毎年恒例の書籍ベストテン。今年は10冊に絞り切れなかったので11冊(正確には11シリーズ、12冊)です。
では、早速まいりましょう。
以下に感想をつらつらと。
第1位『ミウラさんの友達』(益田ミリ)
やはり今年はこれですね。益田ミリさんには『すーちゃん』シリーズや『今日の人生』シリーズもありますが、現時点で私が読んだものの中ではこれが最高傑作。やはりこの国では下手な小説(『流浪の月』とかね)なんか読むよりマンガを読んだほうが面白い。
何しろエッセイマンガで有名な益田ミリさんがロボットをテーマにしたSFを描いているわけですからね。それだけでも意外でした。でもSFといってもそこはやはり「益田ミリワールド」全開で、人間の心の機微を描いて秀逸。構成も徹底的に考えぬかれていて、完全に脱帽です。
読書時の感想はこちら⇒益田ミリさんの最高傑作!
第2位『深夜のダメ恋図鑑⑨⑩』(尾崎衣良)
ついに完結してしまいました。意外性の連続の果てに、それぞれのキャラクターが収まるべきところに収まる完璧なエンディング。終わるべきところで終わるって大事ですよね。『北斗の拳』がラオウが死んだところで終わらなかったのを思い出してしまいました。
読書時の感想はこちら⇒9巻感想(佐和子と五十市、深い批評性)、10巻感想(暴力と言葉の狭間で)
何でも、いまはOLである円や佐和子が女子大生だった頃の短編が『初期傑作集』なるものに収録されていると知る。これはダメ恋マニアとしてはじっとしていられない。いますぐ本屋へ走る!
第3位『テアトロン 社会と演劇をつなぐもの』(高山明)
これは年初に読んだんですが、いまだに印象深い。
「この世は劇場であり、人間はみな役者。人生は壮大な演劇だ」と言ったのはシェイクスピアですが、著者は、あいちトリエンナーレの「表現の不自由展」にクレームの電話をかけてくる人たちの話にじっと耳を傾けるコールセンターを立ち上げ、そこに「究極の演劇」の萌芽を見る。
つい先日読んだ、臨床心理士・東畑開人さんの『聞く技術 聞いてもらう技術』にも通じることが書かれていて、目からウロコでした。
神戸の図書館には発売されてから長らくどこにも蔵書がなかったんですが、最近、一館だけ仕入れたようです。こういう本がひっそり置かれているだけでその図書館の価値は上がります。別に読まれる必要はないのです。置かれていればそれでいい。そんな本です。
読書時の感想はこちら⇒Jアート・コールセンターという演劇
第4位『退廃姉妹』(島田雅彦)
島田雅彦さんの作品を読むのは恥ずかしながら初めて。何しろあの青山真治監督が映画化を熱望してて、荒井晴彦さんがシナリオを書いていたのに、当の青山監督が亡くなってしまいましたからね。それで読んだのです。(シナリオは未読)
いままで島田雅彦作品を読んでなかったのを激しく後悔しました。これからもっと読まなくちゃ。王道を行く「文学」であり、「エンターテインメント」でもあり、つまりは面白い小説ということ。人は『流浪の月』なんか読まずに『退廃姉妹』を読むべきと思う。
読書時の感想はこちら⇒青山真治監督と南木顕生先生
『流浪の月』読書時の感想はこちら⇒登場人物への愛情が感じられない
第5位『愛読の方法』(前田英樹)
長兄の愛読書として書名だけ知ってましたが、こんなに面白いならもっと早く読めばよかったと激しく後悔。文中で何度も引用されるショーペンハウアーの極論中の極論『読書について』と似たようなことを言っているようでいて、独特の文体で書かれたこの本は、よりよく生きたいと願う人間の喉元に食らいついて離れない力強さがある。
著者は「終わりの言葉」としてこう書いています。
