前後編で広瀬すずに迫った『情熱大陸』、非常に興味深く見ました。
女優になりたかったわけではなかった
まず驚いたのは、女優になりたくてなったわけではないということ。
姉のアリスがすでにデビューしており、事務所の関係者から出てもらえませんかと請われ、生まれつき断ることが苦手な性格のためデビューすることになったと。へぇ。
だから女優をやめたいと思ったことは何度もあるらしく、「理想の女優像」を問われても、「特にない。いつ辞めてもいいやって思うことが大事ではないか」みたいなことを言う。
だからといって惰性で続けているわけではない。かつてバスケ一筋で運動神経抜群なのはつとに知られているけど、いまはキックボクシングを習っているとか。へぇ。しかし、あの『海街diary』のサッカーはうまかった。2か月の猛特訓があったとはいえ、はっきり言って中学で3年間やってた私よりうまかった。
なぜやりたいわけでも目標があるわけでもない仕事を続けているのか。
それは負けず嫌いだから。同年代の役者とたくさん共演したときに、その性格が出て、もっと頑張りたいと思ったそうな。(『ちはやふる』ですかね?)
ナチュラル・ボーン・スター
広瀬すずとくれば、アリスと比較しないわけにはいかない。もともと私はすずさんにはあまり興味がなかった。かわいいけど色気がなくて。アリスはとても性的魅力にあふれているのでアリスファンだった。
ところが、いまは断然すずファン。何が変わったかといえば……よくわからない。
『海街diary』の頃と比べれば「かわいい」というより「美しい」といえる顔になった。その顔と、推定Eカップといわれる性徴がありながら、23歳になったいまも少なくとも私には性的魅力が感じられない。まだ子どもって感じがする。女としてはまだまだアリスのほうが上だな、と。
では役者としてはどうか。これはもうアリスでは相手にならない。アリスファンには申し訳ないけど。
今年、『地獄の花園』という映画があり、広瀬アリスは持ち前のガタイを活かして好演していたけど、役どころは「主役になれない脇役」。たいして永野芽郁は「主役はいやだけど主役になってしまう主役」。
これはもう永野芽郁と広瀬アリスそのものの役でしたね。永野芽郁は天性の主演スターであり、広瀬アリスはその資質もあるけど、哀しいかな、脇役を演じても様になってしまう。
すずは仲良しの永野芽郁と同じく天性のスターです。『いのちの停車場』は未見なので何とも言えないが、少なくとも番組で映っていたシーンでは、完全に主役の吉永小百合よりはるかに大きなオーラを放っていた。彼女に脇役は似合わない。
広瀬すず、23歳。
ジョン・ウェイン、キャサリン・ヘップバーン、三船敏郎、クリント・イーストウッド、トム・クルーズの系譜に連なる「天性の主演スター」。ナチュラル・ボーン・スター。
これはもう演技力でどうこうなる問題ではない。「才能」である。アリスの事務所の人も、すずの才能に惹かれて女優への道へ誘ったのでしょう。
「耳がいい」とはどういうことか
すずは今年の夏、本屋大賞を受賞した『流浪の月』の撮影で忙しかったそうな。『流浪の月』は原作がアレだし、脚本と監督が李相日だし、いくらすずと横浜流星というお気に入りの役者が出ていても見に行かないと思う。
それはさておき、こってり李相日にしぼられてたけど、『海街diary』の是枝裕和監督には天性の才能を祝福されていたようです。リハーサル時、口立てで是枝さんがセリフを耳元でささやく。すずはそれをそのまま言うだけ。リハーサルが終わると「耳がいいね」といわれ「お芝居に耳がいいとかあるんだ」と新しい発見をする。
