國分功一郎さんと千葉雅也さんの対談本『言語が消滅する前に』を読んだんですが、印象的なフレーズがありました。
「いまは言質を取る社会だよね」
まさしく!

何度かコールセンターで働いた経験がありますが、とにかく言質を取りまくるんですよね。コールセンターに限らず、客商売のところはどこもそうなんでしょうが、
「○○は××でよろしいでしょうか」
「△△はお客様のお立合いなしでも見ることは可能でしょうか」
「●月▽日をもっての名義変更を承ってもよろしいでしょうか」
などなど。
すべて相手がイエスと答えることを前提としています。言質を取るためです。やりとりはすべて録音されているので、あとからクレームが発生しても「あのときあなたはイエスと言った」と言えるからです。
つまりは責任は私たちの会社ではなく、あなた自身にありますよ、というためです。そのために言質を取る。
逆に、同じ会社の頃、親会社から珍妙な電話がありました。
「お客様番号〇〇〇‐△△△△の××様が直接来社し、□□□という質問をしていきました。もし回答がイエスなら電話も何もしなくていいが、もしノーなら電話してほしいとのことです」
回答はノーでした。それはマニュアルにも書いてある基本的なことです。自分で電話せえや、と思いましたが、何でも面倒なことは子会社に振ってくるから私に電話しろということだと思い、
「ノーだから電話しますよ」といってそのお客さんの携帯にかけたところ、出ない。時間をおいてかけても出ない。そこで親会社に電話をし、指示を仰ぎました。
「今日び、あんまりしつこく電話するとね、いろいろややこしいことがあるかもしれませんしね」
「じゃもう電話しなくていいんですか?」
「いえいえ、回答がノーなら電話してほしいとおっしゃってたので」
「じゃ出るまで掛けますね」
「いやいや、だからあんまりしつこく電話すると……」
いったいどうしろというのか。あんな堂々巡りなやりとりをする理由はひとつしかありません。
責任を取りたくないからです。
はっきり「向こうが出るまで掛け続けてほしい」と言ったら、何かあったら自分が責任を取らないといけない。責任を取りたくないからはっきりした指示をしない。はっきりした指示を「言質」として取られることを嫌ってるんですね。
いささか手前味噌になりますが、昔話をひとつ。

ホテルの客室清掃の現場で管理者(副責任者)をしていたことがありました。ホテルなので1年365日休みなしですから、責任者のLという人間はだいたい月曜日に休日を取り、その日は私が責任者でした。
責任者は、朝、メイドさんが出勤してくるまでに、10階は誰と誰、11階は誰と誰、などのように人員配置を決め、さらに、一人一人のノルマを10部屋、8部屋などと設定し、終了は15時とか13時半などと決めないといけないん。
私はその日のノルマは一人当たり10部屋と決めました。10部屋だとマニュアル通りなら終了は15時です。私はタイムカードの棚に「終了15時」と大書したカードを置いてみんなの出勤を待ちました。
実際には、ツインをトリプルにしたり、逆にトリプルをツインに解除したり、などのややこしい部屋が少なく、メイドさんたちもてきぱきやってくれたので、すべての部屋の清掃が終わったのは14時半くらいでしたが、私は当初の予定通り15時で全員の分のタイムカードを押しておくから帰っていいと言いました。メイドさんたちから「責任者のLさんがいないからって、それは会社に申し訳ない」という声が上がりました。
でも、その前の週、15時15分に終わったのに15時終了にさせられたり、14時40分なのに14時半終了になったり、だいぶメイドさんが損をする日が続いていたので、「すべての責任は僕が取るから大丈夫です。15時でタイムカードを押しておきます」と宣言しました。
すると「あんなふうに言ってくれたら安心やね」などと喜ぶ声が更衣室から湧き起こりました。(ドアの上のほうが10センチほど空いているので声が漏れてくるのです)
もしLさんがダメと言ったら、一人当たり30分分の時給を私の給料から引いてもらい、他のみんなに支給してもらうつもりでした。責任を取るとはそういうことだし、バイトとはいえ責任者を名乗っている以上、それは当たり前のことだと思っていました。
しかし、どうやらいまの日本では「本当に責任を取る」覚悟のある人間は珍しいらしい。それはその後の職場で何度も感じたし、先述のコールセンターでも感じたことです。責任者を名乗りながら責任逃れをする人間の何と多いことか。
手前味噌というか完全な自慢話になってしまいましたが、私のようにはっきり責任は自分が取る、と態度で示せば、「あなたはあのときこう言った」なんて言質を取って文句を言ってくる人間はいなくなりますよ。誠意を示せば人は応えてくれる。
日頃から仕事の中で言質を取ることを普通に行っているから、言質を取られることを嫌うようになってしまうし、責任は自分が取ると言ったら言質を取られるのではないかと脅えることになるのです。
そうやって社会全体が言質を取られないような言動ばかりしていたら……いまの日本がそうですが、いつか沈没するでしょう。そうなってからでは遅いんですがね。


「いまは言質を取る社会だよね」
まさしく!

