木村文乃が出てるからというただそれだけの不純な動機で見始めた『#家族募集します』。第3話を見終えての感想です。


いま必要とされているのは「おせっかい」
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もう1か月も間が空いたので、仲野太賀がなぜ「#家族募集します」というハッシュタグで家族を募ったのか、木村文乃の細かい設定(旦那とは離婚なのか死別なのかとか)とか忘れてしまった。重岡大毅はさすがに主役だから憶えてるし、岸井ゆきのはやはり濃いキャラなので憶えてますけど。

仲野太賀以外はみな子どもを一人連れた親一人子一人の家庭なので、お好み焼き屋の二階に一緒に住もうということになったんでしたよね、前回。

いざというときに頼れる人はいるかとの岸井ゆきのの問いに、重岡大毅は、母親は長野で親の介護をしているから無理だし、死んだ妻・山本美月の親は比較的近いがやはりそういう事情だから頼りにくい、という。岸井ゆきのも、元夫とはもう6年も会ってないから頼れない、という。

ところが木村文乃は「全部自分のことは自分でするつもりなんで」と第1話からの頑なな姿勢を崩さず、わが道を行くという感じ。

事情は人それぞれだけど、「いざというとき誰にも頼れない」という孤立した状態は同じ。それなら一緒に住んだほうがセーフティーネットになっていいじゃない? ということになる。木村文乃は反対するが。

何でもかんでも「自己責任」で片づけられ、挙げ句の果てには、未知のウイルスにかかっても自己責任でという始末のこの国ではもう「公助」は当てにできない。

それなら「共助」しかねーだろ! というのがこのドラマの主張でしょう。何かにつけて暑苦しい仲野太賀ですが、彼の「おせっかい」がなかったら、いまごろ3人のシングル親たちはどうなっていたかわからない。岸井ゆきの以外の二人はちゃんとした仕事があるといっても、支えてくれる人たちがいても大変なのだから、精神的破綻に追い込まれていてもおかしくない。

内田樹先生もよく言っているけれど、いまの日本に本当に必要なのは仲野太賀のような暑苦しいまでの「おせっかい」だと思います。

しかも、「生活保護を受ける人に税金を払っているわけではない」「ホームレスなんて排除すればいい」と発言して謝罪に追い込まれたメンタリストDaigoへの見事なアンチテーゼにもなってますよね。

生活保護を受けている人たちやホームレスのことを「自己責任」で片づけ、世の中の役に立たない人間は死んでもかまわないなんて、何という恥ずかしい言葉か。Daigoは謝罪の際、「勉強し直す」と言ってましたが、このドラマも見たほうがいいんじゃないでしょうか。(しかしいくら謝罪したところであの発言の代償は高すぎるほど高いと思いますがね)


「一緒に泣こう」
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第1話で息子に母親の死を伝えられていないと涙ながらに語った重岡大毅の芝居は素晴らしかったし、今回、ちゃんと向き合って真実を伝えられたのもよかった。

「淋しいときは一緒に泣こう」というセリフがいいですね。ひと昔前の作品なら「淋しくても男なんだから泣いてはいけない」というところでしょうが、「一緒に泣こう」というのはとてもいい。

民俗学者の柳田國男も「日本人は泣かなくなった」と嘆いていたといいます。泣かないほうがいい場面ももちろんあるでしょうが、親子二人でいるとき、仲間しかないときなら大いに泣けばいいと思う。泣くくらいつらいことを共有するのも「共助」のうち。

いや共有なんかせず自分だけで何とかしよう、という何でもかんでも自己責任論のいまの風潮を体現しているのが木村文乃の役なのですが、これがとても残念でした。


木村文乃の残念さ
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彼女はすべては自己責任だから他人に相談しないし、他人からの相談も受けない、というかなりドライな考えの持ち主。

でも、何だかんだと第1話からずっと仲野太賀が呼びかけると必ず来るし、今回もパンケーキ風お好み焼きの試食で呼ばれると、「実験台にしてほしくないんですけど」と文句を言いつつ来るのだから、やはり心のどこかで誰かに頼りたい、甘えたいという気持ちがある。だけど頼りたくない、頼ってはいけない、他人に迷惑をかけてはいけないというイデオロギーに毒されてしまっている。

だから、この『#家族募集します』で最も困ったキャラは岸井ゆきのではなく、木村文乃のはずなのに、第3話で重岡大毅の「一緒に泣こう」という言葉を聞くとコロッと変わって「みんなと一緒に住む」と言い出すのにはちょいとがっかりしました。

職場の同僚の「相談に乗りますよ」にも冷淡な言葉しか返さなかったのに(まぁ、あの男は下心が見え見えなのもありますがね)いとも簡単に共助グループに入ることになる。うーん。

もっとこう、仲野太賀が呼びかけても来ない。みんなで家に押しかける。よけい反発する。でも、みんなで頑張って彼女の心を解きほぐす。とか、「木村文乃を仲間に入れるエピソード」が1話だけでも必要だったんじゃないでしょうか。頑なな心があまりに簡単にほぐされすぎだと思いました。


重岡大毅の悲しみ
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再び主役の重岡大毅。

彼は会議の席で息子に母親の死をどうやって伝えるべきかを考えるあまりまったく話を聞いておらず、頓珍漢な発言をしてしまったとき、「すいません、ボーっとしてました!」と正直に謝っていました。「得なキャラしてますね」と後輩らしき女性から言われてましたが、おそらく彼は自分がそういうキャラだということを少しは計算して正直に言ったのでしょう。

しかしながら「正直でいい」と許される彼ですら、山本美月の死を子どもに伝えることができない。それぐらい彼女の死は彼にとって大きいものだということですね。

息子にちゃんと伝えたあと、家で妻の写真を抱きしめて号泣してました。息子には「一緒に泣こう」と言っていたのに、独りで泣く。息子が淋しくて泣いていたら一緒に泣くつもりでも、自分から泣くのを息子に見せられない。グッときましたね。

さて、来週から新しいシングル親が登場するようですが、これからどのように展開/転回していくのか、とても楽しみです。


『涕泣史談』を読む―柳田國男の「泣き」観―
阿部 秀雄
日本抱っこ法協会
2017-11-21



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