ブロードウェイの大ヒットミュージカルを映画化! という謳い文句だけで心が弾んでしまうミュージカル好きなうえに、監督が『ワンダー 君は太陽』のスティーブン・チョボスキーということで期待が高まるばかりだった『ディア・エヴァン・ハンセン』。しかし、非常に残念な映画でした。そして『ラ・ラ・ランド』の偉大さを痛感させられました。(以下ネタバレあります)


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『ディア・エヴァン・ハンセン』(2021年、アメリカ)
脚本:スティーブン・レベンソン
監督:スティーブン・チョボスキー
出演:ベン・プラット、ケイトリン・デバー、ジュリアン・ムーア、エイミー・アダムス


物語は面白い
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精神を病んでいる主人公エヴァン・ハンセンは、セラピストからの勧めで「ディア・エヴァン・ハンセン」とのフレーズから始まる自分あての手紙を書く。自己肯定感を高めるためなんですかね。でも、それをエヴァンと同じ孤独ないじめられっ子のコナーに見られ、コナーはその手紙を奪い取ってしまう。

翌日、エヴァンが教師に呼ばれるとコナーとゾーイの両親がおり、「コナーは自殺した」と。遺書として「ディア・エヴァン・ハンセン」と題した君あての手紙があると渡される。コナーの両親は悲しみに暮れながらも、あのいじめられっ子のコナーに友だちがいたことをとても喜ぶ。エヴァンは本当のことを言い出せず、両親の望むままにコナーの親友を演じることになる。

というのが、最初のプロットポイントまでです。面白そうでしょ?

実際、面白いんですよ。私は一抹の不安をもっていました。コナーの自死が映画を盛り上げるための小道具として扱われてたらかなり不満に思うだろうな、と。

でも、それは杞憂でした。コナーの両親やゾーイの兄への想いが充分描かれているので、自殺やいじめを消費する罪深い映画ではなかった。

それに加えて、主人公の嘘が終盤に露見して、彼は代償を払わされるというお決まりのクライシスもちゃんと用意されています。やはり、フィクションにおける嘘、特に主人公が嘘をつくことで得をした場合、その嘘は必ずばれなければいけない。

世界中で大絶賛されている『アナザーラウンド』なんて映画では、教師たちが勤務前に酒を飲むことでパフォーマンスが上がり面白い授業ができるようになる様が描かれるのですが、そのアイデア自体は面白いのに、勤務中に酒を飲んでいることが最後まで仲間以外の誰にもばれないというありえない映画でした。

『ディア・エヴァン・ハンセン』はその轍を踏まず、セオリー通りですが、やるべきことをきっちりやっている。あくまでも脚本上は。

かつて蓮實重彦は「映画とは脚本と上映時間の問題である」と言いました。『ディア・エヴァン・ハンセン』はこの内容で138分というのは長すぎるとは思うものの、まだ許容範囲だし、脚本には特に問題があると思えない。

しかし蓮實はこうも言っていました。

「映画とは光に対する感性の問題である」と。


監督はどこを見ていたの?
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この画像は映画ではなくブロードウェイで上演されたときのものらしいです。衣裳はよくわかりませんが、セットや照明のデザインがカラフルでいいですよね。意匠を凝らしている。

それにひきかえ、映画化作品は視覚的な悦びが少しもありません。


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エヴァンとコナーの妹ゾーイの2ショットですが、色づかいに何の工夫も感じられません。ゾーイの服を緑にするならもっと鮮やかな緑色にして、エヴァンの服は真っ赤にするとか、あざといくらいの補色効果をなぜ狙わないのか。

セットなら人工の照明をいくらでも使えるのにやらないし、ロケをするにしても『ラ・ラ・ランド』みたいにマジックアワーに一発勝負を試みるというような情熱が少しも感じられない。

他にも、ゾーイが自室のクッションに座ってエヴァンと電話で話すシーンでも、クッションとゾーイの服がほとんど同じ色で画的な愉しさが何もない。衣裳デザイナーも美術監督もちゃんと仕事をしていない。なら監督が怒ってNGを出さないといけないのに、いったい『ワンダー 君は太陽』や『ウォールフラワー』の監督はいったいどこを見ていたのでしょうか。光や色に対する感性が皆無なのです。内容にしか興味がないんでしょうか。



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そもそも主人公エヴァンになぜこんなしょぼくれた役者を配したんでしょうか。舞台もこの人が主役だったのかどうかは知りませんが、舞台ならこんな顔でもいいけど、映画にはクロースアップというものがあって、アップに耐えられる顔でなければ主役をやらせてはダメです。演技がうまいとか下手とかそんなのどうでもいい。映画においては見た目がすべて。


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自殺するコナー役の役者のほうがよっぽどいい顔をしています。コナーとエヴァンを逆の役者が演じたほうがよかったのでは?

もうこの時点でこの映画は失敗することを運命づけられていたように思います。

やはり『ラ・ラ・ランド』は偉大ですよ。アンチの多い映画ですけど。


ラ・ラ・ランド(字幕版)
ジョン・レジェンド
2017-05-26


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