「私たち一人一人の自己発見は、人類に与えられた魂の持続と創造とに、そのまま溶け込んでいけるものになる。この意味で、信じてやまぬ愛読書を独りもつとは、人類の魂を受け継ぐ行為なのである。そのような愛読書に出くわすために人は何をすればいいか、私にはわからない。わからないが、魂から魂への縦のつながりを強く求めて生きる人に、愛読される古典が向こうからやってこないはずはないと思う。古典は、自らその扉を開いて、求める人を招き入れるだろう」
これがすべてでしょう。本に限らず何でもそうだと思う。人でも、映画でも。私が『明日に向って撃て!』と出逢ったのも、思えば向こうからやってきたのだった。焦ってはいけない。出逢いは必ずやってくる。
第6位『パンとサーカス』(島田雅彦)
今年を代表する政治小説。
ただ、「サーカス開幕」までの前半に比して、後半はちょっと落ちましたかね。とはいえ、日本人なのにCIAのエージェントになれるなんて知らなかったし、細部に至るまで調べ尽くされていて、「情報」としての面白さが満載。もちろん、各人物の描写や関係性の変転も素晴らしい。
でも私は『退廃姉妹』のほうが好きですね。
第7位『子守り唄の誕生』(赤坂憲雄)
赤坂憲雄さんといえば、『異人論序説』『排除の現象学』『王と天皇』『境界の発生』など、民俗学の極北とも言える著作で魅了されてきましたが、この本もまた非常に面白く、結論もなかなか驚きました。
でも、結論そのものの面白さより、やはりそこに至るまでの過程がスリリングで読み始めたら止まらなかった。J・G・フレイザーの『金枝篇』は、結論が白けるほどつまらないのに過程が面白すぎて世界的な名著と言われます。過程が大事。
第8位『鬼と日本人』(小松和彦)
赤坂憲雄さんと並ぶ民俗学の巨頭・小松和彦さん(妖怪研究者と言ったほうがいいんですかね?)の本を久しぶりに読みましたが、これもめっぽう面白かった。
私にとっては、山田太一さんの代表作『早春スケッチブック』を新しい視点で捉え直すヒントが満載だった本として、死ぬまで記憶されそうです。
それについての記事はこちら⇒「鬼」としての山崎努
第9位『千代田区一番一号のラビリンス』(森達也)
これも今年を代表する政治小説かな。いや、政治ではなく宗教でしょうか。しかしながら、諸悪の根源を「自民党」と「電通」という設定にしたのは、いまや古いかもしれません。諸悪の根源は「統一教会」ですから。自民党と電通も同罪のような気もしますが。
読書時の感想はこちら⇒不敬に対する「天皇による政治家利用」
第10位『複雑化の教育論』(内田樹)
教育とは、子どもを複雑な存在にしていくことだ。成熟とは、自らの存在を複雑にしていくことだ。というのが著者の主張。
複雑になったからといって強くなるわけでも、幸福になるわけでも、自由になるわけでもない。ただ「昨日より複雑になる」だけ。
私はよく「あなたのことがわからない」と言われます。それって複雑化してるってことなんですかね?
というか、世間的な人を見る見方が一面的すぎませんか? ある人の一面だけを見て「あの人はこういう人」とレッテルを貼る。そのレッテルに合わない面を見ると「わからない人」となる。人間にはいろんな面があることを忘れている。そういう人は必ずと言っていいほど、自分自身を一面的な人間に閉じ込めてしまっている。「俺/私はこういう人」と自分自身にレッテルを貼って、そのレッテルに合うような言動しかしない。
それはもはや自分で自分を牢獄に閉じ込めているに等しく、いったい何のために生まれてきたの? と首をかしげざるをえない。そういう人、ほんとたくさんいます。
第11位『雨を、読む。』(佐々木まなび)
雨にまつわるいろんな言葉を綴った。「雨言葉事典」とも言える一冊。
雨ひとつだけ取っても、日本語ってこんなに豊かなんだと酔い痴れることができます。一読をお薦めします。
読書時の感想はこちら⇒雨女の真骨頂!
