なぜか劇場公開が見送られた『スクリーム』シリーズの第5作をWOWOWで見たんですが、これが見事なジャンル映画として屹立した本物の「ハリウッド映画」で、舌鼓を打ちました。(以下ネタバレしてます。真犯人もばらしています。ご注意ください)


『スクリーム』(2022、アメリカ)
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キャラクター創造:ケビン・ウィリアムソン
脚本:ジェームズ・ヴァンダービルト&ガイ・ビューシック
監督:マット・ベティネッリ・オルピン&タイラー・ジレット
出演:メリッサ・バレラ、ジャック・クエイド、マイキー・マディソン、ジェナ・オルテガ、ネーブ・キャンベル、コートニー・コックス、デビッド・アークエット、スキート・ウールリッチ


この第5作の肝は、劇中で語られる通り、「1作目のリメイク」ということです。先祖返り。『ハロウィン』でも何でも偉大なシリーズは先祖返りするんだと。そして、最近流行のエレベイテッド・ホラーではなく、『スタブ』はスラッシャー・ムービーであり、同時にすぐれたフーダニットのミステリーなんだと。

そして拳銃。アメリカ映画、それもB級アクションなどの娯楽映画では拳銃が大活躍しますが、この2022年度版『スクリーム』でも拳銃が大活躍します。これぞハリウッド映画!ってな作りになっています。

「スラッシャー・ムービー」「ミステリー」「リメイク」「拳銃」。この四つが『スクリーム』第5作のキーワードでしょう。


リメイク
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1作目でドリュー・バリモアが殺されたのと同様、不審者から電話がかかってきて、ホラー映画に関するクイズを出され、全問正解できなかったため、若い女の子タラがめった刺しにされます。

1作目では「『13日の金曜日』の殺人鬼は誰か」など、過去の実在するホラー映画からの出題でしたが、今回のリメイク版では、すでに1作目の事件が映画化されている(タイトルは『スタブ』)という世界観により、『スタブ』からの出題となっています。

ここがうまいんですよね。1作目を踏襲しながら、『スタブ』から出題することで、1作目のヒロインの名はシドニー・プレスコット、その恋人で真犯人の名はビリー・ルーミス、彼の相棒でもう一人の犯人の名はスチュー、『スタブ』の原作となった本を書いたのはテレビアナウンサーのゲイル・ウェザースなどなど、1作目を見てない人、見たけど忘れてしまった人にも重要な情報が説明されます。殺される恐怖とともに説明されるので少しも説明臭さがない。セオリーですが、最近は何でもナレーションで説明するアメリカ映画が激増してますから、この『スクリーム』のように、プロットを進めながら説明臭さなしで説明してくれる映画はいまや貴重です。


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主要人物が一堂に会して、この事件はリメイクなのだと、最初の被害者タラ(警察が来たからか殺されずにすんで入院中)の友人のミンディが力説します。

タラがファーストシーンで犯人に「エレベイテッド・ホラーが好き」といいます。何だろうと思ったら、ジョーダン・ピール監督『アス』などの、感情を深く掘り下げた気取ったホラーのことらしい。そして、『スタブ』はスラッシャー・ムービーでフーダニットのミステリーでもあり、犯人は流行のエレベイテッド・ホラーに対するアンチテーゼとして、1作目をリメイクした事件を起こしているのだ、と。

確かにそれはわかります。この記事の冒頭で「見事なジャンル映画」といったのはそういう意味です。スラッシャー・ムービーとして見事であり、フーダニットとしても見事だし、同時にエレベイテッド・ホラーへのアンチテーゼとしても見事です。ああいう気取った映画は撮らないぜ、という作者たちの決意表明に喝采を贈ります。


フーダニット
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この映画の主人公は、サラといって、最初の被害者タラの姉です(名前が似てるからややこしい)。

