脳科学者・中野信子先生の『キレる!』を読んだのが縁で読み始めた『深夜のダメ恋図鑑』、いつの間にか最新第8巻が発売されていたようです。

前回までの感想は、どうしても『キレる!』に「女たちの上手なキレ方を学べ」と書いてあったので、そういう観点からばかり読んでしまってましたが、だんだんとキャラクターや物語になじんできました。(以下ネタバレあります)
男前・市来
第7巻の最後では、佐和子の元カレ・諒くんと同じくらいのダメンズかと思いきや、なかなかかわいげがあって男気もあると少しずつ判明し始めた市来くんの土下座が描かれたんでしたよね。
荒くれのナンパ男をどうにかしようと、少しも悪くないのに幼少の頃から喧嘩慣れしてないので謝る癖がついている市来くんは、土下座して謝って許してもらう。はずが……

耳年増の処女なのに、元ヤンなのでこんなことを普通に言ってのける円が助ける対象だったから、逆に円がハンドバックの一撃で倒し、金玉つぶすぞこの野郎! とすごんで一件落着。
別に自分が土下座なんかしなくても円なら独りで切り抜けられた。なのに自分は醜態をさらした。それで市来くんは「俺は自分自身にムカついていた」というのが前巻のラストシーン。このあとどうなるのかと思ったら……
最新第8巻ではその直後のシーンが描かれていました。
女一人守ることもできず、しかもその女に逆に守られて自己嫌悪に陥る市来くんに対して円は、
「男だからとか女だからとか役割を決めずに、それぞれができることをやればいいんじゃない? あたしならあんなふうに謝れないし、あたしを守ろうとして謝ってくれたんだからうれしいよ。かっこよかった。ありがとう」
と、なかなか男前なことを言うんですね。
さて、私がこのエピソードを読んで思い出したのは、『タッチ』のあだち充さんが描いた短編マンガです。タイトルは忘れたし、収録されていた短編集のタイトルすら憶えてません。
主人公は空手三段くらいの女の子で、隣に住む幼馴染の同級生とめちゃ仲がいい。その男は勉強はできるけど運動はからきしダメで、喧嘩なんてとてもとても、という感じなんですね。
主人公の女の子はとてもかわいいので、腕に覚えのある猛者たちが次々と交際を申し込んでくる。勝ったらつきあうという条件で戦ってもいつも主人公が勝ってしまう。それでも、今度ばかりは負けるだろうという相手が来て、くだんの男の子は彼女を守るために、負けるのをわかっていながら敵の前に立ちはだかるんですね。
案の定、男の子はコテンパンにやられるんですけど、主人公はその猛者までやっつけてしまい、大好きな男の子を介抱しながら「強いだけが男じゃないよ」とつぶやくラストでした。
「強いだけが男じゃないよ」というのは、まさか弱い男が好きという意味ではないでしょう。「強い」か「弱い」かが問題なのではなく、自分のために立ち上がる「勇気」をもっているかどうか。
だから、市来くんも円を守ろうという勇気はもっていたわけだからもっと胸を張っていい。それを「女に守られた軟弱者」と自分を蔑むのはやめなよ、と円が言うんですが、そんな円に市来くんは勝手に口が動いて「あんたのこと好きだわ」と告白してしまうんですね。
恋愛話の形を借りて、女をセックスもできる家政婦としか思ってない男どもへのブチギレ劇だったはずなのに、途端に胸キュン王道ラブストーリーへと転回⁉
と思いきや、円に男性経験がないからか、「いやぁ、あたしも別に市来さんのこと嫌いじゃないよ」などと告白されたことなどなかったかのように(確かに彼女の中では「なかった」んでしょうな)すたこらさっさと去っていってしまう。
立場のない市来くんですが、今回の第8巻では円や佐和子ばりのブチキレを見せくれます。
市来の痛快ブチキレ

市来くんの登場前は男で一番大きい役だった、佐和子さんの元カレ・諒くんの今カノがとんでもない問題児で、諒くんや他の男たちが女たちを手前勝手な都合で「使える女」かどうかで判断しているのと同様、この女も男を利用することしか考えていない。
諒くんへの言い訳・なだめすかし・何でもありの痴話喧嘩を横で見ていた市来くんは、どちらが正しいかよくわからず(ほんとは諒くんが正しい)とりあえず中立の立場を取る。困った諒くんは煙草を買いに外へ。残った市来くんに彼女は胸元をはだけて寄ってきて、「市来さんが味方してくれてうれしかったよ」というと、我らが市来くんは、男の中で一番まともな市来くんは、円に告白されても相手にされなかった市来くんは、画像のように、
「いや、それ男へのセクハラだから」
の一撃で倒すのでありました。痛快でしたね。女たちがどうしようもない男どもへ怒りの鉄槌を下すということで始まった作品ですが、獅子身中の虫、女にも女の敵がおり、そういう女の存在がどうしようもない男の存在を許しているという、ジェンダー問題は完全な円環構造をしているということが判明しました。
お見事!
今回の第8巻では、前巻までちょいと邪魔だった千代さんのエピソードがなかなか面白くなってきたこともうれしい。
彼氏の八代さんとのあれこれが、あまり円や佐和子のブチキレ劇と絡んでこなくてつまらないと思ってたんですが、結婚が決まり、姓が変わることでの各種手続き、不動産屋には「コンロの前にしか存在してない人」扱いされてマリッジブルーに陥ってしまった千代さん。これからどんなブチギレぶりを見せてくれるのか楽しみです。
でも、一番の楽しみは円と市来くんの恋模様ですがね。
関連記事
1~3巻感想(女たちの痛快なブチギレ劇!)
4~7巻感想(ダメ男たちがいとおしい)
9巻感想(佐和子と五十市、深い批評性)
最終10巻感想(暴力と言葉の狭間で)