ワーストには、『ショットとは何か』(蓮實重彦)を挙げます。
デビッド・ロウリーとかケリー・ライカートとか、現代の監督の名前も出てきますが、それはほんの少しで、大昔の映画のことばかり。比率が悪すぎます。昔の映画のことを語りたいのはわかります。著者が一番影響を受けたジョン・フォードやラオール・ウォルシュ、ハワード・ホークス、ドン・シーゲルといった名前について語りたいのはわかります。
でも、かつての巨匠の技がいまの映画にどう生きているかを論じないと意味ないのでは? この『ショットとは何か』は単なる「老人の思い出話」にしかなっていません。
でも、同じ著者による『言葉はどこからやってくるのか』は面白かった。本業はフランス語の教師だし、『反=日本語論』などもそうだけど、言葉をめぐる蓮實の論考は傾聴に値しますね。
というわけで、今年もいい本にたくさん巡り合えて幸せです。
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では、早速まいりましょう。
①ミウラさんの友達(益田ミリ)
②深夜のダメ恋図鑑⑨⑩(尾崎衣良)
③テアトロン 社会と演劇をつなぐもの(高山明)
④退廃姉妹(島田雅彦)
⑤愛読の方法(前田英樹)
⑥パンとサーカス(島田雅彦)
⑦子守り唄の誕生(赤坂憲雄)
⑧鬼と日本人(小松和彦)
⑨千代田区一番一号のラビリンス(森達也)
⑩複雑化の教育論(内田樹)
⑪雨を、読む。(佐々木まなび)以下に感想をつらつらと。
第1位『ミウラさんの友達』(益田ミリ)
やはり今年はこれですね。益田ミリさんには『すーちゃん』シリーズや『今日の人生』シリーズもありますが、現時点で私が読んだものの中ではこれが最高傑作。やはりこの国では下手な小説(『流浪の月』とかね)なんか読むよりマンガを読んだほうが面白い。
何しろエッセイマンガで有名な益田ミリさんがロボットをテーマにしたSFを描いているわけですからね。それだけでも意外でした。でもSFといってもそこはやはり「益田ミリワールド」全開で、人間の心の機微を描いて秀逸。構成も徹底的に考えぬかれていて、完全に脱帽です。
読書時の感想はこちら⇒益田ミリさんの最高傑作!
第2位『深夜のダメ恋図鑑⑨⑩』(尾崎衣良)
ついに完結してしまいました。意外性の連続の果てに、それぞれのキャラクターが収まるべきところに収まる完璧なエンディング。終わるべきところで終わるって大事ですよね。『北斗の拳』がラオウが死んだところで終わらなかったのを思い出してしまいました。
読書時の感想はこちら⇒9巻感想(佐和子と五十市、深い批評性)、10巻感想(暴力と言葉の狭間で)
何でも、いまはOLである円や佐和子が女子大生だった頃の短編が『初期傑作集』なるものに収録されていると知る。これはダメ恋マニアとしてはじっとしていられない。いますぐ本屋へ走る!
第3位『テアトロン 社会と演劇をつなぐもの』(高山明)
これは年初に読んだんですが、いまだに印象深い。
「この世は劇場であり、人間はみな役者。人生は壮大な演劇だ」と言ったのはシェイクスピアですが、著者は、あいちトリエンナーレの「表現の不自由展」にクレームの電話をかけてくる人たちの話にじっと耳を傾けるコールセンターを立ち上げ、そこに「究極の演劇」の萌芽を見る。
つい先日読んだ、臨床心理士・東畑開人さんの『聞く技術 聞いてもらう技術』にも通じることが書かれていて、目からウロコでした。
神戸の図書館には発売されてから長らくどこにも蔵書がなかったんですが、最近、一館だけ仕入れたようです。こういう本がひっそり置かれているだけでその図書館の価値は上がります。別に読まれる必要はないのです。置かれていればそれでいい。そんな本です。
読書時の感想はこちら⇒Jアート・コールセンターという演劇
第4位『退廃姉妹』(島田雅彦)
島田雅彦さんの作品を読むのは恥ずかしながら初めて。何しろあの青山真治監督が映画化を熱望してて、荒井晴彦さんがシナリオを書いていたのに、当の青山監督が亡くなってしまいましたからね。それで読んだのです。(シナリオは未読)
いままで島田雅彦作品を読んでなかったのを激しく後悔しました。これからもっと読まなくちゃ。王道を行く「文学」であり、「エンターテインメント」でもあり、つまりは面白い小説ということ。人は『流浪の月』なんか読まずに『退廃姉妹』を読むべきと思う。
読書時の感想はこちら⇒青山真治監督と南木顕生先生
『流浪の月』読書時の感想はこちら⇒登場人物への愛情が感じられない
第5位『愛読の方法』(前田英樹)
長兄の愛読書として書名だけ知ってましたが、こんなに面白いならもっと早く読めばよかったと激しく後悔。文中で何度も引用されるショーペンハウアーの極論中の極論『読書について』と似たようなことを言っているようでいて、独特の文体で書かれたこの本は、よりよく生きたいと願う人間の喉元に食らいついて離れない力強さがある。
著者は「終わりの言葉」としてこう書いています。