実は、サラは1作目で真犯人の一人だったビリー・ルーミス(スキート・ウールリッチ)とシドニー・プレスコット(ネーブ・キャンベル)との間にできた子どもなんですね。シドニーがなぜ殺人鬼の子を産んだのか不明ですが(そこらへんが『4』で語られてるんですかね)ともかく、サラとタラは異父姉妹で、サラは自分に連続殺人鬼の血が流れていることに恐怖を覚え、タラを殺してしまうかもしれないと、姉妹は離れて暮らしていたのでした。タラが刺されたと聞いてウッズボローという1作目の舞台となった町に戻ってくるのですが、サラはずっと父親の幻影を見て苦しんでいた。

そこへ、妹のタラが刺され、しかも、この事件は1作目のリメイクだと友人に言われ、さらに、「あなたは主人公よ。真犯人の可能性も高い」と言われる。

サラは混乱します。タラに危害を及ぼさないために町を出ていったのに、それでもタラは刺された。いったい誰が? しかし、この段階では観客も「もしかしたらサラこそ真犯人ではないか」という疑念が消えません。それどころか、みんなが「あんたが犯人だろう」「君じゃないのか」「実は私よ」などと勝手なことを言うので、よけいに誰が真犯人なのか疑心暗鬼になってしまう。これもセオリー通りですが、フーダニットとしてうまい作劇だと思います。


オリバー・ストーンの狙い
今回はキャラクター創造と製作総指揮としてクレジットされているケビン・ウィリアムソンが書いた1作目の脚本は、ウェス・クレイブンとオリバー・ストーンの間で争奪戦となりました。

オリバー・ストーンがなぜこの企画の映画化を熱望したか。それを理解するためには、その少し前の『ナチュラル・ボーン・キラーズ』に遡らないといけません。

『ナチュラル・ボーン・キラーズ』の脚本を書いたのはご承知の通り、クエンティン・タランティーノです。ストーンとタランティーノは、リライトのための打ち合わせで何度も話をしますが、オリバー・ストーンはタランティーノに言ったそうです。

「君は映画から映画を作ろうとしている。それじゃダメなんだ」

『スクリーム』の1作目は、まさに映画から事件を生み出すという内容でしたよね。ホラー映画の法則通りに人を殺害していく。犯人の二人組は映画と現実の区別がついておらず、そんな病んだ欲望を批判的に描いた脚本に魅力を感じたそうです。


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ばらしちゃいますが、今回のリメイク版の犯人もまた1作目と同じく主人公の恋人リッチーです。そして、彼だけでなく、もう一人の女アンバーと組んだ二人組というのもまた1作目と同じです。どこまでも1作目に忠実なのです。何しろ先祖返りですから。

リッチーとアンバーは『スタブ』1作目の大ファンであり、2作目以降つまらなくなったことをネットの掲示板に書き込んだり、製作者に手紙でも送ったのでしょうか、ファンとしての声を届けますが、製作者は聞く耳をもたない。

彼らはそれを逆恨みして、ハリウッドはネタ切れなのだ、だから我々がネタを提供してやると、1作目の殺人鬼の娘サラをウッズボローの町へ呼び戻すべく、まずタラを狙い、次々に関係者を血祭りにしてやったと誇らしげに言います。

このへんの病んだ心理も1作目と同じですね。動機があまりにチープという感想を見かけましたが、チープどころか、これこそ『スクリーム』シリーズの勘所じゃないですか。

1作目で犯人たちは数々のホラー映画に触発されて殺人事件を犯した。今度は殺人事件を起こすことで、それを映画化してほしいという歪んだ欲望が描かれる。馬鹿馬鹿しく、同時に恐ろしい。そんな動機で人を殺す奴がいるのかと鼻白む人がいるのもわかりますが、あのタランティーノがオリバー・ストーンに「映画から映画を作ろうとしている」と叱られたように、映画のことしか頭にない映画マニアを批判するのがこのシリーズの肝でしょ。それを動機がチープといってしまっては最初から見るなよ、と思ってしまいます。