前回までの感想は、どうしても『キレる!』に「女たちの上手なキレ方を学べ」と書いてあったので、そういう観点からばかり読んでしまってましたが、だんだんとキャラクターや物語になじんできました。(以下ネタバレあります)
男前・市来
第7巻の最後では、佐和子の元カレ・諒くんと同じくらいのダメンズかと思いきや、なかなかかわいげがあって男気もあると少しずつ判明し始めた市来くんの土下座が描かれたんでしたよね。
荒くれのナンパ男をどうにかしようと、少しも悪くないのに幼少の頃から喧嘩慣れしてないので謝る癖がついている市来くんは、土下座して謝って許してもらう。はずが……

耳年増の処女なのに、元ヤンなのでこんなことを普通に言ってのける円が助ける対象だったから、逆に円がハンドバックの一撃で倒し、金玉つぶすぞこの野郎! とすごんで一件落着。
別に自分が土下座なんかしなくても円なら独りで切り抜けられた。なのに自分は醜態をさらした。それで市来くんは「俺は自分自身にムカついていた」というのが前巻のラストシーン。このあとどうなるのかと思ったら……
最新第8巻ではその直後のシーンが描かれていました。
女一人守ることもできず、しかもその女に逆に守られて自己嫌悪に陥る市来くんに対して円は、
「男だからとか女だからとか役割を決めずに、それぞれができることをやればいいんじゃない? あたしならあんなふうに謝れないし、あたしを守ろうとして謝ってくれたんだからうれしいよ。かっこよかった。ありがとう」
と、なかなか男前なことを言うんですね。
さて、私がこのエピソードを読んで思い出したのは、『タッチ』のあだち充さんが描いた短編マンガです。タイトルは忘れたし、収録されていた短編集のタイトルすら憶えてません。
主人公は空手三段くらいの女の子で、隣に住む幼馴染の同級生とめちゃ仲がいい。その男は勉強はできるけど運動はからきしダメで、喧嘩なんてとてもとても、という感じなんですね。
主人公の女の子はとてもかわいいので、腕に覚えのある猛者たちが次々と交際を申し込んでくる。勝ったらつきあうという条件で戦ってもいつも主人公が勝ってしまう。それでも、今度ばかりは負けるだろうという相手が来て、くだんの男の子は彼女を守るために、負けるのをわかっていながら敵の前に立ちはだかるんですね。
案の定、男の子はコテンパンにやられるんですけど、主人公はその猛者までやっつけてしまい、大好きな男の子を介抱しながら「強いだけが男じゃないよ」とつぶやくラストでした。
「強いだけが男じゃないよ」というのは、まさか弱い男が好きという意味ではないでしょう。「強い」か「弱い」かが問題なのではなく、自分のために立ち上がる「勇気」をもっているかどうか。
だから、市来くんも円を守ろうという勇気はもっていたわけだからもっと胸を張っていい。それを「女に守られた軟弱者」と自分を蔑むのはやめなよ、と円が言うんですが、そんな円に市来くんは勝手に口が動いて「あんたのこと好きだわ」と告白してしまうんですね。
恋愛話の形を借りて、女をセックスもできる家政婦としか思ってない男どもへのブチギレ劇だったはずなのに、途端に胸キュン王道ラブストーリーへと転回⁉
と思いきや、円に男性経験がないからか、「いやぁ、あたしも別に市来さんのこと嫌いじゃないよ」などと告白されたことなどなかったかのように(確かに彼女の中では「なかった」んでしょうな)すたこらさっさと去っていってしまう。
立場のない市来くんですが、今回の第8巻では円や佐和子ばりのブチキレを見せくれます。
市来の痛快ブチキレ

市来くんの登場前は男で一番大きい役だった、佐和子さんの元カレ・諒くんの今カノがとんでもない問題児で、諒くんや他の男たちが女たちを手前勝手な都合で「使える女」かどうかで判断しているのと同様、この女も男を利用することしか考えていない。
諒くんへの言い訳・なだめすかし・何でもありの痴話喧嘩を横で見ていた市来くんは、どちらが正しいかよくわからず(ほんとは諒くんが正しい)とりあえず中立の立場を取る。困った諒くんは煙草を買いに外へ。残った市来くんに彼女は胸元をはだけて寄ってきて、「市来さんが味方してくれてうれしかったよ」というと、我らが市来くんは、男の中で一番まともな市来くんは、円に告白されても相手にされなかった市来くんは、画像のように、
「いや、それ男へのセクハラだから」
の一撃で倒すのでありました。痛快でしたね。女たちがどうしようもない男どもへ怒りの鉄槌を下すということで始まった作品ですが、獅子身中の虫、女にも女の敵がおり、そういう女の存在がどうしようもない男の存在を許しているという、ジェンダー問題は完全な円環構造をしているということが判明しました。
お見事!
今回の第8巻では、前巻までちょいと邪魔だった千代さんのエピソードがなかなか面白くなってきたこともうれしい。
彼氏の八代さんとのあれこれが、あまり円や佐和子のブチキレ劇と絡んでこなくてつまらないと思ってたんですが、結婚が決まり、姓が変わることでの各種手続き、不動産屋には「コンロの前にしか存在してない人」扱いされてマリッジブルーに陥ってしまった千代さん。これからどんなブチギレぶりを見せてくれるのか楽しみです。
でも、一番の楽しみは円と市来くんの恋模様ですがね。
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