煮え切らない前半戦に続く後半戦です。今回は前半戦と違い、くっきり明暗が分かれました。


『うる星やつら』
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40年前のアニメは見てたんだけど、あまり記憶にないんですよね。そもそもラムってなぜ地球に来たのかとか、ぜんぜん憶えてない。

というわけで令和版を見始めたんですが、声優が変わっても絵が少々変わってもほとんど違和感なしで楽しんで見ています。ギャグアニメが激減した今日において貴重なアニメだと思いますね。

チャンネルをガチャガチャ回す式のブラウン管テレビとか黒電話とか、昭和レトロ満載なのはどうなんでしょうね。ネットでは「懐かしい!」「逆に新鮮」と好評らしいですが、私は、舞台を昭和のままリメイクするならあまり意味がないというか、この物語は昭和でしか通用しないものだということになってしまいませんか? スマホとかSNSとかそういうものが氾濫したこの令和においても通用するところを見せてほしかった。そういう気概がほしかった。

と言いながら無邪気に楽しんでますが。(笑)


『アトムの童(こ)』
ジョン・ドウという謎の人物は主人公その人で、彼を探す岸井ゆきのが偶然出会っていたとかいうのはまだ許容範囲内ですが、やはりアトム玩具を買収しようと画策するオダギリジョーがおもちゃ愛などかけらもない人物というのはいただけません。あれではあの人物がただの「悪」になってしまっています。

私はある高名な脚本家から言われた、「善と悪」の対立ではなく「善と善」の対立でドラマを作りなさい、という言葉がいまも忘れられないのですが、オダギリジョーを風間杜夫と同じようにおもちゃへの愛情に満ち溢れた人物にすべきだったと思います。どちらもおもちゃへの愛と情熱がほとばしる。その両者が対立し、対決していく、というなら深みのあるドラマになったと思いますが、実際にはただ「善が悪をやっつける」という構図にしかなっておらず、これ以上見続ける気になれませんでした。1話でリタイア。


『霊媒探偵 城塚翡翠』
タイトルだけ見るとキワモノそうだけど、清原果耶が出るなら見ようと見てみたんですが、いきなり犯行現場にミステリ作家の瀬戸康史が出入りを許可されていたり、それはいくら何でもありえんでしょ! と突っ込みたくなる設定・描写が多くて辟易。

清原果耶の登場場面も、霊媒だから仕方ないとはいえ、室内が真っ赤っ赤で見てて吐き気を催しました。すべてが赤く塗られた部屋に閉じ込められたら人は発狂するといいます。少しはそういうことも考えてセットのデザインを考えてもらいたいもんです。1話でリタイア。


『君の花になる』
これはセットや衣装の配色がとてもよく、前クールの『ユニコーンに乗って』と同じ監督さんかと思ったらぜんぜん違った。でも、かつては「ドラマのTBS」と言われていただけあって、そういう蓄積があるんでしょうね。

しかしながら、内容は面白くない。

いや、設定はいいと思うんですよ。何かやんごとなき理由で教職を辞めた本田翼と、彼女が寮母として雇われることになった寮で生活する崖っぷち男性アイドルグループ。半年後に配信1位を獲得するという具体的な目標設定と、それを通じて負け犬からの脱却、過去の自分との訣別などが目論まれているのでしょうが、これはもはや『ロッキー』と同じ物語構造で、こういうのは大歓迎なんですが、いかんせん、芝居がほとんど学芸会。これを毎週見せられるのは相当きつい。本田翼を見ているとしんどい。内田有紀が出てくるとホッとした。彼女が主演のドラマが見たい。1話でリタイア。


『クロサギ』
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2006年の山Pと堀北真希が共演した作品は見ていません。これはリメイクというよりリブートなんでしょうが、めちゃくちゃ面白いじゃないですか。第1話を見るかぎり今クールのNo1でしょう。

一般市民を騙す詐欺師シロサギしか騙さない詐欺師クロサギ。彼はある企業セミナーで騙された父親に一家心中で殺されかけ、詐欺師だけを狙うようになった過去がある。そして父親を死に追いやった御木本というシロサギを狙っている。この設定はわかりやすいうえに非常に力強い。

