映画学校の面接試験で「嫌いな映画は何?」と訊かれて即座に『ニュー・シネマ・パラダイス』と答えた私は、同じ好みのポンポさんが一瞬で大好きになりました。ツイッターでやたら評判のいい『映画大好きポンポさん』。


『映画大好きポンポさん』(2020、日本)
脚本・監督:平尾隆之
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まだ小学生みたいな見た目のポンポさんは伝説的映画人の孫娘で、幼い頃からお爺さんの膝の上で映画の素養を身につけたニャリウッドのプロデューサー。でもポンポさんは主人公ではなく、主人公は映画が好きすぎて誰も友だちがいなかったマニアックな映画青年のジーン君。


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彼に15秒の予告編を作らせたらなかなかだったので監督をさせることに決めたポンポさんは、映画は90分以内でないと不満。だから2時間を超える『ニュー・シネマ・パラダイス』が嫌いだとか。私が嫌いな理由は長いからじゃないけど)

編集は映画演出を学ぶうえで非常に重要なので編集の腕を買って監督に起用というのはわからないではないけど、10年休んでいた伝説的名優の復帰作に演技指導経験のない若造を抜擢というのはちょいとリアリティがないような。

とはいえ、編集を重んじるポンポさんの映画らしく、この『映画大好きポンポさん』は超絶的なまでの編集技術でどんどん話を進めていきます。

しかし、あまりに編集に重きを置いてやしませんかね? ジーン君が演技指導するシーンも皆無だし。

編集に打ち込むジーン君は「取り直しが必要」とポンポさんに頭を下げ、ポンポさんは表向き怒ったふりをするけど、監督は傲慢でわがままでないといけないと考えているため実はうれしいとか、撮り直しが押しすぎて0号試写に間に合わず出資者が去っていき、その窮地を旧友のバンカーが救ってくれるとか、話がうまくいきすぎだけど、なぜかご都合主義とは思わず、ノリのいい物語展開に膝を打っていました。

ところが、理解ある頭取のおかげで資金繰りもうまくいき、あとは新たな0号試写の日に間に合わせるだけというときにジーン君が倒れてしまう。でも、自分の映画を完成させるために病院を抜け出して決死の覚悟で完成させるんですが、あのへん何かおかしい。

主演女優ナタリー・ウッドワード(←この名前は笑った)があとどれぐらい切らないといけないのか、と訊くと、3時間は、と答える。映画は90分のポンポさん製作映画なのだから、90+180で270分あるわけですよね。それを90分って3分の1じゃないですか。そんなに切らないといけないというのは、そもそも脚本が長すぎるんですよ。書いたポンポさん自身に問題があると思う。なぜ90分至上主義者がそんなに長い脚本を書いたのか。なぜ誰もその時点で疑問を呈さなかったのか。

それに、ニャカデミー監督賞を晴れて受賞することになるジーン君はスピーチでこの映画で一番自信のあるところはと訊かれて「90分に収めたところです」と答えるんですが、「映画は90分!」とは『見るレッスン』でも蓮實重彦が言ってましたが、それには異論はないものの、あまりに「言いたいこと」が前面に出てしまっていて白けました。

とはいえ、つまらなかったわけではなく、エンドロールを除くとちょうど90分のこの『映画大好きポンポさん』は楽しかったです。

でも一番楽しかったのは物語ではなく、あくまでも編集の巧みさで、次が寒色と暖色のバランスのいい画作りでした。


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ポンポさんの髪の毛と衣裳の配色がとてもよく、それは上着が暖色系、ズボンが寒色系のジーン君も同様。


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こういう何でもない場面でも色のバランスがとてもよかった。

だから、もうちょっと内容にリアリティをこめたり、編集のことばかりでなく演技指導とかカメラワークとかにも触れてほしかった。録音部出身としては、音のデザインに関して一言もなかったのは非常に不満。


映画もまた編集である――ウォルター・マーチとの対話
マイケル・オンダーチェ
みすず書房
2011-06-22




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