『Search/サーチ』の監督最新作『RUN/ラン』を見ました。(なぜか邦題がどちらも原題とそのカタカナ表記の併記。偶然でしょうけど。以下ネタバレあります


物語のあらまし
RUN5

カメラが見つめるのはほぼ全編この親子二人のみ(むろん他にも登場人物はいるけどすべてその他大勢扱い)。娘は喘息や下半身不随など重度の障碍を負っていて、服薬なしには生きていけないし、薬をもらって来てくれる母親なしには生きていけない。

と思ったいたら、自分が飲むはずの薬に自分の名前ではなく母親の名前が書かれている。え、これは母親に処方された薬? しかしその後、母親がもってきた薬瓶には自分の名前が書かれたシールが貼られている。おかしいとこっそりシールをはがすと、その下にさっきの母親の名前が書かれたシールが出てくる。

母親は自分に薬を飲ませているのではなく、毒を盛っているのだと勘づいた娘は、持ち前の行動力でどういう薬かを調べます。

RUN4

映画館を抜け出して薬局に向かい、さらに薬局の中で行列に割り込むところなど、山田太一さんのいまだに語り継がれる名作「車輪の一歩」の身体障碍者たちに彼女の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいですね。自分は障碍者なのだから周囲に迷惑をかけて当然なのだ、という感覚。これはアメリカだからなのか。21世紀も5分の1を過ぎたから可能になった考え方なのか。興味深い。

それはともかく、主人公は、その薬が本当は犬が飲む薬で、人間が飲むと筋弛緩を起こすことを知ります。自分の障碍は先天的なものではなく、母親が作ったものだった!

ここからはほとんど殺し合いですね。母親の本当の娘は生後2時間余で死亡したことが判明し、主人公はまったく別の夫婦から略取された子どもだったことが判明します。母親は「かごの鳥」がほしくて子どもを誘拐し、障碍者に仕立て上げたわけですね。

最終的に二人の戦闘は主人公の勝利に終わるんですが、全体的な印象として、母親があまりに狂人すぎるし、主役にはもうちょっとかわいい子を配してほしいと思ったし、見なかったからといって特に後悔する作品じゃないな、というもの。

しかしそれだけならこんな感想など書きません。この映画には特筆すべきところが二つあるのです。


①主人公の綱渡り
RUN

部屋に閉じ込められた主人公はこのままでは殺されると思い、見事な手口で脱走に成功します。この一連のあの手この手が素晴らしかった。

まず、コードが何かをすべてつないでそれをもっていく。私は最初、命綱だと思ってました。二階から落ちても最小限の被害で済むようにするために。次に窓から屋根の上に出る。そのとき、口に何かを含んでいるんですよね。何をくわえてるんだろうと思ったら……

屋根を這いずって別の部屋の窓まで来ると、あれは半田ごてみたいなものかな? とにかく熱くて尖ったものでガラス窓を突く(あ、そのためのコードだったのね、と初めて気づいた)。でも、ひびが入るだけで割れてくれない。そこで口に含んでいた水を吹きかける。さすがに急激に冷えたのでガラスは割れ、主人公は部屋に入り、脱出に成功します。ガラスを割るための半田ごてと口に含んだ水。あの手この手がとても面白い。人食い鮫に酸素ボンベをくわえさせてそれを撃って大逆転! というアレとまったく同じ。部屋にもぐりこんだあと喘息で息が上がってしまい、ぎりぎりで薬に手が届き九死に一生を得るというのもセオリーだけれどしっかり押さえているのが素晴らしい。

ただねー。
いまネットフリックスに再入会して『全裸監督2』を見てるんですが、高層マンションの上のほうの部屋のベランダで電話する山田孝之を最初正面から捉えていたカメラがぐるっと上方へ旋回して俯瞰になって山田の頭頂部と地上が同時に映りこむショットがあるじゃないですか。

『RUN/ラン』の屋根のシーンでも俯瞰とかそういう手はなかったんでしょうか。車道で何度かクレーンショットがあってどれもよかったですが、あの屋根のシーンでこそクレーンを使ってほしかった。それに、あのコードが命綱じゃないんだったら、もっと落ちる/落ちないのサスペンスもほしかった。


②怯える母親の本気メイク
RUN3 (1)

さて、銃撃戦もあった末に主人公の勝利に終わり、母親は撃たれて寝たきりになっています。主人公はさすがに長く毒を盛られていたためにまだ満足には歩けないけれど、いずれ二本足で歩けるようになるだろうことが暗示されます。本当の両親にも会えたようです。よかった。

そのあと、画像のシーンがオーラスなんですが、なぜ母親は怯えているのでしょうか? 実は主人公が自分が飲まされていた薬をこっそり取っていて、いま母親に飲ませているというオチなんですが、それで怯えているわけです。ただこのサラ・ポールソンという女優さんはまだ47歳でまあまあきれいな人ですよ。それをいくら毒を盛られて怯えるシーンだからって、ほとんど老婆にしか見えないくらい本気でメイクするアメリカ映画人の心意気に深く感動した次第。

だって、この程度の映画でここまで力入れなくても……と普通なら思うじゃないですか。それでも手を抜かない。あまりに本気すぎて笑ってしまったくらいですから。恐怖と笑いは紙一重。

予算はB級でも魂はA級というのが本当の「B級映画」。『RUN/ラン』はまさしくそんな作品で、アメリカ製B級娯楽映画が大好きな私は大いに溜飲を下げたのでありました。


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