『mellow/メロウ』(2020、日本)
脚本・監督:今泉力哉
出演:田中圭、岡崎紗絵、志田彩良、ともさかりえ


mellow1

現代日本の量産監督、今泉力哉監督の2020年作品『mellow/メロウ』を日本映画専門チャンネルで見ました。

ラブストーリーというよりは「好きです」という言葉をめぐるサスペンスドラマといっていいこの映画、最後の「好きです」を省略したのはお見事でしたが、基本的に言葉に寄り掛かりすぎだと感じました。「好き」とは言わずに「好き」を表現するのがラブストーリーだし、映画は「語る」ものではなく、「まず見せ、そのうえで語る」もののはずです。


①情感の醸成
mellow3 (1)

この二人の会話は最小限でよかったと思うんですよね。

「好きです」はストレートすぎるけど、まだ中学生だし、他の表現を使うほうがおかしいし。告白したあと、先輩のほうは普通に男が好きだというのも「男」という単語を使わずに「かっこいいんですか?」というセリフで匂わせる。このへんはとてもいいと思ったんです。


②相似形の面白さ
mellow4

このシーンも面白かった。ともさかりえは旦那の斉藤陽一郎に田中圭のことが好きだから離婚してくれと言ったうえで、旦那同席で告白する。いやいやそんなのありえないと言う田中圭に斉藤洋一郎が激怒する。「妻に失礼だ」と。何より、旦那と離婚を決めてから告白するともさかりえの考え方はいいですよね。ダメだったときの保険をかけない。退路を断っての告白。斉藤陽一郎が怒るのもよくわかる。

そして、この「斉藤陽一郎⇒ともさかりえ⇒田中圭」という片想いの一方通行が、中学生二人の、「後輩⇒先輩⇒田中圭」という一方通行と完全に相似形をなしており、うまいなぁと感嘆しました。被写体との距離、アングルも絶妙です。(ていうか、田中圭モテすぎ)


③なぜ手紙を
mellow2.jfif

しかしメインプロットはこのラーメン店主と田中圭の恋模様なんですよね。この店主を演じる岡崎紗絵という女優がやたらかわいかった。友だちとスイーツを食べるときの、髪を下ろして着飾った姿より、このラーメンを作っている労働者の恰好のほうが可憐だった。

それはともかく、彼女は店を畳んだ日、小市慢太郎演じる父親からの手紙を読みます。逆に田中圭は彼女から「帰ってから読んでください」と渡された手紙を読みます。

この手紙の文面をなぜすべてナレーションで読み上げたり、岡崎紗絵や田中圭が音読するのでしょう?

便箋二枚もある言葉は映画にとってはかなりの分量です。大事なところだけ、それも聞かせるんじゃなく「見せる」べきでは?

せっかく情感の醸成に成功しているのに、言葉の氾濫がその情感を殺いでいるような気がしてなりません。


④セリフの過剰
岡崎紗絵が店をたたむと田中圭に打ち明ける場面もあまりに長すぎます。採録すると……


 夏目が木帆に料金を払う。
木帆「うちのラーメン、おいしいですか」
夏目「え、いや、おいしいですよ」
木帆「本当? お父さんのとはやっぱ違う?」
夏目「まぁ、それは違うかな」
木帆「そうですよね」
  しばし沈黙。
木帆「実は、この店たたもうと思ってるんです」
夏目「え?」
木帆「今月の23日で」
夏目「そっか」
木帆「はい」
  と夏目をチラと見てうつむき、テーブルの食器を片付け始める。
夏目「お店閉めること掲示したりしないんですか? 貼り出したり」
木帆「そういうことしたほうがいいんですかね」
夏目「そりゃそうですよ!」
木帆「何かそういうのいやなんですよね」
夏目「どうして?」
木帆「んー、何か終わるのがわかってるから来る人の気持ちって、しょせんその程度っていうか。ほら、もうすぐ死ぬ人のお見舞いとか。なくなっちゃう映画館に通うとか。何かそういうのは、何かあれなんですよね、埋め合わせって感じがして」
夏目「そうかな。みんな忙しいから大切だけど忘れちゃってるだけで、そこにちゃんと愛情はあると思うけど」
木帆「それって相手のためっていうより自分のためですよね」
夏目「え?」
木帆「最後に自分がそこに行ったとかその人に会えたっていうのが大事なんでしょ。それって愛情じゃなくて情じゃないですか? 下手したら同情でしょ」
夏目「情じゃダメかな。どんな形であれ、ちゃんとそこに気持ちがあること、僕だったらうれしいけど。よくわかんないけど、ただ、フッとなくなったら悲しむ人、絶対いると思う」
  

長い。後半が長すぎる。私なら↓こうします↓。書き換えたりしてませんよ。省いただけです。


  夏目が木帆に料金を払う。
木帆「うちのラーメン、おいしいですか?」
夏目「え、いや、おいしいですよ」
木帆「本当? お父さんのとはやっぱ違う?」
夏目「まぁ、それは違うかな」
木帆「そうですよね」
  しばし沈黙。
木帆「実は、この店たたもうと思ってるんです」
夏目「え?」
木帆「今月の23日で」
夏目「そっか」
木帆「はい」
  と夏目をチラと見てうつむき、テーブルの食器を片付け始める。
夏目「お店閉めること掲示したりしないんですか? 貼り出したり」
木帆「何かそういうのいやなんですよね」
夏目「どうして?」
木帆「んー、何か終わるのがわかってるから来る人の気持ちって、しょせんその程度っていうか。それって愛情じゃなくて同情でしょ」
夏目「よくわかんないけど、ただ、フッとなくなったら悲しむ人、絶対いると思う」

 

これだけで充分伝わると思う。言葉を弄しすぎなのがとても気になりました。中学生の会話とか、ともさかりえのシーンとか、ちゃんと最小限のセリフだけで伝えている素晴らしいシーンがあるのに、肝心のメインストーリーで言葉が過剰なのがとても残念でした。

映画監督は言葉の力を信じてはいけないと思います。


mellow
小市慢太郎
2020-07-08


このエントリーをはてなブックマークに追加