時を差していて、シーン10が2時10分と台本に書いてあっても、シーン2から9までをあとで撮る場合、編集したら10分きっちりになるように撮らないといけないわけで、何かを足したり引いたりできない。不測の事態が起こってもその10分は何としてでも確保しないといけない。

でも、そこまでして何の効果が? 一般の観客はそんなこと気にして見てないはずだし、業界人に「すごい!」と言われたくてやってる気がする。面白い映画だったけど、そこは大いに疑問でした。


『ビーチ・バム まじめに不真面目』(2019、アメリカ)
これについては鑑賞時の感想を読んでください⇒『太陽を盗んだ男』と『ビッグ・リボウスキ』

ハーモニー・コリンは当たりはずれが激しいので、これまた公開時に敬遠してしまったんですが、見に行けばよかったと激しく後悔。


『天国はまだ遠い』(2015、日本)
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濱口竜介監督の2015年の短編映画。日本映画専門チャンネルで見ました。

この監督の作品も当たり外れが大きい。去年、劇場で見てえらく感激した『ドライブ・マイ・カー』を再見したら「あれ? こんなんだったっけ?」みたいな感じで、見るときのこちらのコンディションも影響するみたい。

これも最初見たときは特に何も思わなかったんですが、短編だし、何となく気になるから、もう一回見たんですよ。そしたらぜんぜん印象が違う。

カット割りがうまいのは最初からわかってましたが、濱口監督の「演劇」への強いこだわりがこの作品でも窺えます。

玄理が死んだ姉が憑依しているという男にインタビューする。玄理は憑依なんて信じてないのに、男の口を借りて語る姉と言葉を交わすうちに、突然、姉に泣いてすがる。この瞬間がとにかくスリリング。男の嘘を暴こうとインタビューアーを演じていたはずなのに、いつの間にか心の奥底から姉への想いが噴出する。そのきっかけは男の言葉。喋っているのは姉とは似ても似つかない男で、当然声も違う。はたから見れば「演技」にしか見えない。でも、姉妹しか知らない情報を小出しにされるうちに、玄理の目には「演技」ではなく「真実」に見えてくる。でも、映画が映し出す玄理と会話する人間は、姉ではなく、男ですよね。

人間の行いはどこまでが「演技」で、どこから「真実」なのか。そこに違いなんてあるのだろうか。とこの映画は訴えてきます。秀作。


何かの本で蓮實重彦がえらくほめてた、バッド・ベティカーの『決闘コマンチ砦』と、アンソニー・マンの『シャロン砦』を見れたのも今年の収穫。

そういえば今年は、ロベール・ブレッソン特集にジャック・リヴェット特集、シャンタル・アケルマン特集などなどいろんなレトロスペクティブがあったけど、ことごとくつまらなかった。全部見たわけじゃないけど。『ジャンヌ・ディエルマン』を見逃したのは痛恨。

ちなみに、ワーストにふさわしい作品は旧作にはなかったです。新作にはゴロゴロしてますが。

というわけで、明日はいよいよ「新作映画ベストテン」です。


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10番街の殺人 (字幕版)
アンドレ・モレル
2014-03-10


 
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