一発の銃弾
1作目から出演している保安官役のデビッド・アークエットが、事件発生の知らせを受けて、保安官を辞めていたのにも関わらず、拳銃を手にします。

ここはゾクゾクしました。何しろ『スクリーム』シリーズはナイフでめった刺しにする殺し方なのに、拳銃が出てくるということは、私の大好きな「一発の銃弾でケリがつく映画」なのかな、と思ったから。

『ダーティハリー』しかり、『ヒート』しかり、『ヴェラクルス』しかり、すぐれたアクション映画は一発の銃弾でケリがつくことが多い。

この映画では、デビッド・アークエットは結構早い段階で殺されるので、最初に彼が手に取った拳銃はクライマックスでは活躍しないことが明らかになります。じゃ誰の拳銃でケリがつくのか。

何と都合のいいことに、犯人の二人組が拳銃をもっているんですね(こういうご都合主義は大歓迎)。1作目のもう一人の犯人であるスチューの家でクライマックスの惨殺シークエンスとなるんですが、一人二人と惨殺され、誰が真犯人か皆が疑心暗鬼になるなかで、アンバーという女がいきなり拳銃を抜いて友人の眉間を撃ちぬきます。

ここは興奮しましたねぇ。一番怪しそうな顔してるなと思ってたけど、いきなり拳銃を抜いて撃ったのでびっくりしました。しかも、「抜いたら構える、構えたら撃つ、撃ったらすぐさまカットを割って撃たれた者を見せる」という、亡くなった青山真治監督が言っていたアメリカ映画の鉄則をちゃんと実践しているので狂喜乱舞しました。

では、誰がどういう状況で「一発の銃弾」を撃つのか。


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最初はコートニー・コックス演じるゲイルがアンバーを撃ちます。三発。アンバーが後ろへ倒れ込むとガスコンロの炎で火だるまになります。うーん、一発じゃなくて三発。しかもトドメを刺したのがガスコンロというのはいかがなものか。

と思っていたら、サラとリッチーの恋人同士の死闘となり、サラがリッチーをナイフでめった刺しにします。ここがまさに「これがスラッシャー・ムービーだ!」と言わんばかりの胸のすくようなめった刺しでした。普通のサスペンスとかアクション映画なら、いくら相手が殺人鬼でもあそこまで刺しませんよね。でもこれはスラッシャー・ムービーなのだからと、どっちが殺人鬼かわからないようなめった刺しの仕方で、気取ったエレベイテッド・ホラーへのアンチテーゼとなっていました。

そして、シドニーから「トドメさしたら?」と言われたサラは、拳銃でリッチーの頭部を三発撃ちます。

うーん、また三発ですか。しかもほとんど虫の息状態の者にトドメを刺しただけ。これでは拳銃を出した意味がないのでは? と思っていたら……

火だるまになって死んだと思っていたアンバーが、突如サラを刺そうとナイフを構えて走ってくる。そのとき、一発の銃弾がトドメを刺します。

撃ったのは、アンバーに刺された最初の被害者であり、主人公サラの妹、タラでした。

お見事! 

あの一発の銃弾のおかげで連続殺人事件は解決し、サラとタラの二人の間のわだかまりも解消された。見事な幕切れです。しかも、最後の最後までスローモーションを使わなかったのが何よりも素晴らしい。やはりアクション映画ではスローモーションは基本的に禁じ手だと思います。

最後には「FOR WES(ウェスに捧ぐ)」と、前作までの監督ウェス・クレイブンへの献辞があり、目頭が熱くなりました。

もうお腹いっぱいですわ。しばらく他の映画は見れないですね。それぐらいの満足感。ごちそうさまでした。


オリバー・ストーン―映画を爆弾に変えた男
ジェームズ リオーダン
小学館
2000-04T


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