そのうえさらに、ド素人の彼をクロサギに仕立てたのは、表向き和菓子屋を営む三浦友和で、実は詐欺業界の元締め。当然、御木本の親分。平野紫耀の父親を死に追いやった詐欺は、表では御木本がやったことになっているが、その裏で絵を描いていたのは三浦友和。つまり、彼こそが平野紫耀の本当の敵。その敵が御木本に通じる情報を小出しにしてくれるのはなぜか。

明確な劇的欲求をもった主人公と、その上部で彼の知らない情報が飛び交う。主人公は悪役の掌の上で転がされている。それが『クロサギ』が設定した「逆境」。これをどう「順境」にしていくかが物語の本筋になるんでしょうが、あまりに面白いので興奮してます。

黒島結菜、中村ゆりなど女優陣が好みの人ばかりで眼福。松本若菜が特別出演みたいに出てたけど、今年大ブレイクした女優をあんな端役で使うだろうか。これから物語に関わってくることを期待します。


『ジャパニーズスタイル』
シットコムといえば、私的には20年前の三谷幸喜『HR』以来なので楽しみにしてたんですが、何だか出演者と現場で見ている観客だけ楽しんでて、カメラを通したこちらには少しも面白味が伝わってきませんでした。

仲野太賀の大ファンなので彼には何をされても喝采しか贈りたくないのだけど、これはもういいです。好みの女優が一人も出てないのもリタイアを決意した大きな理由かも。(⇐結局それかい!)


『エルピス ‐希望、あるいは災い‐』
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これもキテますね~。冤罪という国家権力に戦うドラマ。いいですね。こういうのがNHKじゃなくて民放で実現できたというのは大きいですね。脚本の渡辺あやさんの話によると、かつてTBSにいた佐野さんというプロデューサーの尽力の賜物だそうです。佐野さんはいまTBSを辞めてカンテレに移ったとか。もしこの『エルピス』が成功したらTBSは地団駄を踏むことになりそう。

かつてエース女子アナだったが、たった一度の路チューを写真週刊誌にすっぱ抜かれて左遷された、落ち目の長澤まさみ。
バラエティのディレクターでアイドルを口説いてしまったために、冤罪事件をやる羽目になった眞栄田郷敦。
長澤まさみの路チューの相手だったにもかかわらず、報道部の官邸キャップにまで出世した鈴木亮平。
事件が冤罪だと唯一知っている三浦透子。彼女が眞栄田郷敦を操って長澤まさみを動かすが……という物語。面白い!

とはいえ、心意気や物語の構成はいいとしても、第1話を見るかぎり、キャラクター描写に納得できないものがありました。

ネット上でも嫌悪感を催す人がたくさんいたという、長澤まさみの嘔吐シーン。

私は別に気持ち悪いからやめてほしいなんてことは言いません。ただ、摂食障害・睡眠障害・嘔吐癖というのは全部「病気」じゃないですか。病気は「キャラクター=性格」ではありません。性格とは「行動」を通して描出されるもの。行動とは逆境を順境にしようとする行いのことです。

長澤まさみの逆境は病気ではなく、「男社会の犠牲になった」ということですよね。路チューをすっぱ抜かれて自分は左遷で鈴木亮平は出世。で、いまはバラエティのプロデューサーから毎日のようにセクハラを受けている。が、怒る気力もない。なぜなら自分だけ左遷されて鈴木亮平は出世という現実を突きつけられて、「そういう世の中だから」と完全にダークサイドに堕ちてしまっているから。それが彼女の逆境。病気はそれに付随するものでしかない。

そこにたまたま眞栄田郷敦が冤罪事件をやりませんかと声をかけてくるので、国家権力、つまり男社会への復讐を始めるというのがメインテーマなわけでしょ。ならば、長澤まさみの行動をもっと見せてほしい。嘔吐はただ「苦悩している」という表現にしかなっていません。あんなに嘔吐シーンを見せられたら、「男社会の犠牲になったかわいそうな人」という印象しかありません。

もしや2話から吐くのはなくなるんですかね? それならもう何も言いませんが、2話以降も何かあったらすぐ吐くようではリタイアの可能性も否定できません。いや、リタイアしたくない。こういう気骨あるドラマは最後まで見たい。

だからお願いです。2話から嘔吐シーンはなくしてください。


というわけで、後半戦は『クロサギ』『エルピス』の登場でがぜん盛り上がってきました。

前半戦でリタイアしてないのは『一橋桐子の犯罪日記』のみ。見始めた13本中4本生き残っています。少ないかもしれませんが、質は高い。

すべて次回が楽しみなものばかりです。


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