おそらく「耳がいい」とは、是枝さんが口立てで喋るセリフにこめた「感情」を読み取る能力に長けている、ということなんだと思う。
(『海街diary』のときに訪れたラーメン屋の近くでたまたまロケ。7年ぶりに舌鼓を打つ)
すずは考えます。芝居における「耳」とは何か。「気配を感じて振り向く」とト書きが書いてある場合、目から行くのか耳から行くのか、などと考える。是枝さんには訊かなかったわけですね。訊いても教えてくれなかっただけかもしれないけど、彼女はその意味を必死で考えた。
これは単に同年代の役者に負けたくないという理由だけでできることじゃない。
ラーメン
広瀬すずは、4か月かかった『流浪の月』の撮影が終わると、その足でラーメンを食べに行きます。どうやらラーメンに目がないらしい。実際、一口食べただけで涙をこぼしていました。
「ラーメンだけはダメって言われてたんで」という。スタッフと一緒に食べるのはさすがに無理としても、帰宅したときはこっそり食べようとすればできるのに、しなかったということですね。女優をやりたくてやってるわけじゃない、いつ辞めたっていいというわりにはめちゃくちゃストイック。
一番の大好物を4か月も我慢して仕事に打ち込む。好きじゃない仕事にそこまで打ち込めるのは、彼女が最後に言う「悩む人でありたい」からなのでしょう。
注目すべきは「悩む女優でありたい」とは言わず「悩む人」と言うところ。やはり、あくまでも女優を続けたいわけではないらしい。でも、自分を必要とする人たちがいるから辞めない。「理想の女優像はない」けど、辞めずに続ける以上は目標をもつ。それが悩む人という「理想の人間像」。
おそらく、悩む力を維持するためにラーメンを断つのでしょうね。でなければ女優をいつ辞めたっていい人間があそこまでしない。女優ではなく、人としての理想像を追求するために彼女は悩む。悩むためにラーメンを断つ。人は満たされていたら悩まないから。
天性の主演スターと言ったけれど、その裏では泣きたくなるほどラーメンを我慢する血のにじむような努力があった。
関連記事
情熱大陸「岡部たかし」(おもろいだけを追求すると……)
情熱大陸「木南晴夏」への批判について思うこと
女優になりたかったわけではなかった
まず驚いたのは、女優になりたくてなったわけではないということ。
姉のアリスがすでにデビューしており、事務所の関係者から出てもらえませんかと請われ、生まれつき断ることが苦手な性格のためデビューすることになったと。へぇ。
だから女優をやめたいと思ったことは何度もあるらしく、「理想の女優像」を問われても、「特にない。いつ辞めてもいいやって思うことが大事ではないか」みたいなことを言う。
だからといって惰性で続けているわけではない。かつてバスケ一筋で運動神経抜群なのはつとに知られているけど、いまはキックボクシングを習っているとか。へぇ。しかし、あの『海街diary』のサッカーはうまかった。2か月の猛特訓があったとはいえ、はっきり言って中学で3年間やってた私よりうまかった。
なぜやりたいわけでも目標があるわけでもない仕事を続けているのか。
それは負けず嫌いだから。同年代の役者とたくさん共演したときに、その性格が出て、もっと頑張りたいと思ったそうな。(『ちはやふる』ですかね?)