何度かコールセンターで働いた経験がありますが、とにかく言質を取りまくるんですよね。コールセンターに限らず、客商売のところはどこもそうなんでしょうが、
「○○は××でよろしいでしょうか」
「△△はお客様のお立合いなしでも見ることは可能でしょうか」
「●月▽日をもっての名義変更を承ってもよろしいでしょうか」
などなど。
すべて相手がイエスと答えることを前提としています。言質を取るためです。やりとりはすべて録音されているので、あとからクレームが発生しても「あのときあなたはイエスと言った」と言えるからです。
つまりは責任は私たちの会社ではなく、あなた自身にありますよ、というためです。そのために言質を取る。
逆に、同じ会社の頃、親会社から珍妙な電話がありました。
「お客様番号〇〇〇‐△△△△の××様が直接来社し、□□□という質問をしていきました。もし回答がイエスなら電話も何もしなくていいが、もしノーなら電話してほしいとのことです」
回答はノーでした。それはマニュアルにも書いてある基本的なことです。自分で電話せえや、と思いましたが、何でも面倒なことは子会社に振ってくるから私に電話しろということだと思い、
「ノーだから電話しますよ」といってそのお客さんの携帯にかけたところ、出ない。時間をおいてかけても出ない。そこで親会社に電話をし、指示を仰ぎました。
「今日び、あんまりしつこく電話するとね、いろいろややこしいことがあるかもしれませんしね」
「じゃもう電話しなくていいんですか?」
「いえいえ、回答がノーなら電話してほしいとおっしゃってたので」
「じゃ出るまで掛けますね」
「いやいや、だからあんまりしつこく電話すると……」
いったいどうしろというのか。あんな堂々巡りなやりとりをする理由はひとつしかありません。
責任を取りたくないからです。
はっきり「向こうが出るまで掛け続けてほしい」と言ったら、何かあったら自分が責任を取らないといけない。責任を取りたくないからはっきりした指示をしない。はっきりした指示を「言質」として取られることを嫌ってるんですね。
いささか手前味噌になりますが、昔話をひとつ。

ホテルの客室清掃の現場で管理者(副責任者)をしていたことがありました。ホテルなので1年365日休みなしですから、責任者のLという人間はだいたい月曜日に休日を取り、その日は私が責任者でした。
責任者は、朝、メイドさんが出勤してくるまでに、10階は誰と誰、11階は誰と誰、などのように人員配置を決め、さらに、一人一人のノルマを10部屋、8部屋などと設定し、終了は15時とか13時半などと決めないといけないん。
私はその日のノルマは一人当たり10部屋と決めました。10部屋だとマニュアル通りなら終了は15時です。私はタイムカードの棚に「終了15時」と大書したカードを置いてみんなの出勤を待ちました。
実際には、ツインをトリプルにしたり、逆にトリプルをツインに解除したり、などのややこしい部屋が少なく、メイドさんたちもてきぱきやってくれたので、すべての部屋の清掃が終わったのは14時半くらいでしたが、私は当初の予定通り15時で全員の分のタイムカードを押しておくから帰っていいと言いました。メイドさんたちから「責任者のLさんがいないからって、それは会社に申し訳ない」という声が上がりました。
でも、その前の週、15時15分に終わったのに15時終了にさせられたり、14時40分なのに14時半終了になったり、だいぶメイドさんが損をする日が続いていたので、「すべての責任は僕が取るから大丈夫です。15時でタイムカードを押しておきます」と宣言しました。
すると「あんなふうに言ってくれたら安心やね」などと喜ぶ声が更衣室から湧き起こりました。(ドアの上のほうが10センチほど空いているので声が漏れてくるのです)
もしLさんがダメと言ったら、一人当たり30分分の時給を私の給料から引いてもらい、他のみんなに支給してもらうつもりでした。責任を取るとはそういうことだし、バイトとはいえ責任者を名乗っている以上、それは当たり前のことだと思っていました。
しかし、どうやらいまの日本では「本当に責任を取る」覚悟のある人間は珍しいらしい。それはその後の職場で何度も感じたし、先述のコールセンターでも感じたことです。責任者を名乗りながら責任逃れをする人間の何と多いことか。
手前味噌というか完全な自慢話になってしまいましたが、私のようにはっきり責任は自分が取る、と態度で示せば、「あなたはあのときこう言った」なんて言質を取って文句を言ってくる人間はいなくなりますよ。誠意を示せば人は応えてくれる。
日頃から仕事の中で言質を取ることを普通に行っているから、言質を取られることを嫌うようになってしまうし、責任は自分が取ると言ったら言質を取られるのではないかと脅えることになるのです。
そうやって社会全体が言質を取られないような言動ばかりしていたら……いまの日本がそうですが、いつか沈没するでしょう。そうなってからでは遅いんですがね。


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