高橋伴明監督の最新作にして、2年前に渋谷区のバス停で寝泊まりしていたホームレスの女性が殴り殺された事件を映画化した、非常にアクチュアルな作品『夜明けまでバス停で』を見てきました。(以下ネタバレあり。ご注意ください)


『夜明けまでバス停で』(2022、日本)
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脚本:梶原阿貴&高橋伴明
監督:高橋伴明
出演:板谷由夏、大西礼芳、三浦貴大、柄本明、根岸季衣、ルビー・モレノ、片岡礼子


悲劇を映画化する
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どこまで実際の事件に忠実に映画化しているのかは知りません。最後のほうはともかくとして、主人公の設定とか、なぜホームレスになったのか、その背景とか、周りの人物とか。

でも、そんなことはほとんどどうでもいいことです。そりゃ作る側の人にとってはどうでもよくないことでしょうが、見る側にとってはどうでもいい。問題は、スクリーンに映った物語に感動できるかどうかであって、実話に忠実とか原作通りかどうかとか、どうでもいいこと。

ただ、殺人事件を映画化したと聞いていたので、最後はやはり殺されるんだと思ってたんですよね。誰もがそう思っていたところを作者たちははるか上を行く発想でこの事件を締めくくります。この締め方がいい! 


殺されない結末
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飲食店の店員だった主人公が、コロナ禍で突然馘首され、再就職先がすぐ見つかるも、そこもコロナが原因で採用取消。住む家を失いホームレスに転落する。で、バス停で寝泊まりしていたところを、メンタリストのDaiGoをモデルにしたと思しき、ホームレスを排除せよと煽るユーチューバーに感化された男が彼女をバイ菌扱いして殺しにかかるんですが……結果的に殺されないんですね。

煉瓦で殴り殺そうと男が振りかぶったところで、飲食店時代の店長さんが大声を上げて犯人は退散。これは驚きました。どんどん転落していく主人公や周りの人々が気の毒すぎて、見ていてあまりにつらく、「あぁ、そして最後は殺されるのか。いくら見るべきところが多々あるといっても、1000円も金払ってこんなつらいものを見せられるとは。トホホ……」と嘆いていたらこのラスト。

タランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を思い出しましたね。シャロン・テートがチャールズ・マンソン一味に殺されなかったというファンタジックなラストでしたが、しかし、この『夜明けまでバス停で』はそのはるか上を行くのです。


腹腹時計

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主人公の板谷由夏は、ホームレスに転落したあと、元過激派の柄本明と知り合って、爆弾の作り方を教えてもらいます。

というのも、劇中、まだ菅が首相の頃のこんな記者会見映像が流れました。

「自助、共助、公助。まず自分でやる。それが無理なら家族や地域で協力してやる。それでも無理なら国が助ける」

いやいや、それは順番が逆でしょう! と当時思ったのは私だけではないでしょう。そういう何でもかんでも「自己責任」ですませようとするから三浦貴大みたいな飲食店の二代目社長にしてとんでもないセクハラ野郎が跳梁跋扈することになる。

というわけで、アクセサリー作りが趣味の板谷由夏は手先が器用だからということで爆弾作りを教える。ラスト、元店長(三浦貴大の恋人だったが別れたうえに会社も辞めたらしい)に板谷由夏は「ねえ、一緒に爆弾作らない?」と誘い、上着をめくるとTシャツに「腹腹時計」と書かれている、という何とも素晴らしいオチでした。(そういえばわざわざ大阪まで渡辺文樹監督の『腹腹時計』を見に行ったのはもう15年くらい前になるか)

ただ、私はこの結末の直前まで、三浦貴大の描き方にすごく不満があったんですよね。

だって、退職金も盗んでいたなんて、そこまでの悪人にしてしまったら、板谷由夏がホームレスに転落したのは三浦貴大の「個人悪」が原因になってしまいませんか? と。

問題はやはり社会とかシステムの問題なのだから、個人の悪を描きすぎると問題がすり替わってしまわないかと思ってたんですね。でも、結末を見て納得しました。


「自助、自助」というならば
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菅が実際に言ったのは「自助、共助、公助」であって、この画像はコラでしょうけど、しかし、政府の本音でもあるはず。だからこんなコラ画像を作られる。

何でも自分で。自分では無理でも自分で。そこまで自己責任論をもちだすのは、苦しんでいる人にお金を使えば、自分たちが吸えるはずの甘い汁が吸えなくなるからでしょ。そして何事においても責任を取りたくない人たちの保身のためでもある。

三浦貴大の個人悪は、だから政治家や官僚や彼らと結託した大企業のメタファーですよね。この映画においては「三浦貴大=菅」なわけです。

菅が自助自助と言うのであれば、板谷由夏はじゃあ自分で爆弾作ります。国の助けはいりません。つーか国会に爆弾仕掛けるので。となるし、彼女に爆弾作らない? と誘われる元店長・大西礼芳は退職金をもらってないという書類に署名して、と板谷由夏の元同僚のルビー・モレノと片岡礼子に書いてもらうけど、板谷由夏はホームレスで連絡が取れない。そこで板谷の署名は大西礼芳が偽造したんですよね。私文書偽造というれっきとした犯罪ですが、毒をもって毒を制すというか、三浦貴大が極悪人なのだからこっちだって犯罪で対抗しますよ、と。

こうして、離れ離れだった板谷由夏と大西礼芳は、再会したときには「同じ穴のムジナ」になっていた。だから「ねえ、爆弾作らない?」の一言だけでスパッと終わっても、あのとき大西礼芳がどう答えたかは簡単に想像がつきます。

何でも自分で、と国が言うんだから爆弾も自分で作ります。それでいいですよね? という開き直り。

そこがとても気に入りました。傑作!








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