ナチュラル・ボーン・スター
広瀬すずとくれば、アリスと比較しないわけにはいかない。もともと私はすずさんにはあまり興味がなかった。かわいいけど色気がなくて。アリスはとても性的魅力にあふれているのでアリスファンだった。
ところが、いまは断然すずファン。何が変わったかといえば……よくわからない。
『海街diary』の頃と比べれば「かわいい」というより「美しい」といえる顔になった。その顔と、推定Eカップといわれる性徴がありながら、23歳になったいまも少なくとも私には性的魅力が感じられない。まだ子どもって感じがする。女としてはまだまだアリスのほうが上だな、と。
では役者としてはどうか。これはもうアリスでは相手にならない。アリスファンには申し訳ないけど。
今年、『地獄の花園』という映画があり、広瀬アリスは持ち前のガタイを活かして好演していたけど、役どころは「主役になれない脇役」。たいして永野芽郁は「主役はいやだけど主役になってしまう主役」。
これはもう永野芽郁と広瀬アリスそのものの役でしたね。永野芽郁は天性の主演スターであり、広瀬アリスはその資質もあるけど、哀しいかな、脇役を演じても様になってしまう。
すずは仲良しの永野芽郁と同じく天性のスターです。『いのちの停車場』は未見なので何とも言えないが、少なくとも番組で映っていたシーンでは、完全に主役の吉永小百合よりはるかに大きなオーラを放っていた。彼女に脇役は似合わない。
広瀬すず、23歳。
ジョン・ウェイン、キャサリン・ヘップバーン、三船敏郎、クリント・イーストウッド、トム・クルーズの系譜に連なる「天性の主演スター」。ナチュラル・ボーン・スター。
これはもう演技力でどうこうなる問題ではない。「才能」である。アリスの事務所の人も、すずの才能に惹かれて女優への道へ誘ったのでしょう。
「耳がいい」とはどういうことか
すずは今年の夏、本屋大賞を受賞した『流浪の月』の撮影で忙しかったそうな。『流浪の月』は原作がアレだし、脚本と監督が李相日だし、いくらすずと横浜流星というお気に入りの役者が出ていても見に行かないと思う。
それはさておき、こってり李相日にしぼられてたけど、『海街diary』の是枝裕和監督には天性の才能を祝福されていたようです。リハーサル時、口立てで是枝さんがセリフを耳元でささやく。すずはそれをそのまま言うだけ。リハーサルが終わると「耳がいいね」といわれ「お芝居に耳がいいとかあるんだ」と新しい発見をする。
おそらく「耳がいい」とは、是枝さんが口立てで喋るセリフにこめた「感情」を読み取る能力に長けている、ということなんだと思う。
(『海街diary』のときに訪れたラーメン屋の近くでたまたまロケ。7年ぶりに舌鼓を打つ)
すずは考えます。芝居における「耳」とは何か。「気配を感じて振り向く」とト書きが書いてある場合、目から行くのか耳から行くのか、などと考える。是枝さんには訊かなかったわけですね。訊いても教えてくれなかっただけかもしれないけど、彼女はその意味を必死で考えた。
これは単に同年代の役者に負けたくないという理由だけでできることじゃない。
ラーメン
広瀬すずは、4か月かかった『流浪の月』の撮影が終わると、その足でラーメンを食べに行きます。どうやらラーメンに目がないらしい。実際、一口食べただけで涙をこぼしていました。
「ラーメンだけはダメって言われてたんで」という。スタッフと一緒に食べるのはさすがに無理としても、帰宅したときはこっそり食べようとすればできるのに、しなかったということですね。女優をやりたくてやってるわけじゃない、いつ辞めたっていいというわりにはめちゃくちゃストイック。
一番の大好物を4か月も我慢して仕事に打ち込む。好きじゃない仕事にそこまで打ち込めるのは、彼女が最後に言う「悩む人でありたい」からなのでしょう。
注目すべきは「悩む女優でありたい」とは言わず「悩む人」と言うところ。やはり、あくまでも女優を続けたいわけではないらしい。でも、自分を必要とする人たちがいるから辞めない。「理想の女優像はない」けど、辞めずに続ける以上は目標をもつ。それが悩む人という「理想の人間像」。
おそらく、悩む力を維持するためにラーメンを断つのでしょうね。でなければ女優をいつ辞めたっていい人間があそこまでしない。女優ではなく、人としての理想像を追求するために彼女は悩む。悩むためにラーメンを断つ。人は満たされていたら悩まないから。
天性の主演スターと言ったけれど、その裏では泣きたくなるほどラーメンを我慢する血のにじむような努力があった。
関連記事
情熱大陸「岡部たかし」(おもろいだけを追求すると……)
情熱大陸「木南晴夏」への批判について思うこと
コメント
このブログにコメントするにはログインが必要です。
さんログアウト
この記事には許可ユーザしかコメントができません。