「私たち一人一人の自己発見は、人類に与えられた魂の持続と創造とに、そのまま溶け込んでいけるものになる。この意味で、信じてやまぬ愛読書を独りもつとは、人類の魂を受け継ぐ行為なのである。そのような愛読書に出くわすために人は何をすればいいか、私にはわからない。わからないが、魂から魂への縦のつながりを強く求めて生きる人に、愛読される古典が向こうからやってこないはずはないと思う。古典は、自らその扉を開いて、求める人を招き入れるだろう」
これがすべてでしょう。本に限らず何でもそうだと思う。人でも、映画でも。私が『明日に向って撃て!』と出逢ったのも、思えば向こうからやってきたのだった。焦ってはいけない。出逢いは必ずやってくる。
第6位『パンとサーカス』(島田雅彦)
今年を代表する政治小説。
ただ、「サーカス開幕」までの前半に比して、後半はちょっと落ちましたかね。とはいえ、日本人なのにCIAのエージェントになれるなんて知らなかったし、細部に至るまで調べ尽くされていて、「情報」としての面白さが満載。もちろん、各人物の描写や関係性の変転も素晴らしい。
でも私は『退廃姉妹』のほうが好きですね。
第7位『子守り唄の誕生』(赤坂憲雄)
赤坂憲雄さんといえば、『異人論序説』『排除の現象学』『王と天皇』『境界の発生』など、民俗学の極北とも言える著作で魅了されてきましたが、この本もまた非常に面白く、結論もなかなか驚きました。
でも、結論そのものの面白さより、やはりそこに至るまでの過程がスリリングで読み始めたら止まらなかった。J・G・フレイザーの『金枝篇』は、結論が白けるほどつまらないのに過程が面白すぎて世界的な名著と言われます。過程が大事。
第8位『鬼と日本人』(小松和彦)
赤坂憲雄さんと並ぶ民俗学の巨頭・小松和彦さん(妖怪研究者と言ったほうがいいんですかね?)の本を久しぶりに読みましたが、これもめっぽう面白かった。
私にとっては、山田太一さんの代表作『早春スケッチブック』を新しい視点で捉え直すヒントが満載だった本として、死ぬまで記憶されそうです。
それについての記事はこちら⇒「鬼」としての山崎努
第9位『千代田区一番一号のラビリンス』(森達也)
これも今年を代表する政治小説かな。いや、政治ではなく宗教でしょうか。しかしながら、諸悪の根源を「自民党」と「電通」という設定にしたのは、いまや古いかもしれません。諸悪の根源は「統一教会」ですから。自民党と電通も同罪のような気もしますが。
読書時の感想はこちら⇒不敬に対する「天皇による政治家利用」
第10位『複雑化の教育論』(内田樹)
教育とは、子どもを複雑な存在にしていくことだ。成熟とは、自らの存在を複雑にしていくことだ。というのが著者の主張。
複雑になったからといって強くなるわけでも、幸福になるわけでも、自由になるわけでもない。ただ「昨日より複雑になる」だけ。
私はよく「あなたのことがわからない」と言われます。それって複雑化してるってことなんですかね?
というか、世間的な人を見る見方が一面的すぎませんか? ある人の一面だけを見て「あの人はこういう人」とレッテルを貼る。そのレッテルに合わない面を見ると「わからない人」となる。人間にはいろんな面があることを忘れている。そういう人は必ずと言っていいほど、自分自身を一面的な人間に閉じ込めてしまっている。「俺/私はこういう人」と自分自身にレッテルを貼って、そのレッテルに合うような言動しかしない。
それはもはや自分で自分を牢獄に閉じ込めているに等しく、いったい何のために生まれてきたの? と首をかしげざるをえない。そういう人、ほんとたくさんいます。
第11位『雨を、読む。』(佐々木まなび)
雨にまつわるいろんな言葉を綴った。「雨言葉事典」とも言える一冊。
雨ひとつだけ取っても、日本語ってこんなに豊かなんだと酔い痴れることができます。一読をお薦めします。
読書時の感想はこちら⇒雨女の真骨頂!
ワーストには、『ショットとは何か』(蓮實重彦)を挙げます。
デビッド・ロウリーとかケリー・ライカートとか、現代の監督の名前も出てきますが、それはほんの少しで、大昔の映画のことばかり。比率が悪すぎます。昔の映画のことを語りたいのはわかります。著者が一番影響を受けたジョン・フォードやラオール・ウォルシュ、ハワード・ホークス、ドン・シーゲルといった名前について語りたいのはわかります。
でも、かつての巨匠の技がいまの映画にどう生きているかを論じないと意味ないのでは? この『ショットとは何か』は単なる「老人の思い出話」にしかなっていません。
でも、同じ著者による『言葉はどこからやってくるのか』は面白かった。本業はフランス語の教師だし、『反=日本語論』などもそうだけど、言葉をめぐる蓮實の論考は傾聴に値しますね。
というわけで、今年もいい本にたくさん巡り合えて幸せです。
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