尾崎衣良さんの『深夜のダメ恋図鑑』最新9巻が発売されました。

これまで様々なダメンズに怒りの鉄槌を下してきた『ダメ恋』ですが、新しいタイプのダメンズ、ちょいと古臭いダメンズなど、ダメ男たちがまたぞろたくさん登場します。

ここで登場人物を整理しましょう。まず男たちから気に入っている順に紹介します。今回の9巻の内容もだいぶ入っています。(当然ネタバレありです)


市来信博(いちき・のぶひろ)
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「女は出しゃばるな」的な昔気質の思考と「女も自立して当たり前」的な現代の思考のいいとこ取りをした男。「女」の立場に甘えた女は嫌いだが、自分の自尊心を見たしてくれる程度には「女」でいてほしい。無意識なダメンズだったが、己のダメぶりに向き合おうとする。古賀円のことが好きだが少しも通じない。


五十市丈(いそいち・たけし)
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佐和子が惚れてしまう「たらし男」。たらしといっても、女たらしではなく「人たらし」。超天然で他人の幸福を喜び、悲しみを一緒に悲しむごく普通の度量をもつ。料理もうまいし、洗い物や掃除も厭わずやる。頭がいいのか悪いのかわからない謎めいた一面も併せもつ。


国分諒(こくぶ・りょう)
千鳥佐和子の元カレ。女は料理も洗濯も掃除も自分の世話も全部してくれなきゃ女じゃない! と昔気質なジェンダーバイアスから一向に抜けきれない正真正銘のダメンズ。でも、どこか憎めないところがあり、佐和子とは腐れ縁。


八代智司(やつしろ・さとし)
福間千代の結婚相手。千代を最も苛立たせるのが「身の回りのいたるところに陰毛が落ちている」ということで、ダメンズの要素はもっているがさしてダメンズではない。このマンガは八代君の陰毛によって品格を下げていると私は思う。


では女性陣。

古賀円(こが・まどか)
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市来に告白されるもまったくその気持ちに気づかない鈍感ぶりを発揮するが、一方で彼の都合のよさを厳しく指弾するこのマンガ最大の良心。しかしながら、市来と久しぶりに会うときかなりおめかししているので少しは気があるよう。なのに、彼に「結構かわいいじゃねえか」と言われても「何か魂胆あんのか!」と怒ってしまう。ダメンズに対する怒りは正当だが、それが枷になってしまい、ごく普通の男の気持ちに気づかないという無意識の罠にはまってしまっている。


千鳥佐和子(ちどり・さわこ)
正真正銘のダメンズ・諒くんとの腐れ縁はいまも終わらず。キレ方は円と同じく威勢がよく、すっきり爽快女子。いままではダメンズばかりとの出逢いだったけれど、愛すべき五十市との出逢いによって「自分にもついに普通の恋が……?」とときめくが……(以下、後述)


八代千代(やつしろ・ちよ)(福間千代から結婚により改姓)
陰毛男・八代君と結婚した特にこれといった特徴のない女。彼女と八代君のパートはやっぱりつまらない。つまらないから陰毛なんてものを出してきたんだろうけど、さらにつまらなくなってしまっている。

他に、あゆみという諒くんの今カノも出てきますが、割愛しましょう。

今回の第9巻で最も面白く、最も作者の恐ろしさを感じたのは、佐和子さんの失恋ですね。


恋におちる佐和子さん
前巻で五十市くんの人当たりの良さにクラッとしてしまった佐和子さんは、再び会いに来た五十市が手土産を買ったばっかりに所持金が154円になってしまったというダメぶり(ダメンズのダメとはまったく違う)をかわいいと思い、資格を取るための勉強をするという佐和子に「そんな佐和子さん、めっちゃ好きっす」という五十市に対し「この人たらしめ」とつぶやきながらも惹かれていく。うまい棒10本は税込108円。それを100円玉1枚で買うテクニック(わかりますよね?)には辟易するものの……


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学生の五十市が「就職のことをまったく考えてない」などとまたぞろ天然なことを言っても「でも何となく、五十市くんならその人間性で世の中うまく渡っていけそう」とつぶやく。さらに「物事に対して大らかというか、誰にも気を遣わせないし、五十市くんってあたしなんかよりよっぽど人間的に大きい気がする」というんですね。「あたしなんかすぐ怒っちゃうし、許せないことも多くて、人としてまだまだだよ」とも。

あの佐和子さんにここまで言わせる男、五十市がどう出るのかと思ったら、上の画像ですよ。「えへへへ、何か佐和子さんかわいかったからチューしちゃいました。今日、佐和子さんち行きたいなー」とあっけらかんという。佐和子は「これはバラ色生活の始まりか」とときめくものの、資格の勉強と五十市とのバラ色生活の両立は不可能だと判断し「三か月だけ待って」という。五十市は少しも不満顔をしたりしないばかりか「わかりました! 三か月っすね!」と快諾する。

佐和子にとってそんな男は人生初。仕事に勉強に頑張る三か月を過ごした佐和子は手応えのある資格試験が終わったあと五十市に会うと……


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三か月の間に彼女ができてしまっていた。考えてみればそうですよね。五十市ほどの男ならもてるだろうから少しも不思議ではない。そして、私はこの展開に作者の尾崎衣良さんの鋭い批評性を見る気がするのです。


諒くんと同根の佐和子さん
ダメンズの代表格、元カレの諒くんに対し見事なブチキレっぷりを見せてくれた佐和子さんでしたが、彼女もまた諒くんと同じ穴のムジナなのでした。

いや、ジェンダーバイアスの権化・国分諒と同じという意味ではなく、「自分しか見えていない」ところが同根だな、と。

諒くんは、男の自分が中心で、女は自分の周りを回っていろんな世話をしてくれたらいいと考えている。

佐和子さんはそんな諒くんに愛想を尽かして別れたんですが、ジェンダー的には正しい彼女も、自分しか見えていないという意味では彼と同じでした。五十市には五十市の生活があるということをすっかり忘れていた。自分を中心において、五十市はその周りを都合よく回る存在だと思っていた。

爆笑しながらも、作者の人間を見る目の確かさ、深さに恐怖を覚えるほどしびれました。

ダメンズに女子が鉄槌を下す面白さが売りで人気が出たはずの『ダメ恋』ですが、さすがにダメ男のネタも切れてきた感があり(セクハラ上司も出てこなくなったし、今回登場した映画通を気取る男とかちょいと古臭い。「操る男」は面白かったけど)男を批判するだけではなく、批判してるほうの女はどうなの? と一周回ってきた感じですね。

さて、これからどのような転回を見せてくれるのか。今回はあまり見せ場がなく、懊悩するばかりだった市来と円の恋模様はどうなるのか。10巻が出るのはおそらく今年の12月。嗚呼、待ち遠しい。


蛇足
ひとつだけ不満を言わせてもらえば、映画通を気取る男に円が何の仕事をしてるのかと訊いても仕事の内容を少しも言わない。それってどうなの? と怒る円の気持ちがよくわかるだけに、佐和子さんが勉強している資格って何の資格か少しも説明がないのはどうなの? と思いました。


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