『ロッキー4/炎の友情』はもう35年くらい前にテレビの洋画劇場で一度見たきりでまったく好きじゃなかったため、『ロッキーVSドラゴ』にも興味がなかったんですが、未公開映像を42分も追加したのに、できあがった映画は3分しか長くなっていないと知って、それじゃ半分は初めて見る映像であり、それはほとんど別の映画じゃないかと劇場に足を運びました。

おおよその内容しか憶えてないので、『ロッキー4』との比較はできません。どれが初公開映像かもわかりません。今日初めて見た映画として感想を書きます。(以下ネタバレあります)


『ロッキーVSドラゴ/ロッキーⅣ』(2021)
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脚本・監督:シルベスター・スタローン
出演:シルベスター・スタローン、タリア・シャイア、バート・ヤング、カール・ウェザース、ドルフ・ラングレン、ブリジット・ニールセン



まるで『裁かるゝジャンヌ』?
とにかく、冒頭からクロースアップの連打に驚愕しました。そりゃもちろん引きの画もありますが、ほとんど人物のアップがかなり多用されていて、ほとんどそれで押しまくる演出には唸りましたね。あの映像演出の素晴らしさはカール・ドライヤーの『裁かるゝジャンヌ』並みと言って決して過言じゃない。

だからこそ、逆に落ち着いてゆったり見せるシーンがとても印象的。エイドリアンがロッキーにドラゴと戦うのはやめてと諭すシーンとか、アポロのトレーナーがロッキーに渇を入れるシーンとかね。芸達者な役者ばかりだけど、ああいう魂のこもった芝居を引き出せるスタローン監督の演技指導の腕はたいしたもの。


英断①『ロッキー』ファンじゃない観客を置いてけぼり
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最初、この映画は『ロッキー3』のラストから始まりますが、実は『3』の中盤のシーンもあります。ロッキーが自分の銅像にヘルメットを投げつける場面や、アポロがトレーナーを買って出る場面など。

でも、あまりにどんどん場面を飛ばしていくので、『ロッキー3』を見てない観客、見たけどそれほど熱心なファンじゃないから忘れてしまった観客にとっては何が何やらわからないでしょう。あの黒人は誰? え、タイトルマッチだったの? アポロはなぜポーリーのほっぺにチューするの? とかね。私は何回も見てるから全部わかる。ウシシ。

ロッキーがドラゴとの試合を決意してソ連に飛ぶ前でしたか、『ロッキー』の『1』から『4』までの印象的なシーンが白黒映像として主題歌とともにフラッシュバックされます。

あそこはそれこそ熱心なファンじゃなければ、どれがどの作品の映像かわからないだろうし、どれほど大きな意味をもつかもわからない。私は全部わかったし、何しろ『ロッキー』シリーズを振り返っているだけなのに、シルベスター・スタローンという稀代の映画スターの1976年から85年までの10年間を振り返っているような気さえしました。


英断②米ソ冷戦を知らない若い世代を置いてけぼり
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この映画の背景になっているのは米ソ冷戦ですが、当時を知らない世代にはなぜあんなにロッキーがソ連に乗り込むのを周りが驚いて止めようとするのかわからないでしょうし、ドラゴが最終ラウンドの直前に共産党幹部から叱責されて「俺は戦う。俺のために!」と叫ぶシーンがどれほど彼にとって危険なことかもわからないのでは?

私が中学生の頃、レーガン大統領とゴルバチョフ書記長の米ソ首脳会談が物別れに終わり、「ひょっとして核戦争が始まるのか⁉」と戦々恐々としたものです。それぐらいあの頃は、アメリカとソ連は本当に核戦争をするのか、その日=ザ・デイは来るのか、来るとしたらいつなのか、というのは幼い子どもも関心をもっていました。

そういう時代を実際に生きた人間が見ないとこの『ロッキーVSドラゴ』の良さはわからないでしょうね。

不親切なのです。『ロッキー』シリーズの熱心なファンじゃない観客に対しても、米ソ冷戦について知識としてしか知らない世代にも。

でも、それでいいと思う。シリーズの熱心なファン以外見に来ないだろうという計算もあっただろうし、いまの映画は親切に何でも説明しすぎるという思いもあったと思われます。わかろうがわかるまいがノリで押しまくれ! 私はこの映画のそういう潔さが好きだし、『ロッキー』シリーズを馬鹿にする人なんかまったく眼中にないこの映画が大好きです。


最後の演説
アメリカからやってきたボクサーということで、ロッキーを見つめる観客は最初、殺気立ちながらドラゴを応援しますが、盛り返すロッキーの姿に、ソ連の観客がアメリカのボクサーを応援するようになる。

『ロッキー4』を見たときは、この「アメリカがソ連をやっつける」みたいなのがいやで、しかも試合後のインタビューでロッキーが「私も変わったしみなさんも変わった。人間は誰しも変われるのです!」と演説して喝采を浴びるのがいやでいやで、それで今日まで一度も再見してないのですが、この『ロッキーVSドラゴ』でもそのシーンは残っているけれど、何か私の記憶と違う。あの演説はもっと長かったし、もっと引きの画だったはず。あの寄った画は未公開映像なのかしら。

35年も前の話だから実際どうなのか定かじゃないですが、「私も変わったしみなさんも変わった。誰だって……」というあっさりしたコメントに変わっていて、とても好感をもちました。

アメリカが悪の敵国ソ連をやっつけるという構図は変わってないし、ドラゴやその妻のキャラがよくわからないというのも昔のまんまだけど、とにかく、94分の上映時間があっという間。ロッキー・バルボアを愛する人のためだけに作られた映画なのでノリノリで見ちゃいました。(これを見てご飯5杯いけない奴は男じゃない!)

いまのアメリカ映画はこういうノリを忘れていると思う。アカデミー賞ではなくラジー賞にノミネートされるような映画を量産してほしいと切に望みます。


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