今年の書籍ベストテンの発表です。映画と違って書籍は昔のものも含みます。


①風の谷のナウシカ全7巻(宮崎駿)




映画とは違うとは聞いてたけれど、ここまで違うとは思わなかった。宗教学、生物学を超えて、宇宙を物語の形式で論じる志の高いマンガ。いままで未読だったことを激しく後悔。


②U 相模原に現れた世界の憂鬱な断面(森達也)





相模原障碍者19人殺しの犯人、植松聖の言動のおかしさを挙げ、彼は病人であり責任能力がないのではないかと主張する内容。
あんな奴は即死刑だろうと思っていた私は最初すごく嫌な気がしたけど、読んでいるうちに、法治国家なのだから法律に則らずに感情論に訴えるいまどきのやり方に違和感を覚えた。
感情と理性。どちらも大事だが、どちらかに偏ってはいけない。そのバランスの上で勇気ある発言をする著者に尊敬の念を禁じえない。


③今日の人生2 世界がどんなに変わっても(益田ミリ)





ごめんなさい! すごくよかったのは憶えてるんですが、正月に一度読んだきりなのでほとんど忘れてしまった。コロナ後の不安な気持ちを描いていた憶えがあるんですが……。
やはり益田ミリさんのマンガは2回目が面白いですよね。じゃあ何で1回しか読んでないんだと怒られそうですが。再読します!


④人新世の「資本論」(斎藤幸平)
人新世の「資本論」 (集英社新書)
斎藤幸平
集英社
2020-10-16





告白しますが、私はこの斎藤幸平という著者の顔を初めて見たとき「似非学者だ」と思ったんですよね。だけど、年初の『100分de名著』の『資本論』編を見て印象がガラリと変わりました。長兄の薦めもあり読んでみたという次第。
総裁選に出る直前に石破が斎藤さんと一緒にBSの番組に出ていて「3回読んだけどまだ咀嚼できていない」と言っていたのが印象的。彼が総裁になっていたら少しはこの国も好転していたと思うんですがね。ま、彼も日本会議のメンバーなのでまるごと信用してたわけじゃないけど、いまの自民党で失脚に追い込まれるということは、まだましな人だったということでしょう。


⑤自転しながら公転する(山本文緒)
自転しながら公転する
山本文緒
新潮社
2020-09-28





あまり小説を読まない私が選ぶ2021年のベスト小説がこれ。山本文緒さんといえば『きっと君は泣く』がいまだに印象深いんですが、この作品も愚かな主人公のウロウロを描いていて好もしい。
やはり物語は主人公のウロウロを描かなくてはね。長谷川和彦監督に「もっとウロウロを描け」と言われたのがもう20年も前ですか。はたして去年から今年にかけて1年がかりで仕上げた新作小説ははたして魅力的なウロウロが描かれていたでしょうか。描いたつもりだけど。


⑥土偶を読む 130年間解かれなかった縄文神話の謎(竹倉史人)





毎日新聞の書評で養老孟子先生が絶賛していたので読んで感銘を受けたんですが、トンデモ本扱いを受けているようです。うーん、土偶が女性ではなく植物をかたどっているのは明らかなように思うんですがね。やはり従来の学説を否定するとこういう反応が出てくるということなのでしょう。


⑦消えたママ友(野原広子)
消えたママ友 (コミックエッセイ)
野原 広子
KADOKAWA
2020-06-25





中瀬ゆかり親方のエンタメ番付で紹介されていた本で特によかったのはこれだけかな。野原広子というマンガ家を知れたのが今年の収穫。しかしエンタメ番付といえば……(↓下を参照↓)


⑧『世界史の構造』を読む(柄谷行人)
「世界史の構造」を読む
行人, 柄谷
インスクリプト
2011-10-20





失業期間に自分に課したのは、『トランスクリティーク』から『世界史の構造』『帝国の構造』を経て最新刊『ニュー・アソシエーショニスト宣言』に至る柄谷行人さんの本を通読することでした。
結局、秋に鬱になったりしたりしたもんで、『帝国の構造』の再読から再開しなければならないんですけど、10年前に読んだ『世界史の構造』は何度読んでもすごい本だと思ったし、あれについての対談・鼎談・座談が盛り込まれたこの本の存在を知らなかったのは痛恨のきわみ。でも面白かった。資本主義に代わる経済体制、交換様式Dを実現せねばなりません。


⑨哲学の起源(柄谷行人)
哲学の起源 (岩波現代文庫)
柄谷 行人
岩波書店
2020-01-18





『世界史の構造』を書いたときに柄谷さんが「言い足りないことがある」と改めて書き下ろした本。なるほど、交換様式Dの萌芽はすでに古代ギリシアにあったと。
こんな本があるにもかかわらず政府は「人文系の学部を廃止せよ」とかアホ丸出しなことを言ってるんですか。単に人文系のこれまでの業績を知らないだけか、目先のカネに囚われているだけでしょう。


⑩いまだ、おしまいの地(こだま)
いまだ、おしまいの地
こだま
太田出版
2020-09-04


どういう経緯か忘れたけどツイッターでFF関係のこだまさんの『ここは、おしまいの地』に続く最新エッセイ。
ごめんなさい! これも面白かったのは憶えてるんですが、内容まったく憶えてません。再読しなきゃ。そういえば、何だったっけ。こだまさんがツイッターで紹介してた本を読んだんですが、あれはつまらなかった。しかしタイトルが思い出せない。ま、ええやん。


去年、7巻まで読んでベストテンにも上げた尾崎衣良さんの『深夜のダメ恋図鑑』の最新8巻もよかった。ダメンズを描いてきたはずの『ダメ恋』が市来という男のかっこよさにシフトしつつある。9巻はいつ出るんだ。


他に印象に残ったのは、

『はみだしの人類学 ともに生きる方法』(松村圭一郎)
『他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ』(ブレイディみかこ)
『離婚してもいいですか? 翔子の場合』(野原広子)
『さよならテレビ ドキュメンタリーを撮るということ』(阿武野勝彦)

あたりでしょうか。

さて、毎年恒例のワーストです。読み終えた瞬間にこれっきゃない! と決定しました。

『小説8050』(林真理子)

これ、中瀬親方がエンタメ番付で横綱に推していたから読んだんですけど、いくら新潮社の本とはいえこんなゴミみたいな本をあの中瀬親方が? と思ったら、巻末の著者の言葉を読んで納得。中瀬親方がいろいろ助言をしていたらしいです。うーん、誰も「これは8050を描いていない」と言わなかったのが解せない。

他に、『文学部の逆襲 人文知が紡ぎ出す人類の「大きな物語」』(波頭亮)という本もひどかったですね。

というわけで、今年は充分時間があったわりには130冊ほどしか読んでおらず、来年はもうちょっと読書に時間を割こうと思った年の瀬極寒の夕暮れでした。


2020書籍ベストテン!

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