2021年07月02日

逮捕者が出た「ファスト映画」。


fast-cinema

もうとっくにすべてのファスト映画が削除されているのかと思いきや、ついいましたがYouTubeで検索すると見れました。

他人が作った映画を編集して見せて広告収入を得るというのは明らかな著作権法違反であり、逮捕は当然でしょう。

「ファスト映画」でググってみると、「音楽業界は当初YouTubeに違法にアップされることを拒絶していたが、いまは許容している。なぜなら、YouTubeにアップされて多くの人に聴かれたほうが収益が上がるからである。ファスト映画で逮捕者を出したのは業界としては悪手だった」というお経済学者のブログが出てきましたが、言語道断ですね。すべては金なのか、と。

いや、金の問題だけではありません。それがこの記事の主旨です。


作品を味わうということ
ajiwau

芸人の兼近が、「ニュースなど情報を知るだけなら倍速で見ますが、映画とかコントとか漫才とか、そういうのは独特の『間』が味わえないので倍速で見るなんてありえないですね」と言っていました。

ファスト映画は倍速で見るのではなく10分程度に編集されたものを見るのだからもっとありえないと思うのが普通の感覚。

なのに、なぜファスト映画なるものが若者たちの間でかくも流通していたのか。


内容さえわかればいい
ファスト映画では10分程度に編集された映像に、あらすじを説明するナレーションがついています。最近の若者はコスパというかタイパ(タイム・パフォーマンス)を重視するらしく、限られた時間で大量の情報を摂取したいと。2時間も映画そのものを見るのはかったるい。10分で内容がわかればそれでよい。

最近はオタクがもてはやされていて、ひとつのことに熱中しているのはかっこいいと思われるそうです。だから大量の映画を見たい要求にファスト映画は応えているとか。

その気持ちはわからんでもないというか、私も昔は「できるだけたくさんの本を読みたい」と速読術を身につけようとしたことがあります。が、やめました。あれは「読書」ではないからです。内容はわかるかもしれないが、文体の妙などは味わいようがないからです。

若者たちは映画を「情報」と捉えている。それ自体は間違っていません。

問題は、彼らが自分自身をも「情報」と捉えていることです。


人間は変化する
ファスト映画を愛好する人が完全に見落としているのは、自分という人間は死ぬまで不変だと思っていることです。そうでなければ、10分のナレーションに要約された物語でその映画を見た気にはならないでしょう。

確かに内容はわかる。そのファスト映画を10年後に見ても20年後に見ても印象は変わらないでしょう。

しかし、映画や小説などの作品そのものは変わることがあるのです。いや、変わることがほとんどです。なぜなら自分自身が変化するからです。

作品は「情報」だから永遠不変です。でも人間は変わっていく。だから作品を世に出した当時は高評価だったものが時がたつと見向きもされなくなったり、その逆もよくあること。

ある映画を見て感じたのとはまったく違うことを10年後に見たときに感じるほうが普通です。そうやって人は自分の変化を感じ取る。

解剖学者の養老孟子さんは、かつてこんなことを言いました。

「情報へ変化しないが人間は変化する。なのに人間も情報同様に変化しないと考えるようになった。それが『情報化社会』です」

ファスト映画を見て映画そのものを見たのと同じ扱いにするというのは、自分自身をいつまでも変化しない「情報」と見なす誤謬に基づいています。


「いま」しか見えていない
ファスト映画を見る動機として、オタクとして大量の情報を摂取したいというものの他に「できるだけ損したくない」というのがあるそうです。

そりゃ私も損したくないですよ。つまらない映画を見たら「金返せ!」と思いますし。でも、時がたてばたいていのことは「いい思い出」になる。「あんなひどい映画に金を出したこともあったなぁ」と10年後の自分は思うかもしれない。

ファスト映画を愛好する人は「時間」の概念も欠けていると思います。「いま損をしたくない」という思いが強すぎる。長い目で見れば収支トントンかもしれないのに「長い目で見る」ということを知らない。(ひどいものを見るという経験が鑑賞眼を鍛えるということも忘れられています)

キラキラネームが影響しているのかもしれません。

ついこないだ、「颯太」と書いて「ルンタ」という人がいました。赤ちゃんや幼稚園児ならそんな名前でもいいでしょうが、社会に出て、中年になり、お爺さんになってもルンタでいいんでしょうか? キラキラネームをつける親たちは自分の子どもの「いま」しか見えていない。

そんな親に育てられたら「いま損をしたくない」という強迫観念に憑りつかれるのも無理はないのかもしれません。


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