公開されたばかりでもうはや終映日が決まってしまったフランス産タイムリープSFサスペンス『ファイブ・デビルズ』を見てきました。まったく退屈せず面白く見れましたが、鑑賞後には大いなる不満が残る微妙な映画でした。(以下ネタバレあります)


『ファイブ・デビルズ』(2021、フランス)
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脚本:レア・ミシウス&ポール・ギローム
監督:レア・ミシウス
出演:サリー・ドラメ、アデル・エグザルコプロス、スワラ・エマティ、スタファ・ムベング


物語を時系列で
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主人公は、白人の母親ジョアンヌと黒人でセネガルにルーツをもつ父親ジミーの間に生まれた子どもジャッキー。そこに、ジミーの妹で、ジャッキーの叔母にあたるジュリアが数年ぶりに訪ねてきます。

ジャッキーは異常な嗅覚をもち、それがタイムリープを引き起こし、時間が行ったり来たりして、過去の忌まわしい出来事が少しずつ明らかになっていきます。

では、あえて、物語を時系列に直して追っていくとどうなるでしょうか。

①ジョアンヌが高校生だった頃、すでにジミーと親交があったが、ジュリアが転校してきて、二人は出会い、恋に落ちる。
②二人の仲をジョアンヌの父親をはじめ周囲は絶対に認めない。
③ジュリアが、学校で放火事件を起こす。そのせいでジョアンヌの友人ナディーヌが顔の右側と右肩にひどい火傷の痕ができる。
④ジュリアの逮捕。
⑤ジョアンヌとジミーの結婚。ヴィッキーの誕生。
⑥ジュリアが釈放されて、数年ぶりにジミーに連絡を取り、ジョアンヌに会いに来る。
⑦ヴィッキーはジュリアにただならぬ気配を感じる。
⑧タイムリープが頻発し、ヴィッキーは、ジュリアと母ジョアンヌの間に何があったかを知る。放火事件のきっかけが自分自身であったことも。同じ頃、ナディーヌはジュリアを絶対に許さず、彼女を招き入れたジョアンヌに暴力を振るう。
⑨ジュリアが入水自殺を図る。ジョアンヌが消防士のジミーに連絡し、ジュリアは一命を取り留める。
⑩ジョアンヌはジュリアと一緒の人生を歩むことを決意する。ジミーはヴィッキーに「二人だけになっちゃったね」というが、ヴィッキーは「それでいいよ」と母親の決意を祝福する。


④と⑤はオンでは描かれず、観客の想像にゆだねられていますが、こう書くとですね、はたして「タイムリープ」という仕掛けが必要だったのか、首をかしげたくなるんですよ。というか、はっきりいらないでしょ?


ジョアンヌとジュリアの物語
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この映画は要するに「ラブストーリー」ですよね? 同性愛の関係にあったジョアンヌとジュリアが、放火事件のために離れ離れになり、ジョアンヌはジミーと結婚して、とりあえずは普通の家庭を営んでいる。そこにジュリアが帰ってきて、やけぼっくいに火がついてしまい、ジョアンヌは夫と子どもを捨ててジュリアとの人生を選ぶ。

なぜジョアンヌを主人公にして普通に時系列でやらなかったのでしょう。アデル・アグザルコプロスという女優さんがあまりに魅力的なので、彼女を主役にしてもっと丹念に心の軌跡を追っていったら忘れられない映画になったと思うのですが、実際の映画は、彼女の子どもを主人公にして、タイムリープで過去の断片を見せられるだけなので、説明不足というか、細かいところがわからない。

そりゃ、放火事件は、クリスマスツリーの中に隠れていたヴィッキーに業を煮やしたジュリアが火をつけて起こるので、ヴィッキーのタイムリープがなければ放火自体がなかったことになります。でも、何らかの事件で二人が離れ離れになればいいわけだから、やはりタイムリープは不要です。

それに何より、タイムリープしたヴィッキーは、ジョアンヌやジミーには見えず、ジュリアには見えるんですが、その理由がまったくわからない。あれでは単なるご都合主義です。見えなければ放火事件は起こりませんし、ヴィッキーがライムリープしていること、それが放火事件のきっかけだったことを母のジョアンヌが最後まで知ることがないのはいかがなものかと思いました。

つまり、ヴィッキーのタイムリープと、ジョアンヌとジュリアのラブストーリーが、有機的に絡まってこないのです。


正攻法で行ってほしかった
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おそらく監督はじめ作者たちは、時系列でやるとありきたりな映画になってしまうと危惧したのでしょう。

ヴィッキーの鋭敏な嗅覚がタイムリープを引き起こし、それが過去の忌まわしい出来事を浮かび上がらせ……というほうがサスペンスが高まっていいだろうという判断と思われます。その気持ちはわからないではありません。確かに終盤近くまで惹きつけられましたから。

しかし、そのせいで、同性愛者というだけで疎外される女性二人の哀しみや、やっぱり二人で生きていこうという決意に対する感動が薄れるという本末転倒なことが起こってしまっています。

最終盤のジョアンヌとジュリアの二人だけのシーン、そして父親ジミーとヴィッキーの二人だけのシーンはどちらも素晴らしいじゃないですか。

だから、タイムリープという奇策を使わずに、正攻法で行ってほしかったと残念でなりません。


蛇足
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最後に出てくる少女が誰なのかもわからないし、「ファイブ・デビルズ=5人の悪魔」が何(誰)を意味するのかもわからなかった。(観客が私を含めてちょうど5人だったというのは偶然でしょうが)

それにつけても、アデル・エグザルコプロスという女優さんは本当に魅力的。まだ28歳でこの色香は素晴らしいの一語!(実は『アデル、ブルーは熱い色』は未見でして)





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