石井裕也監督といえば、『舟を編む』は好きだけど、他は「あれ?」な感じの作品が多く、昨年公開されたときも視野になかった。

今回、WOWOWで見たんですが、不明を恥じました。これはすごい。すごすぎる。


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『茜色に焼かれる』(2021、日本)
脚本・監督:石井裕也
出演:尾野真千子、和田庵、片山友希、永瀬正敏、オダギリジョー


映画史上演技ベストテン!
ここで唐突に独断と偏見で選ぶ「映画演技オールタイムベストテン」です。

①『フレンチ・コネクション』のジーン・ハックマン
②『ゴッドファーザーPARTⅡ』のロバート・デ・ニーロ
③『博奕打ち 総長賭博』の鶴田浩二
④『野獣死すべし』の松田優作
⑤『ハスラー』のポール・ニューマン
⑥『エイリアン2』のシガーニー・ウィーバー
⑦『レイジング・ケイン』のジョン・リスゴー
⑧『アウトレイジ 最終章』の西田敏行
⑨『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』のレオナルド・ディカプリオ
⑩『茜色に焼かれる』の尾野真千子


そうです。『茜色に焼かれる』の尾野真千子は堂々のベストテン入りなのです。

自由人の夫を交通事故で亡くし、花屋の店員と風俗嬢を掛け持ちして一人息子を育てるシングルマザーの田中良子。一言の謝罪もなく保身に必死だった加害者とその家族から申し出のあった賠償金を突っぱね、息子は生活保護バッシングでいじめられ、良子はシングルマザーは簡単にやれる女と思っている男たちに翻弄されながらも、たくましく生きていく。

働く姿に「時給930円」や「時給3500円」と重ねて出されるテロップに生活感がにじむ。テロップに胸が震えるなんて初めての体験ではないか。生活とは金の計算をすることなのだというリアリズムと、でも金がすべてじゃないんだよというロマンティシズム。相反する二つの精神が同居しているのがこの映画の魅力。

花屋の店長が何度も口にする「ルール」というのがおそらくこの映画のキーワードなのだろうし、そこからこの物語を深掘りすることもできようが、今日はそんなことしない。

そのような小賢しいことをする気になれないのだ。本気で感動したから。これは昨年の『MONOS 猿と呼ばれし者たち』以来のこと。これほど感動させたのはまぎれもなく尾野真千子である。


憑依!
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普通、芝居というのは、役者が己の心身の中に演じる役を入れてするものだ。そして、いい芝居とは、その役者本人とキャラクターがぴったり重なりあっている、つまり容れ物である役者と本体のキャラクターの輪郭が重なり合っているものだけど、この映画の尾野真千子は、ぴったり重なりあうだけでなく、尾野真千子の輪郭がときどきあやふやになり、彼女の殻を破って中から田中良子が出てくるんじゃないか、そんなことを思わせる「やばい感触」がある。

そう、人物の輪郭がしっかりしているのではなく、輪郭があやふやなのだ。尾野真千子が田中良子を演じているのではなく、田中良子が尾野真千子を演じているんじゃないかと思わせるというか、どっちが容れ物でどっちが本体か判然としない、そんな感じ。上に挙げた10人の俳優はみなそういう芝居をしていたと思う。


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とにかくやられましたよ。もうこれ以上は何も言えない。見てなければ見てくださいとしか。


茜色に焼かれる
永瀬正敏
2022-01-07


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